ふわふわな魔王のゆううつ
人里から離れた所に、空に届くほどの巨大な木々が育つ『大樹の森』があります。
その森の奥の奥。お菓子の家のような、カラフルで可愛らしいちいさなお家がひとつあります。そこには、不思議で可愛らしい家族が住んでいます。
「ふふ♪ルッシーは今日もかわいいね~♡」
「……あぁ、忌々しい。これなら、殺された方がましだ…」
「まーまーそう言わず~……ぎゅ~っ♡」
そう言ってネコミミのフードを被った少女、ミリルリ・マリルゥ・シェリーは、くまのぬいぐるみをぎゅーっと抱きしめた。
ちいさくてまあるい耳。その耳の間には、ちいさな角が2つあり、口からはちょこんと牙が出ていて。つぶらな瞳で、おしりにはまあるくてぴこぴことした愛らしいシッポがあって。背中には、ちいさなコウモリの黒い翼のようなものが生えてて、ふわふわで可愛らしい黒いくまのぬいぐるみ。
その、ふわふわで可愛らしいぬいぐるみの正体は──……元魔王のギルシェルルだった。
「ぐふっ!放せ、小娘!」
「やだぁ~ルッシーかわいいもーん!」
「誰がかわいいだと!ふざけるな!私を誰だと思ってる?!」
「かわいいくまのぬいぐるみのルッシー」
「殺すぞ!」
ルッシーことギルシェルルは、この世を支配していた魔王──……だったが、ある日、魔法使いの少女シェリーが現れ、ギルシェルルはシェリーの魔法によって、ふわふわの可愛らしいぬいぐるみにされたのだ。
「いい加減放せ!小娘っ!」
じたばたと、シェリーの胸の中で暴れるギルシェルル。ふわふわでまあるい手足がばたつく姿に『この世の最悪』と呼ばれ、人々に恐れ戦かれていた魔王の姿など、何処にもなかった。
「ああ……なんて惨めななりだ……」
ギルシェルルは、自身のふわふわなボディを見下ろしながら嘆息した……