第578話 【カグラ・4】
「……何でお前が居るんだ?」
「何だよ。依頼はもう終わっただろ? カグラから止められたのは依頼について行く事だからな」
カグラに昼飯を奢ろうと思い店に入ると、いつの間にか俺達の一緒の席にハンゾウが座っていた。
カグラも俺がハンゾウに声を掛けるまで気付いておらず、突然現れた自分の兄を見て驚いた声を出していた。
「妹を大事にするのは良いけど、ここまでされると逆に嫌われるぞ?」
「ふんっ、この程度でカグラが俺を嫌う訳が無いだろ。そうだろ、カグラ?」
「……」
「あれ、カグラ?」
ハンゾウの声掛けに対し、カグラは真顔で無視していた。
そんなカグラを見てハンゾウは徐々に焦り出し、何度もカグラに声を掛けたが全て無視されていた。
ハンゾウはそんな状況に耐えられず、カグラに謝罪をしてフラついた足取りで帰って行った。
「……ハンゾウがカグラの事を大事にする気持ちは分かるからさ、家に帰ったら何かしら許す口実でも作ってあげたらどうだ?」
「兄さんが私の事を大事にしてくれてる事は理解してます。でも、一度くらいは痛い目に合わせないといつまでも付きまとって来そうだったので」
「はは、分かってるなら俺からいう事は無いよ。さっ、飯でも食べようか」
そう言って俺はこの店のおすすめを注文して、カグラは初めてこの店で食べるみたいで美味しそうに食べていた。
その後、店の外でカグラと別れた俺は一足先にハンゾウの店へと向かった。
「ハンゾウはどうしてる?」
「奥でいじけてます。ジンさん、どうにかしてくれますか?」
案の定、ハンゾウはカグラから嫌われたと思っているらしく、店の奥でいじけて居るらしい。
部下からもそう頼まれた俺は、カグラが戻ってくる前に少しは元気付けてやるかと思い店の奥へと向かった。
「そこまで落ち込むなら、なんであんな事をしたんだよ……」
店の奥、ハンゾウの仕事部屋に入るとハンゾウはどんよりとした雰囲気を出し、天井を見上げてる目は生気を宿してなかった。
「ジン、カグラはどうしたんだ?」
「店の前で別れて、俺だけ先にこっちに寄ったんだよ。どうせこうなってると思ってな、お前その姿を戻って来るカグラに見せるつもりなのか?」
「……なあ、俺嫌われたのか?」
俺の話が聞こえてないのか、カグラから嫌われてるのかどうかを聞いてきた。
「嫌う訳ないだろ、自分が病気で苦しんでる間ずっと傍にいたお前の事をたかが一度、自分が嫌な事をされただけで嫌う程、カグラの事を心が狭い奴だと思ってるのか?」
「そんな訳ないだろ! カグラは心も清い子だ!」
「そう叫ぶなら、嫌われたなんて思っていじけてないで、カグラに謝罪する事だけ考えろよ」
そう俺が言うとハンゾウは元気を取り戻したのか、「いつ店から出たんだ?」と聞いて来た。
「5分前だ」
「って事は戻ってくるまで、後5分は掛かる筈だ」
そうハンゾウは言うと部下を呼び出し、急いでカグラを迎える準備を始めた。
元気を取り戻したハンゾウは、俺が居る事をすっかり忘れて部屋から走り去っていった。
「俺達がどれだけ声を掛けても死んだような目をしていて、どうしようも出来なかったのにジンさんは凄いですね」
「まあ、一部始終を見てたからな。それじゃ、俺は帰るとするよ。また用が出来たら来る」
それから俺はハンゾウの店から宿へと転移で移動して、夕食までの時間をどう潰そうか部屋で考えているとリウスが突然出て来た。
「どうした。リウス?」
「最近、全然戦えてなくて暇~」
「……あ~、確かにリウスを呼ぶ程の敵が現れてないから全然戦えてないな」
「迷宮には行けないの?」
リウスからそう聞かれ、俺は「迷宮には皆とじゃないといけない」と伝えた。
「え~……あっ、じゃあ主と戦いたい! 主も最近、運動不足でしょ? 戦おうよ!」
「う~ん。まあ、確かに全力を出す戦いは暫くしてないな……そうだな。よし、なら王都近くだと周りに迷惑をかけるし、空島に移動して戦うか」
「やった~!」
リウスから戦いたいと言われた俺は少し考え、どうせ夕食まで暇だし戦おうと思い。
それから俺とリウスは、戦う場所に決めた空島へと移動した。
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