第86話 【二ヵ月・2】
そうして訓練場で訓練をしていると、俺に近づく音がして振り返るとユリウスが居た。
あの事件からユリウスの体の調子は徐々に良くなってきていて、今では普通に剣を振るうくらいは問題無いという状態になっている。
「ユリウスさんも今から訓練ですか?」
「うん、そうだよ。ねえ、ジン君少しだけ戦わない?」
「良いですよ。俺も相手してくれる人が欲しかったところなので」
ユリウスの言葉に俺はそう返し、【異空間ボックス】から木材で出来た刀の形をした剣を取り、ユリウスと模擬戦闘を始めた。
流石にユリウスは以前の様な強さはまだ戻ってないが、剣術においての技術は劣っていなくて、案外いい勝負となった。
「〝剣聖〟って呼ばれてるだけあって、寝込んでいたのにその強さですか……」
「これでも大分、力は落ちてますけどね。中々、思うように自分の体が動かなくて辛いですけど、自業自得ですから」
ユリウスは辛そうな表情をしながらそう言った。
その後、一時間程戦った俺達は良い感じに満足したので模擬戦闘を終わりにした。
そして俺は自分の訓練に、ユリウスは今日の訓練は終わりにして城の方へと戻って行った。
「なあ、ジン。ユリウスの調子、どんな感じだ? あいつ、俺とは戦ってくれないから、よくわかんないんだよ」
ユリウスが居なくなった後、コッソリと俺に近寄って来たアンドルはそう聞いて来た。
「まあ、以前ほどの強さはまだ戻ってませんが、大分良くなってきてますよ」
「そうか、それなら良かったよ。あいつ俺達に迷惑掛けたからって、未だに距離置いてんだよな……」
「俺とかクロエとは普通に話してるんですけどね。ユリウスさん、何でアンドルさん達と距離を取ってるのか分からないですよ」
「俺もだ……迷惑かけた相手から距離を取るんなら、ジン達とも取るはずなのに、ジン達とは普通に接してるからな……特に俺とは距離を置いてて、なんで本当に分からん」
アンドルはユリウスの行動に頭を抱えているが、俺は何故ユリウスが距離を取ってるのか大体わかっている。
兵士達ともある程度、距離を置いているユリウスは特にアンドルとはなるべく会わない様に距離をとっている。
その理由は単純に、ユリウスがアンドルに自分の弱い所を見せない為だ。
これは設定資料を見て知った事なのだが、ユリウスはアンドルにライバル意識みたいなものを持っていると書かれていた。
「まあ、そのうちユリウスさんも落ち着いて以前と同じようになると思いますから、焦らず待って居ましょうよ」
「……そうだな、焦られせても良い事はないしな、あいつが元に戻るのを待つしかないか」
アンドルはシュンッと悲し気に、ユリウスが去った方向を見ながらそう言った。
それから俺は一人となり、夕食の時間まで集中して訓練を続けた。
「ジン君、お疲れ様。今日も凄く集中して訓練してたね。でもあまり無理しちゃだめだよ?」
訓練後、シャワーを浴びて汗を流した俺は食堂に行くと、先に来ていたクロエからそう声を掛けられた。
「ああ、分かってるよ。ただ刀に変えてから、なんだか今までより体が上手く動かせるようになって、楽しくてついて長くやってしまうんだよ」
「凄いよねジン君、私も刀持たせてもらったけど、上手く使いこなせなかったよ」
「相性だろうな、俺は元々刀に合う剣術を自力で身に付けていたみたいだからな、それが上手くハマった感じだ」
そう言いながら俺は食事を取って来て、クロエと同じテーブル席に座った。
「クロエの方はどんな感じだ? 主に魔法を集中して訓練してるけど」
「うん、良い感じだよ。前まで動きながらの魔法は制度が少し落ちてたけど、そこも慣れて来て魔法の威力を落とさず攻撃できるようになったかな」
「お~、それは良いな。ってか少し前から、ほぼサポート側に回って貰ってるけど良かったのか? クロエは前に出て戦方が好きだったんじゃないのか?」
俺がどちらかというと剣術中心で訓練していたせいか、クロエは魔法の方を中心に訓練をしていた。
もしそれが俺のせいなら、申し訳ないと思いそう聞いた。
「好きか嫌いかで言うと好きだけど、最近は魔法も好きなんだよね。それにジン君なら安心して前を任せられるから、サポートに徹せるなって思ったんだ。だから私は私で、ジン君に後ろを任せて貰えるように頑張ろって最近は思って頑張ってるんだ」
「今でも十分、クロエには後ろを任せられるよ。俺以上に探知能力は高いし、それに魔法も使えるからな、いざって時はクロエは剣術も得意で本当に後ろに居てくれるだけで安心するよ」
そう俺が思っている事を口にすると、クロエは「そ、そんなに褒めないでよ……」
と顔を赤く染めて照れた。
まあ、言ってる俺も少し恥ずかしいけど、実際に思ってる事だし、ちゃんと口にしておこうと俺は思って言った。
仲間同士で意見をちゃんと言えず、仲が悪くなり解散したっていう話は沢山ある。
今更、クロエと仲間じゃなくなるのは俺自身もかなりの痛手だからな。
その後、クロエは自分の食事を急いで食べ終えると「また明日ね」と言って、小走りで去って行った。
その様子を周りで見ていた兵士達はニヤニヤと笑みを浮かべ、俺は居心地が悪いなと思い。
俺も急いで食事を済ませて、食堂を出る事にした。
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