第87話 【二ヵ月・3】
「ジンさん、ちょっと良いですか?」
食堂を出て部屋に戻ろうとしていたら、後ろから声を掛けられ足を止めて振り返ると、そこにはゼフが居た。
「ゼフさん、どうしたんですかこんな時間に?」
「いえ、丁度ジンさんが居たのでお伝えしておこうと思いまして、明日姫の護衛が終わりましたらお話がありますので、お時間を開けていて欲しいんです」
「分かりました。家の事ですよね?」
ゼフの顔を見て、何の話か察した俺はそう聞くとゼフは頷いた。
家の事を調べるのに約二ヵ月も掛けたという事は、何かしらの問題が見つかったのかもしれないな。
それから俺は部屋に戻り、いつもの日課を済ませてベッドに横になり眠りについた。
「ねえ、ジュン君。少し前から思ってたけど、筋肉が前よりついた?」
翌日、学園に着いた俺は姫様と話していたミリアーナからそう言われて、ペタペタと体を触られた。
この二ヵ月間、身体能力を上げる為に兵士に交じって訓練なんかもしていたせいか、以前よりも筋肉がついたりしている。
その筋肉量から、俺の強さが気になったのだろう。
「まあ、護衛ですからね。毎日、鍛えていますよ」
「へぇ~、でもこの体。戦士科よりも鍛えているんじゃないの? そこの所、どうなのフィーちゃん?」
ミリアーナはまた宿題をするのを忘れ、今急いで映している姫様へと声を掛けた。
「強いわよ。だって、私が選んだ護衛なのよ? 学園の生徒より強くないと、意味ないでしょ?」
「わ~お。フィーちゃんが言い切るなんて、珍しいね? それだけジュン君って強いの?」
姫様の言葉にミリアーナは、目をパチパチとさせて驚くと、興味津々といった様子で俺の事を見て来た。
そんなミリアーナに対して姫様は「はい、ミリア。ありがとね」と言って借りていたノートを返した。
「それとこの子達の力は、私が危険にならないと見せられないからね。興味があっても、多分見る事は無いわよ」
「え~、フィーちゃんがあそこまで言い切る強さ見たかったな~」
ミリアーナは残念といった様子でそう言うと、丁度先生が着たので自分の席へと戻った。
余程、見たかったのかその後も何度かミリアーナは、俺の強さに興味がある風な事を言ってきて、何度今更そんな事を言い始めたのか姫様が聞いた。
「ほら、もう直ぐ長期休みに入るでしょ?」
「ええ、そうだけど、それとジュン達の力を見たいにどう繋がるの?」
「ほらっ、前の子も休みに入った時に変わったから、ジュン君達も変わるのかなって、そしたらフィーちゃんがあんなに強いって言ってた子達どんな力持ってたのかなって気になると思って……」
ミリアーナの言葉に姫様は、俺達の事を見て「まあ、そうなる事はもう決まってるわね」とミリアーナに言った。
「や、やっぱりそうなんだ……」
「ええ、この子達も貴族の子だから、そんなに長期間預かる事は出来ないのよ。家の事とかもあるし、今も無理を言って私の護衛に付いてもらってるのよ」
「そうなんだ~、残念」
姫様の言葉でミリアーナは諦めたのかそう言って、自分の席へと戻った。
その後、落ち着いたミリアーナだったが何処か落ち込んだ様子で、姫様はずっとミリアーナの事を気にしていた。
「姫様、ミリアーナさんとティアナさんなら、少しだけ見せても良いですよ。二人の事はこの二ヵ月見て来て、言いふらさないと約束したら守ってくれる方達だと思うので」
「良いの?」
学園が終わり馬車で城に帰宅してる途中、俺はクロエと話し合って二人になら力を見せても良いと決め、姫様にそう伝えた。
この二ヵ月、姫様の護衛である俺とクロエに二人は本当に優しく接してくれた。
それを見てきた俺達は、二人の人間性を見て今回のミリアーナのお願いを聞こうと決めた。
「まあ、学園でやると大勢の人にバラす事になるので、見せるなら城に二人を呼んでもらう事になりますけど、それで良いならですけど」
「その位、大丈夫だと思うわ。ありがとうジンさん、クロエさん」
その後、城に帰宅した姫様は二人を城に呼ぶための準備があるからと言って、嬉しそうに馬車を降りた。
「……良かったのジン君? 私は別にそこまで自分の事を隠そうとしていないから、良いよって言ったけどジン君は隠したがってたよね?」
「正直な話、見せないなら見せないまま護衛の任務を終わる予定だったんだが……あそこまで言われて、二ヵ月間よくしてもらったのに何も返せないまま消えるのはどうかなって思ってな、それに変装はしてるから〝冒険者のジン〟の強さがバレる事じゃないからな」
そう見せるのはあくまで、姫様が用意した貴族の息子であるジュン。
冒険者ジンとは、また別の存在だ。
「ジン君がそれでいいなら良いけどね」
それから数日後、姫様は学園が休みの日にミリアーナとティアナを城に招待した。
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