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第二十四話 選ばれたのは、小太郎でした。


「……はあ」


「もう、小太郎暗いわよ! 元気出しなさい!」


「そうよ葛城。もうまな板の上の鯉、元気出しなさい!」


「……お前らな……」


 両隣を美女に囲まれて、ため息をつく俺。修斗辺りが見たら怒り出しそうだが、今の俺の心情はマリアナ海溝よりも深く沈んでいる。


 結局、俺らのクラスの出し物は演劇に決まった。何というか……あの後、沢渡がまあまあ凄まじい演説をして……その、まあ、勢いに押し切られた形だが……それは良い。


 ちなみにあらすじは『魔王に滅ぼされかけた世界を守るために、可愛いが一本芯の強いお姫様と、可愛いツンデレお姫様の二人が旅に出る。が、途中で出会った王子様に一目ぼれし、世界平和そっちのけで熾烈な王子様争奪バトルを繰り広げる。王子様は一体どちらを選ぶのか! ついでに世界の命運は?』という、ベタベタなラブコメに仕上がる予定とのこと。まあ、これもいい。


 ――問題は配役だ。


 主人公役であるお姫様二人、これは早く決まった。委員長とユメだ。お互い美人だし、クラスの人気も高い。加えて先生(もはやこう呼ぶのが相応しい)である沢渡のイメージにもぴったり来るとのこと。


 ……王子様役。こちらが揉めた。


 なんせクラスの二大美女に取りあいにされる、という美味しい役どころ。我も我も、と手をあげ、隣のクラスに怒られる程の紛糾ぶり。沢渡の中で王子様役はおまけ程度であり、イメージも無いらしく決めるに決めれない。困り果てた沢渡、とんでもない事を言い出しやがった。


『それじゃ、委員長とユメ、二人で決めてよ。実際にやるのはアンタ達だし、『いいな』って思う人の方がリアルに迫れるでしょ?』


 この『沢渡発言』でクラスは更にハチの巣を突っついた様な騒ぎになった。なんせクラスの二大美女が、手自ら自身の相手役を選ぶのである。あまりに煩すぎるクラスでは相談出来ないと退室した二人が帰って来て発表した、二大美女に取りあいにされる幸運な役を射止めたのが……俺だったりする。


 元々大道具の美術班をかって出るつもりだった俺はこれに猛反発。そもそも人前で演技なんか出来るわけ無い。なにより美術の成績が5である俺を裏方に回さない方が損失だ! と主張した。が、沢渡先生曰く、


『主演の二人が決めた配役だからね。これで行くわ。なにより、私の中でもイメージが固まったわ! ちょっと冴えない葛城を美女二人が取りあうなんて、いい! すごくいいわ!』


 と、失礼な事をのたまいやがった。


「……はあ」


 何度目かのため息をつく俺。と、それを見咎めた委員長が話しかけてくる。


「そんなにイヤなの?」


「イヤに決まってるだろう! 俺は目立つ事が嫌いなの!」


「悪かったわよ……でも、それってちょっと失礼よ、葛城」


「なにがだよ?」


「だって……それって、私達二人の相手役がイヤってことでしょ?」


「っぐ」


「折角勇気だして葛城を選んだのに……傷つくわよね、ユメ」


「そうよ! 私達二人じゃ不満だって言うの! 失礼しちゃう!」


 ねえ~と言いあう二人。こ、こいつら。


「……ちなみに、何で俺を選んだんだ?」


 俺の発言に、委員長がきょとんとした顔をして。




「そんなの、葛城の事が好きだからに決まってるじゃない」






 委員長の爆弾発言に、俺とユメが固まる。

 い、委員長が俺の事が好き? な、なんだって! 好きとか嫌いとか最初に言い出したのは誰だ、コラ!


 テンパってる俺の隣で、こちらもテンパってるユメが早口で捲し立てる。

「い、い、委員長! こ、小太郎の事好きだったの! こ、こんな冴えない男の事が!」


「……冗談よ?」


「……」


「……」


「ほら、文化祭まで時間もあんまり無いし、私ら三人美術部でしょ? それなら、部活中にも練習できるしって思って……って、どうしたの? 二人とも」


「……それは結構、酷いと思う。流石にちょっと小太郎が可哀そう」


「う! だ、だって、今の流れは冗談の流れじゃない!」


「……」


「……」


「……取りあえず、ごめんなさい」


「……イイ、キニシテイナイ」


 いいんだ。俺は、強く生きるんだ。


「こ、小太郎! ほ、ほら、美術部についたよ! げ、元気出して!」


「そ、そうよ葛城! ほ、ほら、美術部も頑張らないと!」


 二人に励まされる様に美術室に入って……俺は思いっきり脱力した。


「なにしてるんですか、部長!」


「ん? おお、小太郎。早かったな」


「早かったな、じゃないです! 何してるんですか!」


「見て分からないか?」


 美術部室に所狭しと並ぶのは、仏像の数々。地蔵菩薩、広目天、白衣観音、帝釈天、弥勒菩薩……カオスだ。カオスな空間だ。


「なんなんですかコレ!」


「文化祭での美術部の展示だ。絵ばっかり飾ってみてもつまらんのでな。どうだ? 前衛的だろう?」


「アンタ美術部部長でしょうが! 絵を書け、絵を!」


「絵画だけが美術とでも言うつもりか? ふん、つまらん事を言う。いいか? 彫刻、彫金、絵画……その全てが美術だ!」


「残り二週間で彫刻なんか作れるわけねえだろう! それとも何か? 文化祭に自分たちの作品置かず、人さまの個展でも開くつもりですか!」


「……」


「……」


「……おお」


 おお、じゃないわ!!



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