第580話 【課題・2】
翌日、朝食を食べ終えた俺は準備を済ませて空島へと向かった。
空島に着くと既に師匠は外に出ていて、ドラゴン族と戦っていた。
「おっ、ジン。久しぶり」
「スカイさん、何でいるんですか?」
「そりゃ、マリアンナとジンが修行するって話が俺の元まで来たから見学に来たんだよ。お前達の戦いは面白いから、見逃すわけにはいかないだろ?」
スカイさんがそう言うと、スカイさんと同じように俺と師匠の模擬戦を見る為に昨日よりもドラゴン族が多く集まっていた。
「師匠とただ戦うだけと思ってたけど、なんかイベントみたいになってるな……」
「ジン対マリアンナなんて面白い組み合わせ。騒がしくならない方がおかしいと思うけどな?」
「そうそう。ドラゴンより魔法が得意な二人だしね~」
「ジン。頑張れよ~」
集まっていたドラゴン族達から、そんな声援が送られてきた。
それから俺は準備運動を終え、師匠と対決についていくつか話し合った。
試合内容は魔法のみ使用可能で、転移無しと単純なルール。
「転移は無しですか……」
「ええ、便利な魔法だけど禁止にしたらいつもと違って苦しい戦いが出来て楽しいと思うわよ」
「成程、分かりました。それじゃ、早速勝負しましょう!」
それから互いに位置につき、スカイさんに試合開始の合図をお願いした。
試合開始早々、俺と師匠は互いに火属性の魔法を放ち、互いの魔法がぶつかり合い爆発した。
爆発で起きた爆風により視界が悪くなった瞬間、師匠の方から異常な魔力を感じ取った。
「ヤバッ!」
瞬時に俺は壁を作ると、その壁に無数の氷の柱が突き刺さった。
その後、転移無しでの戦いが久しぶりな俺は防戦一方で試合終了まで攻める事は出来なかった。
「弟子ちゃん、やっぱり転移が無いときつかったかしら?」
「そうですね。普段、戦ってる時はそんなに意識してなかったんですが、いざ使用禁止となるとそこに意識が持っていかれてたのか上手く戦えませんでした……」
「普段使ってる技を封印されたら、誰だって意識はすると思うぞ。ブレスを吐くなと言われたら、我も普段通り戦えはしないからな」
転移を封じられた俺にとって、翼をとられたようなものだしな。
そう考えると、普段から転移を使って戦ってるのに普段と変わらない戦い方をしていた師匠は凄い。
「……ただこれはこれで面白いですね。最近、苦戦をした戦いが無くて面白いと感じてなかったので」
「あら、凄いやる気ね。じゃあ、もう少し休憩したらまたやってみる?」
「はい。お願いします!」
そうして俺は休憩を挟み、もう一度師匠と模擬戦闘を行った。
一度目よりも転移無しでの戦いに慣れて来たが、やはり転移の癖は抜けないが楽しい戦いが出来た。
「師匠。今回の模擬戦闘で自分の課題が確認出来ました」
「それは転移頼りの戦い方って事かしら?」
「はい。正直、便利でよく使ってましたが今回の師匠の戦いを見て、魔法の練度不足だと感じました」
スキルレベルに関して、俺と師匠は同じ限界レベルに達している。
しかし、スキルレベルには映らない魔法の技量や知識といった部分で俺は師匠にかなり劣っている。
そんな部分を今までは便利な転移で補ってるつもりだったが、今回の模擬戦闘を行って改めて痛感した。
「便利なものに慣れちゃうと疎かになる部分も出て来ちゃうものね。今回、それを弟子ちゃん自身で自覚できたのは良かったわ」
「……もしかして師匠。その為に今回、転移無しで模擬戦闘をすることにしたんですか?」
「ふふっ、それはどうかしらね~」
師匠は笑みを浮かべながらそう言い、師匠は本当に凄いなと改めて感じた。
その日の夜、俺は宿へと戻って来て姉さん達にある頼みをした。
「ジン君の頼みなら是非聞いてあげたいけど、その頼み私達で役に立てるかしら?」
「勿論だよ。正直、師匠とやっても良かったんだけど折角なら姉さん達の訓練にもなったらいいなと思ってさ」
姉さん達にした頼み。
それは姉さん達相手に、俺が一人で転移無しで戦うと言う内容。
師匠とした模擬戦闘を続けて良かったが師匠には、俺が成長した姿を見せたいと思い姉さん達に頼む事にした。
「ヘレナ、いいんじゃない? この間の戦いで力不足を感じて落ち込んでたし、いい訓練になると思うわよ」
「ルル。その話は内緒って!」
ルル姉の言葉に姉さんはそう反応をすると、フィオロが「あら私達全員知ってるわよ」とニヤッと笑みを浮かべながら言った。
既に周知の事実だと知った姉さんは、椅子に座り込み手で顔を覆い隠した。
「まあ、私達も自分達の力不足を痛感してたからお互い様だけどね。そんな訳だし、こんな機械滅多にないし受けてもいいと私は思ってるけど皆はどう?」
姉さんの代わりにルル姉がそう聞くと、満場一致で受けてくれる事になった。
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