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落雷の伝道 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 電気を通す金属の中で、よく使われるものといったら、みんなは何を思い浮かべる?

 ――うん、銅か。いいところだな。

 通電性だけみたら、銀の方が上なのだけどね。銀は装飾品などにも使われることが多い。お値段が高くて、そうそう量を確保できるものじゃないのさ。

 ゆえに安価な胴に注目がされて、電気関連によく用いられるようになったんだ。


 自然の中にあるもので、有名な電気といえば雷だろう。

 雷が電気でできていると判明したのは、18世紀にフランクリンが凧を使った実験を行ったためだ。そして避雷針の開発につながったのだという。

 雷をコントロールする。こいつは人類の古くからの夢と目標のひとつだった。

 山火事の脅威を味わった人々にとっては、安心して暮らせる保障が欲しかったし、あるいは敵対するものへ下す、大きな武器としての利用も期待もした。

 その研究の一端、どうやら先生の地元にも存在したみたいなんだよ。その話、聞いてみないかい?



 雷を任意の場所に落とす研究。「かわす」でなく「落とす」というあたりに、能動的な雰囲気が漂うよね。

 その雷落としのために、扱われたのが銅像づくりだった。

 当時、すでに仏像製作で銅を加工するすべは広まっていたらしい。同時に、先生の地元は銅がよく取れる立地だったらしくてね。それを用いた、像の作成と雷を通じた神様への願掛けが行われていたとか。

 先に話したように、銅は電気を通すに適した金属だ。手近で採れやすいものを使ったとはいえ、どこかしら因縁めいたものを感じなくもなかった。



 実際、この像づくりに関しては100年近く続いたようだが、じょじょに採掘量が減り、ひとつの像にかけられる銅の量も目減りしていった。

 その結果、何かをかたどった姿をとることはなくなり、デザインはより細く、より単純なものへと変じていく。

 そうしてできたのが、針のように先をとがらせた柱だ。作り手の背の高さに合わせて作られたそれは、天へ先を向ける釘にも思えた。

 そこへ雷を誘って落とす。これが村民たちの目的だったんだ。


 詳しい記録が残っているわけではないが、村民たちは定期的に作った柱たちを観測していたらしい。年によっては10回以上、柱とその近辺に稲光が落ちるのを見た者がいた。

 彼らが目指すのは、柱への直撃。重なる観測で、光の後で真っ先に樹が火を噴くこともあり、あたりの木々も邪魔になると彼らは悟り、あらかた平らにしてしまった。

 並行して、新たな柱も作られ続ける。

 最初は10本程度だった柱も、1年がすぎるころには30本を超えるようになり、互いに身を寄せ合って、針山のごとき様相を見せていったんだ。

 銅の量は減り続けていたが、雷の研究もおろそかにできない。その妥協点として、作られる柱はなお細さと鋭さを増していったんだ。



 それにこたえるかのように、落雷もまた集中していく。

 1日中続いた雷雨の中では、ほぼ一刻ごとに柱たち目掛けて落ちる光が見られたこともあるようだが、じきに奇妙な落ち方をする雷が見られるようになった。

 目のいい者でなければ気づけない、一瞬のもの。だが、観測できたものは「炎が走った」と語る。

 光が銅の柱へ落ちるとき、ほぼ同時に柱の足元も赤々と輝いた。

 その火はたちまち、糸のように原っぱへ伸びて、かなたへ走りながらすぐ消えてしまったというんだ。残るのは降る雨に直ちに消し止められ、焦げきった草葉の跡のみとなった炎の軌跡のみ。

 それも降り落ちるしずくの重みに耐えかねてか、雨が止むころにはすっかり砕け散っているありさまだったのだが。



 このおこりを境にして、にわかに銅の柱への落雷の収束率があがった。

 雷が落ちるとき、件の柱へ集まり、また火を草原へ放っていく。

 何度も見ていくうち、炎は一定の方角にのみ伸びていくことを、村人たちは確かめる。

 落ちる柱の位置によって、多少の経路の誤差はあるものの、いずれも火が立ち、焦げた草の残る道は、いくらもいくと川のように合流していく。

 そのうえでなお、草が絶えて伸び続ける道は、1里先でもとどまらぬ長さだったとか。


 示された道の怪しさに、村人たちはある晴れたときに、とうとう道の端を見届けようと行動を起こした。

 めいめいで槍や弓矢といった得物を携え、遠く獣を狩りに行くときのように、食料も多めに用意する。

 彼らの追跡は、実に一昼夜をかけるものになり、いずれの村の境にも属さない未踏の地。その崖下へと導かれたんだ。


 彼らはそこに寝転んでいた生き物を、大きな猫だと思ったらしい。

 全身を真っ黒にするそれは、たどり着いた10数名を丸ごと下敷きにしうるほどの巨体。

 だが、鼻のいいものは猫から金物と焦げの臭いとを敏感に感じ取っていたという。

 猫の全身は、銅でできていた。丸まって寝転がるその姿は、右の前足を口へあてがうような格好だったが、その手の先にも銅の鉱石を乗っけて、いまにも食べようとしているかのようだったとか。


 はっきりしたことは分からないが、この地域の銅を、目の前の奇怪な猫は食らい続けていたのだろう。

 それを許さじとした神が、天罰を下したように彼らには思えたとか。

 そしてこれを確かめてより、めったに銅の柱へ雷が直撃することはなくなったという。

 


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