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第三十四話 戦え! 原作者サマ!



「さあ、今日は楽しい文化祭や! 気張っていくで!」


 『冒険と旅の宿』のマスター、マスク・ド・ファイアーマンの格好をした修斗がそうやってクラスに発破をかける。


「「……」」


「な、なんや、皆、暗いな~! 元気出していこうやないかい!」


「「……」」


 一向に士気が上がらない我がクラスメイト達に、修斗は諦めたようにため息をついた。


 そう。今日は待ちにまった文化祭。他のクラスでは円陣やら、掛け声やら、何やら気合いの入った事をしている。皆、楽しみにしていたのだ。


 ちらりと、ユメの方に視線を向ける。そこには気合いが入った様な、それでいて少し残念そうなユメの顔。


 ユメが暴走した次の日の朝、ユメが頭を下げて来た。『声を荒げてごめん。でも、もう体調も良くなったし、大丈夫だから』との事。サキュバスの事は分からないし、ユメがそう言うなら、俺は何にもしてあげれない。奥歯に物が挟まった様な違和感を抱えながら、表面上は普通に振る舞っている。ユメも楽しみにしているし、文化祭が終わったら、きっちり話そう。そう思ってずるずるココまで来た。


だから、今日は頑張らないといけない……にも関わらず、士気が上がらない理由。


「……うううう……書けない……書けないのよ!」


 一年一組に割り当てられた、大講義室。普通は、特別授業何かで使う少し大きめの階段状の教室で、緞帳なんかもあってちょっとした舞台感覚。こんな良い所を抑えられたのも、姉御の尽力のおかげだが……その舞台袖で、我らが沢渡大先生、頭を抱えて悩んでいた。


「……沢渡。少し休め」


「ううう……無理! もう無理! 後三十分で公演よ! なのに台本が完成してないのよ! どうすればいいの!」


 ……そう。我らが一年一組の演劇、『バトル・オブ・プリンセス』は今日初演で千秋楽を迎えると言うのに、いまだに台本が最後まで完成していないのである。そして、これが我らがクラスの士気が上がらない理由。


「……ううう」


 血走った眼で、ノートを睨み続ける沢渡。髪はボサボサで、ギャル系だった面影は……残念ながら、何処にも無い。


 ちなみに脚本を元に作る予定だった美術部の展示である漫画は『続きは舞台で!』という何とも尻切れトンボの形に終わった。部長は不貞腐れていたが、漫画の出来自体は良いので、良い宣伝になるだろう。


「……おい、修斗」


「……なんや、コタロー」


「お前、沢渡に少し休むように言ってこい」


「……言える訳無いやろ! コタローが言ってき!」


「……イヤだ。怖い」


「……俺だって怖いわ!」


 男二人がビビりながら責任のなすりつけ合い。みっともない事この上ないが、怖い物は怖い。


「ほ、ほら、真琴! ちょ、ちょっと休憩しましょう? 根詰めても、良い結果にならないわよ?」


 ナイス委員長! 委員長の言葉に、沢渡が虚ろな目でノートから目を離す。


「……うん……ちょっと……顔を洗ってくる」


 そう言って、ふらふらと机から立ちあがり、大講義室の扉に手をかけた時。



 沢渡が倒れた。



「さ、沢渡!」


「ま、真琴!」


「お、おい!」


 クラス全員が沢渡に駆け寄る。沢渡の体を恐る恐る全員で覗きこむと、そこには……



「……寝てるわね」


「……寝てるな」


「……そう言えば真琴、三日寝てないって言ってたわ」


「……むしろ、沢渡が一番闘っていた気がする。バトル・オブ・ライターって感じ?」


「……座布団をあげてる余裕は無いわね。取りあえず、真琴を運ぶわよ」


 全員で力を合わせ、沢渡をはじっこの方で寝かす。気持ちのよさそうな寝顔をしているし、取りあえず寝かしておこう、という結論に。


「……おい、どないするんや? 脚本、最後まで完成してへんで」


「そんな事言ってもな……まあ、ラストは午後の部だ。それまでには時間もあるし、その時に考えよう」


「……せやな、それしか無いな! お、時間や! 始まるで!」



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