第98話 【贈り物・3】
リーザの所でミスリルの加工を頼んでから数日後、リーザから出来たという手紙が届き俺はユリウスと共に店に取りに向かった。
「いらっしゃい、待っていたよ」
店に入ると、リーザはそう言って出迎えてくれた。
「はい、これが頼まれていた物よ。どう?」
「さ、最高です……こんな美しい造りをした物ははじめて見ました……」
ユリウスはリーザから受け取った装飾品を見て、そう感想を言った。
ミスリルを全て、装飾品に変えて欲しいと頼んだユリウスの前には、首飾り・耳飾り・腕輪の3種類が一つずつ置かれていた。
「こんな短期間で、二度もミスリルを扱えるとは思わなかったよ。ありがとね、ジン」
「まあ、俺は紹介しただけですからね」
リーザにお礼を言われた俺はそう返すと、未だリーザが作ってくれた装飾品を見て釘付けになっているユリウスさんを呼んで支払いをするように促した。
そうして支払いを済ませたユリウスは、用意していたプレゼント用の箱に装飾品を入れて、リーザに深く頭を下げて「ありがとうございました」とお礼を言った。
それからリーザの店を出た俺は、ユリウスから一人で渡すのは無理だと頼まれ、そのままユリウスに同行して冒険者ギルドへと向かっている。
「いい歳した大人が女性に物を渡すのに緊張するから、付いてきて欲しいって剣聖様に憧れてる人が聞いたら笑いますよ……」
「し、仕方ないじゃないですか、彼女と会うの本当に数年振りなんですから……」
「だからと言って年下の後ろに隠れながら歩くのはどうかと思いますけど……俺、目立ちたくないって散々言ってますよね」
ギルドに近づくにつれてユリウスの気持ちは小さくなり、俺の後ろに隠れながら歩いている。
俺はそんなユリウスに注意しながら、ギルドへと向かい早く渡してこの状況から解放してもらいたいと考えていた。
「あれ、ジンさん? 今日は、ギルドに来る予定ありましたか?」
「いえ、俺は本来無かったんですけど、この人の付き添いで来る事になったんです……」
そう言って俺は、俺の背中に隠れてるフードを被ったユリウスの顔を受付に出て来たフィーネさんに見せた。
フィーネさんは今日、ユリウスが来る事は知っていたみたいで驚く事無く、色々と察して俺達を部屋に案内してくれた。
「ユリウスさん、そろそろシャキッと歩いてくださいよ。もうそこまで来てるんですから」
「そ、そう言われましても……」
こんな剣聖、ゲームでも一度も見た事無いぞ……。
「ジンさん、ユリウス様、こちらでお相手の方はお待ちしております」
「案内ありがとうございます。フィーネさん」
部屋まで案内してくれたフィーネさんは、自分の仕事があるからと言って去って行った。
「はい、ユリウスさん入りますよ。もう相手の人は待ってるみたいですから」
「うっ、そ、そのもう少し気持ちの整理の時間を……」
「……失礼します。ユリウス様を連れてきました~」
部屋の前まで来て尚、覚悟を決めてないユリウスに俺は無理矢理部屋の中へと連れて入った。
そして相手の方を見ると、そこには見覚えのある人が居た。
「えっ、ジン君?」
「……アンジュさん?」
部屋の中で待っていた人物に俺は驚き、確認の為にアンジュの隣に座ってるレイナに色々と聞いた。
すると、ユリウスが呼び出した相手はアンジュで間違いない事が分かり、俺は理解が付かなかった。
その後、何とか落ち着いた俺は今だ隣でビクビクしているユリウスを一先ず置いて、アンジュに質問をした。
「あんなに強くてキラキラしてた人が元孤児なんて、言われても全く信じられませんよ」
「ここまで成り上がるのに、結構苦労したのよ? ずっと一人だったからね。どこかの誰かさんが姫様に付いて行くって言って、妹同然の私を置いて行ったから」
「ッ!」
アンジュの言葉にユリウスの体は反応して、バッと立ち上がるとアンジュに頭を下げた。
「あの時はすまない!」
「……もう良いわよ。私もそこまで根に持ってないし、あの時離れるって最終的に言ったのは私だったもの」
ユリウスの謝罪に対してアンジュはそう返すと、だから頭を上げてと続けて言った。
「それで今更、あんたが私と会いたいってどういう事なの? ずっと私は王都で活動してたから、いつでも会えたはずよね? もしかして、私が金級になったから近づいたのかしら?」
「ち、違う! アンジュの事を知ったのは最近なんだ! それまで、アンジュが王都で活動してるなんて全く知らなかったんだよ」
アンジュはユリウスを疑った様子で見ながらそう言うと、ユリウスは必死になってそう弁明した。
流石にそんな姿をしたユリウスを見た俺は、あまりにも可哀そうだと感じて助け舟を出す事にした。
「アンジュさん、ユリウスさんの言ってる事は本当ですよ。今まで色んな所を探していたけど、王都は居ないもんだと思い込んで捜査の対象外にしていたらしいんですよ」
「じゃあ、その捜査の対象外にいた私を何で今更見つけ出したのよ?」
「……偶然と言いますか、ほらアンジュさん少し前に俺の昇格試験を受けてくれた事がありましたよね?」
「ええ、覚えているわよ」
「その時から俺ってこの国の姫様から色々と調べられていまして、その捜査部隊の中にユリウスさんも居まして、そこからアンジュさんの事を知ったらしいんです。まあ、正直本当にそこで知ったのかと俺も思いますけど……」
そう言いながら俺は、隣でアンジュから疑われて泣きそうなユリウスを一瞥した。
アンジュも俺の視線に釣られてユリウスを見て、目を閉じて溜息を吐いた。
「分かったわよ。じゃあ、私の存在を知ったのがここ最近って信じるわ」
アンジュのその言葉を聞いたユリウスは、眼に涙を浮かべて「ありがとう」と言った。
それから、アンジュは再会して話す為に呼んだの? とユリウスに聞くと、ユリウスは首を振り「約束を果たす為に来た」と言った。
「約束? なにかしてたかしら?」
「えっ!? 忘れてたの、ほら昔ミスリルの装飾品が欲しいって」
「……えっ待って、あの時約束したのってまさか!」
アンジュはユリウスの言葉を聞いて、今度は逆に驚いた顔をした。
そしてそんな驚くアンジュの前に、ユリウスは箱を置き蓋を開けて中を見せた。
その中に入っていた物を見たアンジュは驚き、更に横で話を聞いていたレイナも「嘘、これって!?」と一緒になって驚いた。
「あの時、約束した。ミスリルで出来た装飾品。出来るだけ、体格で合わないとかならないような箇所を選んで作って貰ったんだ。どうかな?」
「どうかなって……あの時、約束した事を本当に叶えるなんて思わないでしょ普通……」
アンジュはそう言いつつ、嬉しそうに表情で箱の中身を見つめた。
そしてユリウスは「その、つけさせてくれるかな?」と聞くと、アンジユは頷きユリウスはアンジュの後ろに回り首飾りを付けた。
そして残り耳飾りと腕輪もアンジュに付けてやると、ユリウスは「凄く似合ってる」とアンジュに向けて言った。
「……」
ユリウスから装飾品を付けて貰ったアンジュは、目に涙を浮かべ今にも泣きだしそうになっていた。
うん、これは俺とレイナは完全に邪魔者だな。
そう感じた俺はレイナとアイコンタクトで通じ合い、ユリウス達の邪魔をしない為に部屋を出た。
その後、部屋からアンジュのすすり泣く声が聞こえて来て、俺の役目もここで終わりだろう。
そう思った俺はレイナに、先に帰ってるとユリウスさんに伝えて下さいと言って俺は城に戻る事にした。
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