第十六話 決意
ギルドの重厚な扉を押し開き、僕たちは中へと足を踏み入れた。
依頼を受ける冒険者たちで賑わう中、カウンターの向こうにいる受付嬢がこちらに気づき、微笑んだ。
「お帰りなさい。討伐は無事に終わりましたか?」
僕は頷き、袋からゴブリンの耳を取り出す。
「はい、依頼通りゴブリンを21体討伐しました。」
「……21体?」
受付嬢は目を丸くし、カウンター越しにこちらを見た。
「ええ、新人の皆さんが、ですか?」
「そうだぜ!」
クリスがさらりと答える。
「怪我は……していませんよね?」
「ええ、無傷です。」
「……すごいですね。」
受付嬢は感嘆の声を漏らしながら、ゴブリンの耳を数え、確認を終えると、報酬の袋を取り出した。
「依頼達成の報酬として、合計で1800マネになります。」
僕は袋を受け取りながら、小さく息をついた。
(1800マネ……思ったより多い。でも、それよりも……)
僕の視線の先では、受付嬢がまだ驚いている様子だった。
「新人の方で、これだけのゴブリンを討伐して無傷で帰ってきたなんて……本当にすごいです。」
「別に大したことねえよ。」
クリスは軽く笑いながら答える。
「まあ、ゴブリンって連携をとるし、奇襲も仕掛けてくるしで面倒くさい相手だったけどな。」
「はい、でもスライムゾンビがしっかりと危険を察知してくれましたから、危なげなく戦えました。」
アリスが可愛らしく微笑む。
「スライムゾンビ……?」
受付嬢は不思議そうに呟いたが、それ以上は何も聞かなかった。
その後、僕たちは報酬を貰い。ギルドを後にした。
◆
夕暮れが差し始める中、僕たちはギルドのカウンターに腰を下ろした。
「今日はよく働いたな。」
クリスが伸びをしながら言う。
「ええ、お兄様もお疲れ様です。」
アリスが僕の隣にちょこんと座る。
しかし、僕の気持ちは晴れなかった。
(やっぱり、僕だけ……明らかに弱い。)
クリスはゴブリン相手にまるで脅威を感じていなかったし、アリスのスライムゾンビも圧倒的だった。
それに比べて、僕は何をした?
やっとの思いで一体を倒しただけ。それだって、魔法がなければ怪我をしていた可能性もある。
(このままじゃ、二人の足を引っ張るだけじゃないか?)
思考がぐるぐると回る。
そして、僕は決心した。
「なあ、クリス、アリス。」
二人がこちらを見る。
「僕たち、別々のパーティーにならないか?」
その言葉に、クリスは驚いたように目を見開き、アリスは一瞬だけ表情を曇らせた。
「……どうして?」
「僕と二人は実力が違いすぎる。二人ならどこに行っても通用するだろうし……僕が足を引っ張るわけにはいかない。」
静寂が訪れる。
しばらくして、クリスが口を開いた。
「お前、何言ってんだ?」
「……え?」
「別々のパーティーって、そんなの面白くないだろ。」
クリスは腕を組み、真剣な目で僕を見た。
「お前は確かに俺たちより戦闘は得意じゃねえけど、それだけで別れようなんて馬鹿げてる。」
「でも……」
「そもそも、一緒に旅してんのにパーティーだけ別れるとか意味わかんねえ。」
僕は言葉を失う。
「お兄様、私たちをそんなに遠ざけたいのですか?」
アリスが寂しそうに言う。その声に、僕は内心焦った。
「そ、そういうわけじゃ……」
「それなら、一緒にいましょう。」
アリスは微笑んだ。
「お兄様は弱くなんかありません。ただ、もっと経験を積めばいいんです。」
「……そう、かな。」
自信はなかった。
だけど、二人の言葉が、少しだけ僕を安心させた。
「とりあえず、今日のところは休もうぜ。」
クリスが言い、僕たちは頷いた。
こうして、僕たちのパーティーは、まだ続くことになった——。




