第十八話 廃村への道
朝日が昇るころ、僕たちはギルドの前に集合した。
「おっ、ちゃんと来たな。」
カインが腕を組みながら僕たちを見て、不敵に笑う。
「お前ら、途中で怖くなって逃げたかと思ったぜ?」
「バカ言うな。お前こそ、逃げ出すんじゃねぇぞ?」
クリスが肩をすくめながら挑発する。カインもニヤリと笑い、互いに軽く睨み合う。
僕はそのやり取りを横で見ながら、慎重に荷物を確認した。回復薬、包帯、そして貴重な爆発石。何が起こるかわからないし、万全の準備をしておくに越したことはない。
「それじゃあ、出発するか。」
カインが言い、僕たちは廃村へ向かうことになった。
◆
森の中を進む。道なき道を歩きながら、僕たちは目的地へと向かった。
森の奥へと進むにつれ、周囲の雰囲気が徐々に変わっていく。湿った土の匂いが強くなり、頭上を覆う木々の葉が太陽の光を遮る。薄暗い空間が広がる中、僕たちは慎重に足を進めた。
——そして、ついに。
「魔物の気配がします。」
アリスの声が静かに響いた。
「っしゃ、狩りの時間だ!」
カインがそう言うと、彼の仲間たちが剣を抜く。草むらの中から、獰猛な唸り声が響いた。大量のゴブリン。僕たちは即座に陣形を整え、迎え撃つ。
「二手に分かれよう。僕たちは左から行く!」
そう僕が言うとカインたちは仲間同士で固まった。
そして、カインが指示を出すと、彼の仲間たちがすぐさま動いた。彼らの連携は見事なもので、一人が前に出て注意を引きつける間に、別の者がゴブリンの側面から攻撃を仕掛ける。互いの動きを計算し尽くしたかのような連携は、長く共に戦ってきた経験があるからこそ成せるものだった。
「グギィ!」
ゴブリンの短剣が振り下ろされるが、カインの仲間の一人が巧みに受け流し、すぐさま反撃を加える。鋭い剣閃がゴブリンの喉を裂き、そのまま崩れ落ちる。
「へ、雑魚が」
カインが不敵に笑いながら、残るゴブリンへと突進する。彼の剣が鮮やかに閃き、次のゴブリンの胴体を切り裂いた。
一方——
「こっちにもいるぜ!」
クリスが勢いよく駆け出した。彼女の動きは迷いがなく、軽やかにゴブリンたちの間を駆け抜ける。
「遅い!」
ゴブリンが短剣を振り下ろすが、クリスはそれを紙一重でかわし、逆に踏み込む。彼女の剣が一直線に突き出され、ゴブリンの胸を貫いた。
「グギィャァ!」
叫び声を上げる暇もなく、ゴブリンはその場に崩れ落ちる。クリスは一瞬も無駄にせず、すぐに次の敵へと向かう。その動きはまるで舞うようで、敵の攻撃をかわしながら一方的に斬り伏せていく。
その傍らでは——
「グギィ……ッ!」
スライムゾンビが音もなく動き出し、草むらに潜んでいたゴブリンを絡め取る。
その瞬間、絶叫が響いた。
「ぎゃぁぁぁっ!」
スライムゾンビは容赦なくゴブリンを包み込み、そのまま全身を溶かしていく。その様子を見たカインの仲間の一人が、思わず息を呑む。
「うえっ気味の悪い戦い方しやがる……。」
カインの仲間の一人がそう呟くが、僕を含めて誰もそれに反論はしなかった。
そして——
「はぁっ!」
僕は慎重に剣を構え、目の前のゴブリンと向き合う。ゴブリンは僕に狙いを定め、短剣を構えた。
「来い……!」
僕はゴブリンの動きをじっくりと観察する。以前の僕なら、焦って動いていただろう。しかし、今は違う。
——相手の出方を待ち、隙を突く。
ゴブリンが勢いよく飛びかかってくる。だが、僕は動じない。
「……そこだ!」
ゴブリンが短剣を振り下ろす直前、僕は一歩踏み込んで、剣を横に払う。
「グギィッ!?」
ゴブリンは自分の攻撃が届く前に、その首を刈られた。僕はすぐに体勢を整え、残る敵へと向かう。
——僕も、確実に強くなっている。
そして、戦いが終わった。
「カイン、君たちも強いね。」
僕は率直な感想を述べた。確かに嫌味ばかり言ってくるが、彼らの戦いぶりは見事だった。
「フン、当然だ。だけど、お前らはクリスと気色悪いスライムだけだな。」
カインは鼻を鳴らし、煽ってくる。しかし、それは事実だ。僕単体だとカインたち個人と戦い辛勝するくらいだ。彼らには連携がある。僕らは個人で戦っている分、浮いた僕は大きな戦力とはならない。
「へ、俺たちはパーティーだ。俺の手柄もバレットの手柄だ。それに、お前らその人数で倒した数そんだけかよ。」
そう言ってクリスは意趣返しとばかりに煽る。
「うっせえ!」
まだ、かなり嫌煙しているようだ。
◆
結構進んだ、廃村はもう近い。
「このまま進むのは危険です。今日はここで野営しましょう。」
アリスが提案する。
「おいおい、暗くなる前に行けるだけ近づこうぜ?ビビッてんのか?」
「無理は禁物だ。相手はゴブリンの集団近づくと斥候がいる可能性が高い。」
「ちっわかったよ。」
カインは渋々頷いた。
カインたちと僕たちは少し距離を取ってテントを設営し、それぞれの野営の準備を進めていった——。




