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第十六話 決意

 ギルドの重厚な扉を押し開き、僕たちは中へと足を踏み入れた。


 依頼を受ける冒険者たちで賑わう中、カウンターの向こうにいる受付嬢がこちらに気づき、微笑んだ。


「お帰りなさい。討伐は無事に終わりましたか?」


 僕は頷き、袋からゴブリンの耳を取り出す。


「はい、依頼通りゴブリンを21体討伐しました。」


「……21体?」


 受付嬢は目を丸くし、カウンター越しにこちらを見た。


「ええ、新人の皆さんが、ですか?」


「そうだぜ!」


 クリスがさらりと答える。


「怪我は……していませんよね?」


「ええ、無傷です。」


「……すごいですね。」


 受付嬢は感嘆の声を漏らしながら、ゴブリンの耳を数え、確認を終えると、報酬の袋を取り出した。


「依頼達成の報酬として、合計で1800マネになります。」


 僕は袋を受け取りながら、小さく息をついた。


(1800マネ……思ったより多い。でも、それよりも……)


 僕の視線の先では、受付嬢がまだ驚いている様子だった。


「新人の方で、これだけのゴブリンを討伐して無傷で帰ってきたなんて……本当にすごいです。」


「別に大したことねえよ。」


 クリスは軽く笑いながら答える。


「まあ、ゴブリンって連携をとるし、奇襲も仕掛けてくるしで面倒くさい相手だったけどな。」


「はい、でもスライムゾンビがしっかりと危険を察知してくれましたから、危なげなく戦えました。」


 アリスが可愛らしく微笑む。


「スライムゾンビ……?」


 受付嬢は不思議そうに呟いたが、それ以上は何も聞かなかった。


 その後、僕たちは報酬を貰い。ギルドを後にした。



 夕暮れが差し始める中、僕たちはギルドのカウンターに腰を下ろした。


「今日はよく働いたな。」


 クリスが伸びをしながら言う。


「ええ、お兄様もお疲れ様です。」


 アリスが僕の隣にちょこんと座る。


 しかし、僕の気持ちは晴れなかった。


(やっぱり、僕だけ……明らかに弱い。)


 クリスはゴブリン相手にまるで脅威を感じていなかったし、アリスのスライムゾンビも圧倒的だった。


 それに比べて、僕は何をした?


 やっとの思いで一体を倒しただけ。それだって、魔法がなければ怪我をしていた可能性もある。


(このままじゃ、二人の足を引っ張るだけじゃないか?)


 思考がぐるぐると回る。


 そして、僕は決心した。


「なあ、クリス、アリス。」


 二人がこちらを見る。


「僕たち、別々のパーティーにならないか?」


 その言葉に、クリスは驚いたように目を見開き、アリスは一瞬だけ表情を曇らせた。


「……どうして?」


「僕と二人は実力が違いすぎる。二人ならどこに行っても通用するだろうし……僕が足を引っ張るわけにはいかない。」


 静寂が訪れる。


 しばらくして、クリスが口を開いた。


「お前、何言ってんだ?」


「……え?」


「別々のパーティーって、そんなの面白くないだろ。」


 クリスは腕を組み、真剣な目で僕を見た。


「お前は確かに俺たちより戦闘は得意じゃねえけど、それだけで別れようなんて馬鹿げてる。」


「でも……」


「そもそも、一緒に旅してんのにパーティーだけ別れるとか意味わかんねえ。」


 僕は言葉を失う。


「お兄様、私たちをそんなに遠ざけたいのですか?」


 アリスが寂しそうに言う。その声に、僕は内心焦った。


「そ、そういうわけじゃ……」


「それなら、一緒にいましょう。」


 アリスは微笑んだ。


「お兄様は弱くなんかありません。ただ、もっと経験を積めばいいんです。」


「……そう、かな。」


 自信はなかった。


 だけど、二人の言葉が、少しだけ僕を安心させた。


「とりあえず、今日のところは休もうぜ。」


 クリスが言い、僕たちは頷いた。


 こうして、僕たちのパーティーは、まだ続くことになった——。




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