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アイスクリームのきもち  作者: しいな ここみ


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鳩くるっくー

「春が来るっ」

 あたしはショーケースの中で浮かれて歌いだした。

「春が来るっ、るっ、くるっくー!」


 みんなが呆れてあたしを見ていた。


「何、それ。バニラちゃん?」

「あったかくなりはじめて、気がおかしくなっちゃったの?」

「何よ? 『くるっくー』って?」


「鳩の鳴き声だよ」


「鳩って?」

「鳩ってなぁに?」


 そうか。みんなアイスクリームだから、鳩を知らないんだ。

 かわいそうなみんなに、あたしは教えてあげた。


「外にはね、鳩っていう鳥がいて、公園とかに行くとよく地面を歩いてるんだ。その鳴き声がね、『くるっくー、くるっくー』って、とってもトボケてて、聞いてると平和な気持ちになっちゃうんだよ」


「公園って何?」

「地面って何?」


 だめだ。みんな知らないことばかりだ。

 人間からアイスクリームに転生したあたしは話が通じなさすぎて、黙るしかなかった。





 オレンジソルベくんと外へ出た。

 ひとつのカップにダブルで入って、OL風のお姉さんに買われ、春の街へふたりで出た。


 思ってた通り、外は春の空気が充満してて、桜の花びらがチラチラと舞い散るあかるい世界だった。


「気持ちいいね、バニラちゃん」

「気持ちいいね、ソルベくん」


 ドライアイスさんに溶けないよう守られながら、ふたりでお姉さんの口でとろけるその時をニコニコ待った。





 公園のベンチにお姉さんは座ると、袋の中からあたしたち入りのカップを取り出した。

 蓋が開くと、涼しげな木陰の上に青空が見えた。


 くるっくー


 くるっくー


 鳩の声がする。


「あっ! 見て、ソルベくん! あれが鳩! あれが鳩だよっ!」


 地上にはたくさんの鳩たちが群れをなしていた。

 お姉さんが何か美味しいものをくれるのを期待するように、こちらに向かっていっぱい集まってくる。

 あたしとソルベくんの甘い匂いを嗅ぎつけたのか、木の上からも覗き込んでくる。


 お姉さんがバッグからパンを取り出して、ちぎって投げると、鳩たちが一斉に素速い動きでくるっくした。


「おもしろいな! おもしろい! こんなの初めて見た!」

 オレンジソルベくんが興奮してる。


「鳩ぽっぽだよ! ソルベくん、あれが鳩!」

 仲間に鳩を見せてあげられた喜びに、あたしもはしゃいだ。


 お姉さんの口に運ばれて、甘く楽しくとろけながら、あたしとオレンジソルベくんはずっと口で鳩の鳴き声を真似してた。


「くるっくー!」

「くるっくー!」



 平和な公園に、春の陽射しが降り注いでた。





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― 新着の感想 ―
[一言] 良かった 穏やかなお話で(^^;)
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