第99話 【偽装・1】
ユリウスに女が出来た。
その噂は、アンジュへ贈り物を渡してから数日後に流れ始めた。
今まで一切、女の影が無かったユリウスが女性と密会している。
そんな噂が今は城内で出回っていた。
「ユリウスさん、どうするんですか? 変に隠そうとした結果、騒ぎになってますけど」
「まさか、こうなるとは私も思いませんでしたよ! た、確かに今まで女性と付き合った事とかありませんけど、まさかここまで噂が流れるなんて……」
ユリウスは自分に女性の噂が出来ただけで、こうも騒ぎになるとは思っていなかったみたいだ。
んっ、今ユリウスなんて言った?
「ユリウスさん、今までお付き合いした事が無いって言いました?」
「そうですよ。今まで、誰とも付き合った事……あっ」
「……」
言葉を言い切る前にユリウスは気づき、顔を赤く染めるとその顔を隠して蹲った。
いや~、まさかあの剣聖ユリウスがな~、ゲーム時代その設定は書かれてなかったから、普通になんとも思ってなかったけど……。
「童貞なんですね」
「あぐっ!」
ユリウスは俺の言葉を聞くと、そのまま地面に倒れてしまった。
うん、ユリウス関連で面倒な事に巻き込まれたけど、この情報を知れて対価としては割が良い。
「まあ、ユリウスさんが童貞という事は置いておいて、本当にどうするんですか? このままだと、折角仲直りしたアンジュさんと簡単に会えないんじゃないですか?」
「そ、そうだね。僕の事より、アンジュの事を心配しないと」
俺の言葉になんとか立ち上がったユリウスは、フラフラの状態でそう言った。
「逆にもうユリウスさんが公表した方がいいんじゃないですか? それで、アンジュさんには近づかないようにっていうのは、どうなんですか?」
「それだと、逆に近づく人が出ると思うよ。天涯孤独の身として今まで生活していた私に、義兄妹いるなんて知られたら一度は目にしたいと動くものが現れると思いますね」
「確かに……だったら、ユリウスさんに彼女を作ればそっちに注目がいくんじゃないですか?」
アンジュは貴族に近づかれるのを嫌ってる為、貴族の出か多い兵士達に知られると自ずとアンジュに貴族が近づく可能性がある。
それを防ぐには今の騒ぎの矛先を完全に別の誰かに移せば、今後は安心して会えるようになるかも知れないと思い提案した。
まあ、この場合上手く言って彼女が出来たとしても、浮気相手か? みたない噂が流れるかもしれないけど、今のこの騒ぎよりかはマシだろう。
「か、彼女ですか……」
「ええ、そしたらアンジュさんに向けられる興味が薄れると思いますよ。まあ、二人目の女とか、浮気相手とか思われる可能性も無いとは限りませんけど」
「そ、それじゃあ駄目じゃないですか……」
俺の言葉にユリウスはそう落ち込み、俺も冗談ではなくちゃんと本気で対策を考えようと考え始めた。
その結果、二人だけじゃ良い案は思いつかないとなり、取り敢えず事情を知っているギルドに助けを求める事にした。
「成程、アンジュさんとユリウスさんの関係は先日お聞きしました。街の方では一切噂は流れていませんが、城内では既に噂になってるんですね」
「はい、街ではかなり警戒して動いてましたけど、城内では少し気が緩んでいましたのでそこを勘づかれたんだと思います。今、ユリウスさんとアンジュさんの関係を知ってる城内の者は、俺を含め3人です」
姫様は勿論の事、クロエもユリウスとアンジュの関係について話してある。
というのも、姫様は元々アンジュの事を知っているし、クロエには伝える義務があるとユリウスから話していた。
後は城内の人間という枠組みではなく、姫様直属の部下の間ではユリウスとアンジュの関係は知られている。
まあ、最初に見つけたのがその人達だし知っていて当然ではある。
「アンジュさんの思いとしては、ユリウスさんと会う事は良いとして貴族と会うのは嫌という事でしたよね」
フィーネさんはそう言うと、考え始め「少し待っていて下さい」と言って部屋から出て行った。
それから数分後、フィーネさんは資料を持って戻って来た。
「ユリウスさんは確か、王国直属ではなく姫様直属の部隊で姫様の命令の元で動く事が可能でしたよね?」
「はい、そうです」
「でしたら、ユリウスさんは姫様に命令で遠くへ遠征に行ったという事にして、偽名と変装を使いギルドに冒険者登録をして、アンジュさんと会うというのはどうでしょうか? これまでもユリウスさんは姫様の命令で遠くに遠征に行かれた事が多数ありますから、その様に偽装すればうまく会う事は可能だと思います」
その提案に俺は、その手があったかと感心して、ユリウスも目を見開いて驚いた顔をしていた。
王国直属の兵士だと、一々面倒な手続きをしないと遠くに行く事は不可能だが、ユリウスは姫様の部下という立場。
その立場は他の兵士達とは違い、姫様の命令の元で自由に動く事が可能。
そしてその姫様はこの秘密を知ってる者の一人でもあるから、ユリウスのお願いだったら聞いてくれるだろう。
「流石、フィーネさんですね。俺とユリウスさんでは思いつきもしないアイディアでしたよ」
そうお礼を言うと、フィーネさんは「お役に立てて良かったです」とニコリと笑みを浮かべてそう言った。
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