ダークデレッサ現る
「な、なんだ!?」
透明な結界の破片が、まるで割れたガラスのように青空からキラキラと落ちてくる。その破片と共に、ひび割れた結界の隙間から、赤と黒の不気味な色合いの魔物がギルシェルルの方に向かって落ちてくる。
そして。
ドスーーーンッッ!!!
「ぬあ!?」
その魔物が地面に着地すると、ギルシェルルや周りの木々を大きく揺らした。
「ゲヒャヒャヒャ!!ここがミリルリ・マリルゥ・シェリーが塒にしてる森か!こんなチンケな結界張ったって、俺様の前では無意味なんだよーー!!」
「なんだ貴様は!何者だ!」
と、ギルシェルルが言うと「はあ?誰かいるのか?」と、魔物は辺りをキョロキョロした。
「何処を見てる?ここだ!」
魔物は声のする方を、自身の足元のぬいぐるみに視線を向けると、キョトンとした顔をした。
「……ぬいぐるみじゃねえか。は?ぬいぐるみがしゃべってるのか?」
「失敬な!誰がぬいぐるみだ!」
「ゲッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!!マジかよ!ぬいぐるみがしゃべってるとか!ミリルリ・マリルゥ・シェリーは傀儡師なのか?」
魔物は腹を抱えながら大爆笑した。
「喧しい!その耳障りな笑い方を今すぐやめろ!」
「は~……おもしれ~……それで可愛いぬいぐるみちゃんよぉ、ミリルリ・マリルゥ・シェリーは何処にいるんだ?この森にいるってことはヤツの手下だろ?」
「……私はあんな小娘の手下ではない。そんなことより、質問しているのは私の方だ。貴様は何者だ?」
「俺か?俺はダークデレッサ様だ。ミリルリ・マリルゥ・シェリーを……殺しに来たのさ」
そう言って魔物は、ニタリ……と怪しく微笑んだ。
「……ほう?あの小娘を。何の為に?」
「気に食わねーんだよ、その魔法使いの存在がよ。噂じゃ昔、てめぇも人間に『化け物』扱いされて弾かれたってぇ話だし、力があるなら人間らをブッ殺しゃあいいのによぉ。それに、折角どこぞの魔王が人間どもの世界を滅ぼそうとしてたのに、余計なことしやがったし。まあ、魔王も魔王だよ、あんな人間にも化け物にもなれない中途半端な魔法使いに殺されやがって……あぁ、話してるだけでむしゃくしゃするわ」
と、魔物は話ながら舌打ちをした。
「『魔王は殺された』……か。勝手に殺さないでほしいな」
「はぁ?」
「……私はその魔王、ギルシェルルだ!」
ギルシェルルは大声でそう言い、背中の小さいコウモリのような羽をパタパタさせた。
「お前が……あの?」
「ああ」
魔物は目を見開いて驚くと、ギルシェルルのことをじろじろと見て、そして。
「……グブッ!ゲッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!!おっ、お前があの『この世の最悪』って人間どもに呼ばれて恐れられてた魔王なのか!?うそだろ!?いや、ないわ~」
魔物は吹き出すと、また腹を抱えながら爆笑した。
「その耳障りな笑い方を止めろといってるだろう!」
「はーはー……久しぶりにめちゃくちゃ笑ったわ~……まあでもこの状況、あんたには丁度いいんじゃないか?」
「……何処がだ。不愉快でとても最悪だが」
「笑って悪かったって。まあ聞けよ。あんたのその姿、その魔法使いの魔法で変えられたんだろ?……だったらさぁ、俺がその魔法使いをぶっ殺せば、あんた元の姿に戻れるんじゃないかってさ」
そう言って魔物はニヤッと笑った。ギルシェルルはぎろりと魔物を睨む。
「……何が言いたい?」
「俺と手を組んで、この人間どもが蔓延る世界をまた黒く染めようぜってことだよ。あんたが以前にやったようにさ!」
両腕を広げ、魔物はゲヒャゲヒャと笑った。