シェリーの睨み
「ルッシー!!!」
シェリーはギルシェルルの名前を呼びながら、ギルシェルルのもとに慌てて駆け寄った。そこには、体が真っ二つにされ、綿がたくさん飛び出ていて泥だらけの無惨な姿のギルシェルルが倒れていた。
「……ルッシー……すぐに駆けつけられなくてごめんね。病的な方向音痴のくせに、1人で突っ走っちゃったから遅れたの。こんなことなら、デリンジャーと一緒に探せばよかった……痛い思いさせて、ごめんね」
そう言ってシェリーは、泣きながら真っ二つにされたギルシェルルの体を抱き上げてぎゅっと抱きしめた。
すると、木々の隙間からズリズリ……と、全身黒焦げのドレールが、匍匐前進のように体を引きずりながらがシェリーのもとに来た。
「ドレール!!」
「う、ぐ……シェリー……様。も、申し訳ございません……ギルシェルル様を守れず……ぅ……ぅ……」
ドレールは声を震わせそう言いながら、ボロボロと涙を溢した。
「……大丈夫だよドレール。ルッシーは私が絶対に治すから、ね?」
シェリーはそう言いながら、ドレールの頭を優しく撫でた。
「ドレールも……ごめんね。私のせいで痛い思いさせて……ドレールの怪我もすぐに治すからね」
シェリーがそう言うと、ドレールはふるふると頭を横に振り。
「……私のことはいいので、どうか……ギルシェルル様を助けて……くだ…さ……」
そう言いながら、ドレールはドサッと地面にうつ伏せに倒れた。
シェリーは気絶したドレールを持ち上げると、綿まみれのギルシェルルと一緒に優しく抱き締めた。
「……大丈夫。ドレールもルッシーも、絶対に元通りに治すから」
ギルシェルルとドレールを胸に抱え、シェリーは少し離れた場所にあった切り株の上に2人を横たわらせると。
「半月形治癒室!」
両手を2人に向けてそう唱えると、透明な半月形が現れ、2人を覆った。
「……これでしばらくしたら、2人は元通りに回復する。さて……ルッシーとドレールをいぢめたあの子にオシオキしてあげないと……だね」
そう言ってシェリーは、魔物が飛んでいった方を睨みつけた。
◆◼◇◆◼◇
「ガァ……イッテテ。チッ!クソがぁ……とうとう出てきやがったな、例のクソ魔法使い」
シェリーの光線を食らい、森の奥へ吹っ飛ばされた魔物は、口元の血を手の甲で拭いながら、よろよろと体を起こした。
ペッと、口の中の血液混じりの唾を吐き捨て、魔物は掌からバリバリとした赤黒い剣を再び出そうとした。すると。
「!?」
スッ……と、魔物の掌からできかけの剣が消えた。森の奥を睨んだ瞬間、まるで、蛇に睨まれた蛙のように、魔物は動けなくなった。急に全身から冷や汗が吹き出て、地面にポタポタと落ちる。体がカタカタと震える。
「なん……だ、こりゃ?体が動かねぇ。動かねぇつうか、動けねぇ。ヤツの魔法か?いや違うこれは……何だよこの震え……おいおい、まさかこの俺様がびびってんのか?」
今までに感じたことのない気配が、森の奥から魔物の方にゆっくりと近づいてくる。魔物は後退りすらできず、体を震わせながらその気配の方を睨んだ。