第520話 【獣人国へ・2】
「へ~、見た目も豪華だったけど室内もかなり豪華な造りだな」
話し合いの結果、俺達協力組はそれぞれ個室が使用する事になり、獣人国の人達は大人数部屋を数部屋使い、別れて使う事になった。
そして俺は数日間寝泊りする個室に入ると、その豪華な造りに少しだけ驚きながら部屋の中を見て回った。
「数日暮らすにはかなり豪華な造りだけど、狭くて汚れてるよりかは断然いいな」
そう思いながら部屋の確認を終えた俺は、部屋を出て調理室へと向かった。
これから数日間、船での生活中は俺とレン、そしてエレナさんの三人が料理当番をする事になった。
というのも他のメンバー、クロエ達は料理が得意では無いし、獣人国側も肉は焼くだけ、野菜は切って盛り付けるだけという感じだった。
流石にそれで数日間は暮らせないという事になり、この数百人の中で【調理】スキルを持つ俺達三人が選ばれた。
「獣人国って人達、料理とかに興味が無い感じなんですか?」
調理室に集まった後、作業をしながら俺はエレナさんにそんな事を聞いた。
「そうね。そもそも、数十年前まで戦続きで食事は早くて美味しい物にいきついてたのよね。中には料理に興味がある子もいたけど、そういう子に限って獣人国に残ってるみたいね」
まあ、確かに戦が続いてる中で料理に工夫をつけるよりも、それ以上に沢山作った方が良いと言う感じだったのだろう。
それで戦が終わった後もその感覚が抜けず、食事にそこまで気を使わないで、ただ満腹になればいいと言う考えに落ち着いた感じか。
「獣人国の人達がそういう感じって事は、エレナさんは獣人国の中でも特別なタイプな人なんですか?」
「ううん。私も元々、食事にはそこまで興味は無かったわよ。でも獣人国を出て、他の国を見て回って食事の素晴らしさに気付いたのよ。それで独学で料理の勉強を始めたのよ」
「そうなんですね。ちなみに【調理】スキルっていまいくつとか教えて貰う事って出来ますか?」
パーティーの仲間では無い為、無理なら大丈夫ですと言うと、エレナさんは「ついこの間、4になったわよ」と普通に教えてくれた。
「4ってかなり凄いですね……そこまで独学ですか?」
「独学だけど、偶に食堂とかで出て来る料理とかは参考にしてるわ。でも、誰かに教えて貰うとか本を見てとかはしてないわ」
「それでそこまで行けるなんて、凄いですね。レンもそう思うよな?」
俺とエレナさんは、会話しながら作業をしている。
しかし、レンは一人黙って黙々と作業をしていて俺がそう聞くと、レンは「ああ、そうだな」と素っ気なく答えた。
「えっ、もしかして私何か気に障る事言ったかしら?」
「いや、そんな事は無いとは思いますけど……」
機嫌が悪そうなレンを見て、俺とエレナさんは不安に思っていると、レンは深く深呼吸をした。
「すまん、ジン達が悪いんじゃない……ただちょっと、少しだけ酔って気分が悪いんだ」
「あっ、そう言えばレンって前も船酔いしてたな……大丈夫なのか?」
「多少、薬で和らげてるけど、どこまでもつか分からん……」
自分達が悪くないと知った俺は、直ぐにレンの心配をするとレンは気分が悪そうな顔をしてそう言った。
流石に、この状態のレンに作業を手伝ってもらうのは悪い気がする。
そう思った俺は、調理室の船内呼び出しでイリスを呼び出した。
「ジンお兄さま、どうしたんですか?」
「レンが船酔いしてるから、部屋まで連れて行ってやって欲しいんだ」
「レンお兄さまが船酔いですか? わっ、顔色が凄く悪いですけど、大丈夫ですか!?」
イリスが来るまでの間、レンの状態は更に悪化していた。
応急措置として俺の【異空間ボックス】の中にあった薬を飲ませたが、船酔いには全く効果が表れなかった。
万能薬とはいえ、船酔いまでは完璧に治せないのか……。
そう俺は思いながら、イリスが来るのを待っていた。
その後、レンを部屋まで連れて行ってくれたイリスは戻ってくると、料理自体は出来ないけど手伝いはさせてくださいと申し出てくれた。
「正直、有難いよ。流石に俺とエレナさんだけじゃ、時間に間に合わなそうだったからな」
そうして急遽、貴重な料理人枠であるレンを失った俺達だったが、イリスの協力のおかげで何とか食事を準備する事が出来た。
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