第81話 【褒美・3】
馬への贈り物のニンジンを受け取ってくれたネルス。
そんなネルスに、俺は彼自身へのお礼の品を取り出した。
「そちらは?」
「これは、ネルスさんに対しての贈り物です。そこまで高価な物でもないので、受け取ってください」
そう言いながら、半ば無理矢理渡した。
俺達がネルスに贈ったアイテム、それは御者用のクッションだ。
「ネルスさん、以前クッションが壊れて買い換えないといけないと仰っていたので、これだったら喜んでもらえると思いまして」
「あっ、これは私が欲しかった物だ……」
「偶々入ったお店がネルスさんがいつも行くお店だったみたいで、ネルスさんへのお礼の品どれがいいか聞いたら、それをおススメされたんです」
これは本当に偶然で、偶々寄った雑貨屋がネルスの知り合いのお店だった。
俺はそこの店主に、ネルスへの贈り物をどうしようか迷っていると言うと、今渡したクッションを欲しいと言っていたと聞いてプレゼントする事にした。
「この手触りが良いんですよね。ありがとうございます」
「いえ、こちらも昨日は助かりましたので……所で、クロエさっきから馬をずっと見てるけど、どうしたんだ?」
「えっ? あっ、そのさっきネルスさんがお馬さんに餌やってて、私もやってみたいな~って……」
そんなクロエの言葉にネルスは「それでしたら、食べさせてみますか?」と言い、先程やったニンジンをクロエに渡して食べさせ方を教えた。
その光景を見ていた俺は、ふと前世での職場体験の事を思いだした。
今は臭いが魔法で軽減されているのか、前世で行った馬の厩舎は馬の糞の臭いで相当きつくて、昼飯の弁当も食べるのが億劫だった。
ただそこで初めて乗馬を体験して、馬の背中に乗る楽しさを始めて知った。
折角、異世界に転生してるんなら、俺も馬とか自分で持ってみようかな? 自分用の馬が居れば、遠出も直ぐに出来るだろう。
「わ~、凄いムシャムシャ食べてる~」
昔の事を思いだしていると、クロエはネルスから教えてもらったやり方で馬に餌をやり、馬の食いっぷりに楽しそうに笑っていた。
「ジンさんもどうですか? この子、かなり大食い何でまだ食べられると思いますよ」
そうネルスから言われた俺は「じゃあ、やらせてください」と言い、クロエと同じように馬にニンジンを食べさせ、その食いっぷりに俺も笑ってしまった。
その後、厩舎を出た俺達は用事を全て済ませたので城に帰宅した。
帰宅後、厩舎で臭いが軽減されてるとはいえ、このまま城を歩き回れないと考えた俺はシャワーを浴び、服を着替えた。
「ふぅ、やっぱり少し服に臭いついてたな、なんだかスッキリした感じだ」
それから俺は部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、姫様付きの従者から姫様が呼んでいたと聞いて、姫様の部屋に向かった。
コンコンと部屋の扉をノックして中に入ると、既にクロエは来ていて「すみません、遅くなりました」と謝り中に入った。
「それで、どうしたんですか急に呼び出しなんて」
「ジンさん達への褒美が決まったので、それを渡す為にお呼びしたんです」
姫様はそう言うと、壁際に待機させていた従者を呼びテーブルに何やら資料と箱をおかせた。
先に箱を開け、中を確認させてもらうと、そこには大量の金貨が入った袋と高価な回復薬が入っていた。
これらは先日渡したミスリルのお礼と、ユリウス捜索のお礼が合わさった物だと最初に説明された。
「今回ご用意させてもらったのは、まず金貨600枚と高級回復薬になります」
「き、金貨600枚?」
「えっ、金貨600枚って、ええ!?」
俺とクロエは姫様が口にしたお金の量に、理解が追い付かず驚いた顔をしてそう言った。
「さ、流石にそれは貰いすぎじゃないですか?」
「いえ、これでも少ない方だとこちらは考えています。剣聖であるユリウスは、この国の大切な戦力です。そんなユリウスをジンさん達は、誰よりも早く発見してくださいました。朝、お話した通り発見が遅れていたらユリウスは後遺症が残り、剣聖としての役目が出来なくなっていた可能性もあったんです」
「確かにそうですけど……流石に、貰い過ぎじゃないですか?」
「……彼は、この国の最高戦力の一人です。そんな彼が後遺症が残り、剣聖の役目が出来なくなったと他国に知れた時、どのような事が待っているか聡明なジンさんなら分かりますよね」
そう言われた俺は、ユリウスが居なくなった時の考え、その結果の未来を予想して「戦争」という言葉を口にした。
この世界、魔王が現れ勇者と七人の戦女が打倒魔王の為に戦う物語だか、敵対してる国があると原作でも書かれていた。
流石に魔王という共通の敵が現れ、表面上は協力してる国もあったが、中にはそんな状況でも戦争を起こそうとしていた国もあった。
「ユリウスが居なくなった事、何故か既にとある国は知っていました。どうやって情報を手に入れたか分かりませんが、国が危ない状況だったのは変わりません」
「そんな事が裏で起きてたんですか……あの、一つ思ったのですが、今回の事件を起こしたユリウスさんって、何か処罰とか受けるんですか?」
「ユリウスの所属は私の部下なので、国からの罰は一定期間の自由な行動の禁止くらいです。ただ国を危険にしたという事は変わりないので、体調が戻り次第ユリウスには罰を与えるつもりです」
姫様はかなり疲れた様子で言い、大分ユリウスの為に動いたんだなと分かった。
それから俺達は、もう一つの褒美としてテーブルに出された資料の方の説明をしてもらった。
「こちらは私からというより、国からのお礼の品です。デュルド王国には国が許可を出さないと、その場所への立ち入りを禁止している場所がいくつかありますのはご存じですか?」
「はい、王都の近くにもいつくかありますね。中にはダンジョンとかもあって、それこそ国が認めた冒険者しか入れない所とかもありますけど……」
俺はそこまで言って、もしかしてと思い資料の方に目をやっていた視線を姫様へと向けた。
すると姫様は、ニッコリと笑みを浮かべた。
「それらの場所に自由な入場権利をジンさんとクロエさん、そして今後ジンさん達の仲間になる方への贈呈する事になりました」
「ッ!」
姫様のその言葉に、俺は驚きすぎて立ち上がり、クロエもその報酬ヤバさに言葉を失っていた。
「貴族の人でも許可を貰えてない人が大半なのに、冒険者の俺達が貰っても良いんですか?」
「勿論です。それだけの功績をジンさん達はしたんです。お父様も今回の件は、ジンさん達が居なかったら危なかったと言っていました。なにせ私達は、ユリウスが向かった場所すら最初検討すら出来てませんでしたから」
そう姫様が言われた俺は、顔を俯かせここ数日思っていた事を口にした。
「……いや、でも元を辿れば俺がユリウスさんにミスリルの話をした事が原因ですよ。なのに、こんな報酬を……」
俺がユリウスさんにミスリルの事を話さなかったら、今回の事件は起きる事は無かった。
俺はその事をここ数日、ずっと考えていた。
「確かに、ユリウスはジンさんの話を聞きミスリルを求め、ダンジョンに向かったのは事実です。ですが、事件が起きたのはジンさんのせいではないと、私達は考えています。ユリウスがきちんと報告をして、ダンジョンに行っていれば、今回の事件は起きなかったのです。ですので、ジンさんが責任を感じる事は何もありません」
それから俺はクロエからも慰められ、ここ数日溜まっていた色んな感情が溢れ涙を流した。
その後、話し合いが終わると俺は部屋に戻ってベッドに直ぐに横になった。
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