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第三話 ユメを見ているんだ……そっちじゃねーよ!!


 チュンチュンという雀の声に、俺は目を覚ます。




「……」




 俺、なんで床で寝てるんだ? なんか顎が痛いし――




「――……っ!? そうだ! サキュバス!」




 慌てて部屋の中を見回す。そうだ、昨日テレビの中から出てきたサキュバス! 何だアイツ! 自分から誘っておいた癖に、最終的には顎を殴って……




「……ってあれ?」




 部屋の中にサキュバスの姿は無かった。あるのは、昨日風呂に入ろうとして出したトランクスが一枚。




「……夢?」




 ……まあ、そうだよな。普通、テレビの中から女の子が出てくるわけ無いもんな。たぶん、ゲームをしてそのままバタンキュー。それであんな夢を見たんだろう。顎が痛いのもベットから落ちた時にでも打ったんだろう。




「……はは。欲求不満か、俺?」




 パソコンから出てきたサキュバスの女の子と、いい感じになる夢を見るなんて……俺もどうかしてる。寝癖ボーボーの頭を手櫛で梳かし、制服に着替えて二階にある自室から俺は階下のリビングへ向かう。変な寝方をしたせいか、体中のあちこちが痛い。




「……ふああ。おはよう」




「あら、小太郎。おはよう。まだ七時よ? 早いわね」




 リビングでは母親が朝食の準備をしていた。卵とトーストの焼ける匂いに、コーヒーの香り。我が家では朝食はパン派。準備も簡単だし、何より早く食べれる。




「ああ、昨日変な寝方したから」




「なに? またゲーム? 少しは勉強しなさい」




「そうよ。少しは勉強もすれば? エッチなゲームばっかりじゃなくて」




「エッチなゲームじゃねえよ! 全年齢対象だ!」




「ふん! どうだか。どうせ女の子がわんさか出てくるやつでしょ? そんなゲームばっかりやってるからもてないのよ、アンタは」




「ほっとけ!」




 コーヒーを飲みながら、新聞に目を通しつつ嫌味を言ってくる夢魔にガンをくれ、俺も定位置である自分の席に腰を下ろす。




「はい、小太郎の分」




 母親に差し出されたのは目玉焼きの乗ったトースト。某アニメ映画で有名な例のアレだ。目玉焼きだけ先に食べて、その後トーストを食べるのが通の食べ方らしい。




「醤油とソース、どっち?」




「マヨネーズ」




「え? マヨネーズ? 邪道じゃない? マヨラーなの?」




「バカお前、マヨネーズは世界を救うんだよ。目玉焼きにはマヨネーズ一択だ」




「え~……まあいいけど……はい」




「さんきゅ」




 サキュバスから差し出されたマヨネーズを目玉焼きにかけ、そのまま口の中へ。その後、ブラックのホットコーヒーに口をつけて――





「――ぶふぅ!!」





 ――俺はコーヒーを噴出した。




「うわ、危ない! 汚い! 熱い! かかったらどうするのよ! 制服が汚れるでしょ!」




「あ、ああ。すまん……って、そうじゃねえ!」




 あんまり普通に馴染んでるから気付かなかった! 




 髪はツインテールに結ばれ、目は大きく、鼻は小鼻。




 正直に言います。かなりの美少女。




 美少女なんだけど……昨日、俺の顎にクリーンヒットをかましやがった、例のサキュバス。そのサキュバスが、制服を着て新聞読んでやがる。




「なななななななんで! なんでお前がここに居るんだ! なんで普通に新聞読んでる! なんで普通にコーヒー飲んでやがる!」




「悪い?」




「悪いに決まってるだろうが!!」




 大声で怒鳴って、少し頭が冷静さを取り戻した。目の前には新聞を読むサキュバス。さっきまで夢だと思っていたのが現実に……いや、待てよ?




「……ああ、そうか。これは夢か。まだ俺、眠ってるのか」




「ちょ、ちょっと! 大丈夫? 死んだ魚みたいな目をしてるわよ!」




 余計な御世話だ! そうだ! これは夢だ! 俺はまだ夢の続きを見てるんだ! 覚醒せよ、日本人!




「……なによ、騒々しいわね……って小太郎? どうしたの? 死んだ魚みたいな目をしてるわよ?」




 キッチンから母親が顔をのぞける。どうでもいいがおかん、アンタもそれかい?




「……母さん、俺、まだ夢を見てるみたいだ」




「……はあ?」




「だから、夢を見てるんだって!」




「……なに? 朝っぱらから愛の告白? いいわね、若いって」




「何、訳の分からない事言ってやがるこの色ボケババア! ……すいません、嘘です、奇麗なお母様。ですから包丁をこちらに向けないで下さい」




 笑いながら(目は笑っていないが)包丁をこちらに向ける猟奇的な母親に平謝りする俺。命を大事に。




「まったく……アンタ、まだ寝ぼけてるの?」




「いや、寝ぼけてるって言うか……」




「私の事、ババアなんて言って。まだピチピチの四十二歳よ、私」




「……」




 そこか? 突っ込む所はそこなのか? っていうか高校生の息子がいるんだし、それ――……うん、悪かった。悪かったからそんな目で見ないでください、お母様。





「朝から、ユメを見ているユメ見ているって連呼するし……なに? そんなに気にいったの?」




「……何を?」




「何をって……ずっと見てたんでしょ? ユメちゃんの事」




「……は?」




 呆れたようにため息をついて、俺の額に手をやるおかん。




「な、何しやがる気持ちわる――って、すぐに包丁を向けるな!」




「アンタが失礼なこと言うからでしょ!」




「だからってやって良い事と悪い事の区別はつけろ! もういい年なんだから! ……オーケー、俺が悪かった。だから、包丁を向けたまんまこっちに近づいてくるな! わかった! 年の事はもう言わない!」




 距離を取り、防御態勢を取る俺にもう一度呆れたように母親がため息をつく。




「ごめんね、ユメちゃん。こんな変な息子だけど、宜しくお願いするわね?」




「変な息子なんて……小太郎君はとっても優しいですよ、叔母様」




「ユメちゃん……ううう、いい子ね」




「そんな事ないで――」




「……でも、ユメちゃん。おば……お姉さんの事は気軽に『お母さん』って呼んでくれて良いからね? 『おば』様なんて他人行儀な言い方は……辞めてね? もし、お母さんって呼ぶのに抵抗があるなら、『香澄』でもいいわよ? だから『おば』様なんて言い方……辞めてね?」




 そう言ってにっこり『嗤う』我が母親。




「は、はい、香澄さん!」




 おい、おかん。あんまり『おば』を強調するな。言われた夢魔の方も引きつった笑顔をしているじゃないか。 




「って、そうじゃねえ!」




「なによ? 急に怒り出して。理由も無くキレる現代の若者? 騒々しいわね。ほら、さっさとご飯食べて学校に行きなさいよ」




「理由ありまくりだ! 学校に行きなさいよ、じゃねえ! どう考えてもこの状況はおかしいだろう! 気付かないのか!」




「何がよ?」




「こいつは誰だ! なんで当たり前の様に普通に座って飯食ってるんだよ!」




 びしっとサキュバスを指差す俺。対して母親は……今度は可哀そうな子を見る目になってこっちを見ながら。






「何言ってるのよ、アンタは。ユメちゃんは連休前からウチの子でしょう!」





 …………は?




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