魔王ギルシェルルVS魔法使いシェリー
────3年ほど前。
プレシャス島という島に、ギルシェルルという魔王が突然現れ、フレグランス城を乗っ取ると、この世を闇に閉じ込める強大な呪文を唱えた。
そして、ギルシェルルは大量の魔物を世界に放ち、人々を心身ともに闇の底へと叩き落とした。
この世界の全てを手中に収め『この世の最悪』と人々に呼ばれ恐れられると、ギルシェルルは城の王座で高笑いした。
そんなある日のこと。ギルシェルルの前にシェリーが現れた。
「なんだ小娘!?どうやってここまで来た!王座に辿り着く前に、最強の四天王がいたはずだが!?」
「四天王さん?ここにいるよ」
と、胸に抱いている4体のぬいぐるみをギルシェルルに見せた。そのぬいぐるみたちは、シェリーの胸の中でぐるぐると目を回し、気絶していた。
「戯けたことを抜かすな!ただのぬいぐるみじゃないか!」
「そうよ、私が四天王さんたちをぬいぐるみに替えたの。可愛いでしょ♡」
そう言ってシェリーは、4体のぬいぐるみをぎゅーっと抱きしめ、頬擦りした。
「15にも満たなそうな小娘だが……しかし、ここまで来たということは只者ではないな。仮に胸に抱いているぬいぐるみが本当に四天王だとしても……だ。私はあいつらよりも遥かに強い。貴様ごときの存在など、瞬きの間に塵に変えてやろうぞ!」
ギルシェルルは王座を立ち上がり、片手を天井に向けると、掌で禍々しい黒い魔力の塊を練り、そして。
「漆黒矢!!」
ギルシェルルは少女に向かって、禍々しい暗黒光線を放った。
ド ー ー ー ー ー ー ン!!!!!
爆音が城内に響き、大きく揺れた。暗黒光線が放たれた床は大きく穴が空き、王座のある最上階から地下の方まで穴が続いていた。
シェリーの姿は、何処にもなかった。
「フハハハハ!小娘が!どのようにしてここまで辿り着けたか知らんが、他愛ないものだな!」
ギルシェルルは、城内に響くほどの大きな声で高笑いしながら、王座に座ろうとした。
その時だった。
「も~!お城にこんな大きな穴空けるなんて、い~けないんだ、いけないんだ~!」
と、何処からかシェリーの声がした。ギルシェルルは慌てて声のする方を見上げると、シェリーは城の天井傍をふわふわと浮いていた。
「な……!?こ、小娘、貴様一体何者だ!?」
「私?私はミリルリ・マリルゥ・シェリーだよ。う~んそうだね~……あなたはくろくまさんがいいかな?」
シェリーはそう言いながらふわふわと浮いた状態で、ペロペロキャンディーを巨大化させたような自分と同じくらいの大きな杖を回し、ぶつぶつと何か呪文のようなものを唱え始めた。
「フン!私に魔法を掛けようとしているのか?そんなもの、私に通用す──ヌ、グッ!?なっ、何をした!?」
ギルシェルルが体を動かそうとした瞬間、全身に縛り上げられるような感覚が走った。
(な、何か縛りの呪文を使ったな?!い、いつの間に!?それに……)
ギルシェルルは、シェリーの掛けた縛りの呪文を解こうとするが、解けない。それどころか、声を出せば出すほど、踠けば踠くほどほど、ギチギチと体を締め上げるような感覚がギルシェルルに襲った。
「あー、あんまり暴れようとしちゃダメだよ?その魔法、動こうとすればするほど縛りがきつくなって、下手したら体潰れちゃうよ」
「ナッ……!?」
「さあ、準備は整ったよ!あなたも私の可愛い家族になってね♡玩具変換魔法!!」
シェリーは呪文を唱え、ペロペロキャンディーのような大きな杖をギルシェルルに向けると──────
「くっ……そおおおおお!!!」
白く眩い光がギルシェルルに放たれた。
そして。
((ぽて、ん。))
ギルシェルルの座っていた王座に、黒くて可愛らしいくまのぬいぐるみが落ちた。
ギルシェルルは、シェリーの魔法でくまのぬいぐるみにされたのだ。
「な……なんじゃこりゃーーー!!!??」
ギルシェルルは、自身のふわふわでまるっこい体を見て、声をあげた。
「きゃー♡角と牙がめっちゃ可愛いー!今日からよろしくね、ルッシー♡」
シェリーはギルシェルルのもとに駆け寄ると、ふわふわなぬいぐるみのギルシェルルを抱き上げそして、ぎゅーっと抱きしめた。
「放せ小娘!離れろおおお!!!」
───こうして、『この世の最悪』と恐れられた魔王ギルシェルルが、謎の魔法使いミリルリ・マリルゥ・シェリーの手によってぬいぐるみに替えられると、この世界にまた、陽の光が差したのだった─────