第576話 【カグラ・2】
食後、ハンゾウの店へと戻って来た俺達は店の地下にある訓練場へとやってきた。
ハンゾウの店を利用するようになってかなり経つけど、こんな地下まであったとは知らなかった。
「ここ俺が入っても良かったのか?」
「本来は身内以外は居れるつもりは無かったが、カグラの頼みだからな」
態々こんな場所に来たのは、カグラの戦闘技術を見ると言う事になったからだ。
そして俺とハンゾウが訓練場で待っていると、装備に着替えたカグラが訓練場にやって来た。
「へ~、珍しいな棒術使いか?」
「元々病気で体がそんなに強くないから剣術は難しくて、でもカグラの気持ちとしては接近戦をやりたいって言われて棒術を教えたんだ」
「棒術ってそんなに珍しいんですか?」
俺達が話していると、内容が聞こえてたのかカグラがそんな事を聞いて来た。
「あんまり見た事は無いな、ハンゾウはどうだ?」
「俺もあんまり無いな。接近戦だと、剣術がどうしても人気だからな」
「……棒術で冒険者ってやっぱり厳しいですか?」
「そんな事はないぞ。それで言うと、俺だって刀なんて珍しい武器使ってるからな」
俺は刀を見せながら、心配したカグラに対してそう言った。
今でこそ俺のせいで刀の使用者は増えているみたいだが、俺が使い始めた頃はこの国で見る事は無かった。
「確かに忘れがちだけど、ジンの刀も少し前までは珍しい武器の一つだったしな」
そうハンゾウも言うと、落ち込んだ様子だったカグラは元気を取り戻し、棒術の腕前を披露する事になった。
「意外と様になってるな」
「そうだろ? だから冒険者になる事を許可したんだ。お前の眼から見ても良いって事は、カグラもそれなりの冒険者に成長しそうだな」
「さっきまで冒険者になる事を否定してた癖に、何で俺が褒めたら自信満々にそんな事を言えるんだ?」
冒険者を辞めるようついさっきまで説得していたハンゾウは、俺がカグラを褒めると自分の事の様に嬉しそうにそう言った。
それから一通り戦闘技術を見せてくれたカグラは、俺達の所へと近寄って来た。
「私の動きどうでしたか?」
「正直、思っていた以上に動けていたと思う。かなり訓練を熱心にやってたんだなって感じ取れたよ」
「ありがとうございます!」
カグラは俺の言葉に対し、満面の笑みを浮かべてそうお礼を言った。
「カグラって魔物とは戦った事はあるのか?」
「何度か、お店の人達と訓練で魔物を倒した事はありますけど、一人で行った事はまだありません」
「成程な、それなら問題は無さそうだな。カグラのさっきの実力をちゃんと発揮できるなら、問題なく冒険者は出来ると思うぞ」
俺がそうハッキリと言うと、カグラは「ジンさんの期待に応えられるように頑張ります!」と意気込んで返事をした。
その後、棒術について詳しくは知らないが接近戦での戦闘技術をカグラに教え、その日は解散となり宿へと帰宅した。
「おっ、暇人の英雄様じゃないか。今日も無駄な一日を過ごしたのか?」
宿に戻り部屋で休んでいた俺は、夕食の時間になって食堂に行くとリカルドから話しかけられた。
「いつも俺が暇で死にそうだと思うなよ? 今日はちゃんとやる事をやって来たし、明日の予定を組んで来たよ」
「おっ、珍しいな。またヘレナ達と一緒に依頼でも行くのか?」
「いや、知り合いの妹が冒険者になるからそれの面倒を見る予定だ」
そう俺がリカルドに言うと、話を聞いていたルークさんから「また弟子をとるのか?」と聞かれた。
「いえ、弟子という関係性じゃないですね。ただ冒険者になるから、最初の面倒をみるって感じです。それに弟子は今の所、困ってないですからね」
「へ~、そうなのか。それでその子はジンの眼から見て、冒険者としてどうなりそうだ?」
「……俺達みたいに直ぐに名を知れるって感じでは無いとは思いますけど、数年後は実力者として名が通ってるとは思いますね」
今はまだ成長途中であるが、既にカグラはそれなりの戦闘技術が叩き込まれている。
ハンゾウの部下達は隠密に長け、更にそこに戦闘技術も持ち合わせている。
そんな彼等から技術を教え込まれているカグラは、一般の冒険者よりも技術で言えばかなりのものを持っている。
「それは楽しみだな、ジンが面倒を見るっていう位だし、俺達も明日見に行ってみるか?」
「明日は依頼に朝から行く予定だから無理よ。帰って来てから、また話を聞けばいいでしょ」
ルークさんの提案に対し、バッサリとエリスさんは提案を断った。
その後、ルークさん達と話をしながら楽しい夕食の時間を過ごした俺は、明日の事もあるので早めに寝る事にした。
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