サンデーカップル
お店にイチャイチャカップルが入ってきた。
ショーケースの中のみんながそれを見て、期待の声をあげた。
「おお! ああいうお客さんは、大抵何種類か買って、分けて食べるんだよな」と、マスクメロンくん。
「いやいや、わからぬぞ? 一種類だけ買ってサンデーカップにして、分けて食べるかもしれぬ」と、大納言小豆さん。「何しろ今日は日曜日で、あいつらはカップルじゃからな。ハッハッハ!」
「とにかく……誰をご指名かな?」ベリベリストロベリーちゃんがワクワクしてる。
「僕は爽やかだよ。僕を指名して」オレンジソルベくんが念を送ってる。
まぁ、あたしを指名してくれることはないだろう。
デートしながら食べるなら、カラフルなフレーバーが似合う。地味なバニラなんて似合わない。
結婚式だったら真っ白なあたしが相応しいとこなんだけどね。
カップルはショーケースの中を楽しそうに眺めながら、話し合う。
「わあっ! あれ、美味しそう! ポッピングミントだって、かわいい!」
「それにする?」
「待って! 待って! こってりしたチョコ系もいいかも! 迷っちゃう〜!」
あたしたちはみんなそれぞれに念を送っていた。
「こっち! こっちも見て!」
「おいしいよ! とろけるよ、ぼく!」
「こってりもいいが、あっさりまったり抹茶もいいものじゃぞ」
「あたしを選んでえ〜!」
彼氏のほうが言った。
「迷った時はバニラじゃね?」
あたしはドキリとときめいた。
彼女が口を尖らせる。
「え〜? バニラなんてふつうじゃん。スーパーでも買えるじゃん」
彼氏が嬉しいことを言ってくれた。
「サンデーにしようよ。ホイップクリームとチョコスプレーとホワイトチョコも乗せれば楽しいよ?」
あたしは大きなほうのディッシャーで掬われた。
カップの中に座らされると、ホイップクリームさんをむにゅっと頭にかぶせられる。
上からトッピングのチョコスプレーさんたちが降ってきた。みなさんニコニコ顔で、「こんにちはー」「一緒にとろけようねー」そう言いながら。
恋人たちは外へ出ると、空を見上げた。
「あっ。雪だ!」
「そんなわけないだろ。もう六月だぜ?」
そうか、ジューンブライドの季節なんだ。
あたしは蓋をされたカップの中で、彼女が『雪だ』と言ったものの正体を知りたかったけど、黙ってた。だって黙ってるしか出来なかったんだもん。
緊張して固くした身が、ドライアイスさんでさらに固くなってるような気がしていた。
車に乗り込む音がして、彼女の声が言った。
「開けるよ?」
じゃーん! という効果音つきで、あたしが二人の視線のもとにさらされた。
綺麗なドレスを着せられたあたし──花嫁みたいに見えるかな?
「おいしそー! かわいいー!」
そう言いながら彼女がプラスチックのスプーンであたしの体を切り離す。
まずは彼女の舌の上で、あたしはとろけた。
「俺にもちょうだい」
ハンドルを握りながらねだる彼氏の口に、彼女があたしをスプーンで入れる。
「はい、あーん」
「あーん」
彼氏のあったかい舌の上で、あたしはとろけた。
「んー! うまっ! やっぱりフォーティーワンのバニラはスーパーのとは違うよね」
「ケンジの言う通りにしてよかったぁ〜♡ やっぱバニラが美味しいよね♡」
「ふふふ。頼れるだろぉ? キスして?」
「ちゅっ♡」
甘い、甘いムードの中で、白いホイップクリームのドレスにカラフルなチョコスプレーの飾りをつけて、あたしも甘く、甘く、とろけていった。