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第二十三話 サ総研の女



「……演劇、ね。それこそやり尽くした感があるんじゃない?」


「何言うてんねん! 既存の……せやな、ベニスの商人とかロミオとジュリエットならやり尽くした感があるけど、オリジナルの台本やったら、それはそれで俺たち独自の『斬新』やないんか!」


「……」


 おお、珍しい。修斗が委員長を黙らしたぞ。


 実際、修斗の言う事も一理ある。俺がゲーム好きってのもあるけど、同じハードから出てるからって内容が違えば当然違うゲーム。つまり、『演劇』ってくくりなら一緒でも、『演目』がオリジナルならそれは十分オリジナルと言える。何より盛り上がりそうだし。


「……なるほど。大場君、いいアイデアね」


「せやろ姉御!」


「姉御言うな。でも、今からオリジナルの脚本となると……」


「心配すんな姉御! 昨日眠らずに俺が書いてきてん!」


 そう言って自分の席にダッシュし、カバンの中をガサゴソ漁る修斗。おお! バカだバカだと思っていたが、やる時はやるじゃないか! 何だか今日は修斗がちょっとたくましく思えるぞ! これなら今までの分は帳消しに――


「これや! 全300ページの大作や!」


 ――訂正、やっぱり修斗(バカ)修斗(バカ)だ。


「おい、修斗(バカ)


「な、なんやコタローまで! 修斗書いてバカと読んだな!」


「いいからこっちに来て座れ」


「な、なんでやねん! ええアイデアやって姉御も言うてはったやないか!」


「文化祭まで二週間だぞ! 誰も見た事の無い様なオリジナルのシナリオを、今から300ページも覚えられるか! 姉御が切れる前に座れ! 見ろ! 姉御の目、ハイライトが消えてるじゃねーか!!」


 ほら、姉御、目が笑ってないじゃないか。なまじいいアイデアなんて言ったもんだから、余計悔しいんだろう。その視線に顔を真っ青にしながら、修斗は俺の隣の席に逃げ戻って来た。


「……」


 その時、教室の中程からすっと手が挙がった。


「大場のアイデア自体はいいアイデアだと思うわ。演劇、面白いじゃない」


 そう言って席を立ったのは沢渡真琴。目が大きく可愛らしい子だ。男子の人気も高く、本人はギャル系で浮名をいくつも流しているが……何というか……男運が若干残念な子だ。


「せやろ沢渡! それならこのアイデアで……」


「ただ、台本が300ページはアホだと思うけど」


「……」


 容赦ない沢渡の一撃に、修斗撃沈。なんだろう、修斗も恵まれない子だな……


「それで、修斗のがいいって言うって事は、真琴はなんかいいアイデアあるの?」


 委員長の言葉に、鷹揚に沢渡が頷いて見せる。


「まかせてよ、委員長。脚本は……私が書くわ!」


「……真琴が?」


「ええ! 実は皆には黙っていたけど……私、『サ総研』のメンバーなの!」


 クラス中に沈黙が流れた。みんなの心は一つだ。



……なんだ、『サ総研』って。



「さ、サ総研ですって!」

 

 突然、姉御が椅子を鳴らして立ち上がる。唇は青ざめ、心なしか体が震えてる。


「知ってるのか、らいで――じゃなかった、姉御!」


「おい、それは違うキャラでしょ! っていうか、姉御って言うな!!」


 それでも修斗のボケにしっかり突っ込むあたり、律義な人だ。


「サ総研……正式名称は『サブカルチャー総合研究会』……私がまだ現役女子高生だったころ、学校中を恐怖のどん底に突き落とした伝説の秘密サークル……」


「……姉御、OGだったんですか?」


「ええ。私が現役当時、この高校にも漫画研究会、アニメ研究会、映画研究会などのサブカルチャーを中心にした部活がいくつもあったの」


「……」


「その部活たちは、私の卒業後にサ総研の執拗な攻撃にあい、一つ、また一つと吸収されていったわ……でも、サ総研は自然消滅したはずよ!」


「先生……そうやって我々が学校を欺いていたとしたら?」


「な、何ですって!」


 ……ええっと、話題についていけないんですけど。って言うか、何処らへんが学校中を恐怖のどん底に突き落としたんだ?


「昔、姉御に聞いたことあんねんけどな」


「なにを?」


「姉御、ここの映研のOGやってんって。それが、ある日乗っ取られたとか何とか言ってはったわ。自分の部活が急に無くなるんやで? そら、姉御は悲しんだやろ」


「……私怨って事か?」


「せやろーな……」


 修斗と二人、肩を落とす。まあ……なんだ、好きにやってください。


「とにかく! 私が脚本を書くわ!」


 そう言って机をドンと叩く沢渡。


「どんなん書くんや? それは俺の力作を超える様な作品なんやろうな?」


「ええ! これでもサ総研の女と言われた私よ! 大場が唸るような作品にするわ!」


 そう言って自信満々に修斗を見たあと、口を開いた。



「お姫様の作品にするわ!」



『……』 


 全員が思った。お姫様って。


「な、なによ! お姫様はダメなの?」


「だ、ダメじゃないけど……なんて言うか……」


 言い淀む委員長。まあ、演劇します、演目はお姫様ですって、どうコメントしていいか分からんわな。


「お姫様よ! 時代はお姫様なの! メイドや、CAや、看護婦や、魔法少女がもてはやされてるけど、女の子の永遠の憧れは昔からお姫様なのよ! 委員長だって一度は思った事があるはずよ! 『私にも素敵な王子様が現れないかな』って。クラスの女子、みんな一度は思った事があるでしょ!」


 沢渡の言葉に、女子一同無言。ユメですら視線を逸らしてる。あるな、こいつ。


「ほ、ほいでも、お姫様がメインの劇って……どんなんやねん? 悪者が出てきてお姫様さらって、王子様が助ける、みたいな奴か? でもそれやったらお姫様メインやないし……」


「ふん! そんな、『あまあま』な展開、認めないわ! いい? 今の時代、待ってたら王子様が助けてくれるなんて妄想よ、妄想!」


 若干、暴走気味の沢渡。ええっと……じゃあ一体どんな劇?


「時代は戦うお姫様よ!」


 ……。


「……ええっと……もう少し具体的に」


「今の世の中、待ってるだけの可愛い女の子なんて流行らないの! 男子が草食系なら女子は肉食系よ! お姫様だからって油断してちゃダメ! 戦って、戦って、戦って戦い尽くして、恋の戦争に勝ちぬかなくちゃいけないの!」


 拳を握り、力説する沢渡。その迫力は鬼気迫り――



「……なによ! 翔太のバカ! 『俺、守ってあげたくなるような可愛い女の子が好きなんだ』とか言って、浮気相手はめちゃくちゃ肉食系じゃない! あの子の何処に守ってあげる要素があるのよ!」



 ――沢渡には、つくづく幸せになって貰いたい。


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