第519話 【獣人国へ・1】
獣人国との争いから三日が経ち、俺達は準備を終わらせて獣人国へと向かう為に動き出した。
「流石に獣人国側に転移持ちの人は居ませんよね……」
「そうだね。元々、獣人は魔法をそんなに使わないからね。魔法が得意な獣人は、俺が知ってるのは娘のクロエだけだな」
「師匠は獣人国には行った事は無いんですか?」
「場所を覚えてないから私の転移でも無理なのよね。弟子ちゃんは分かるでしょ?」
確かに転移は便利な魔法だが、行き先の場所や魔力の感じ方を覚えてないと転移は出来ない。
だから一度も行った事が無い場所は、転移で行く事は出来ない。
そうして俺達は一先ず、港街まで何回かに分けて転移で全員を送った。
「ジン君、私達全員が乗っていけそうだけど、数日間過ごすにはなんだか狭そうだね……」
獣人国が乗って来た船は数隻あり、それに乗って獣人国に行けそうではあった。
ただし船旅はかなり厳しそうな程、狭くてとてもじゃないが数日間を過ごすには厳しい感じだ。
「今から船を用意しようにも難しいな……」
「そうね。流石の私でも、船は持ってないわ」
「う~ん……どうするか」
流石にあの船で数日間過ごすのは、ちょっと厳しい。
それは俺達だけでなく、あの船がやって来た獣人達も同じ気持ちみたいだ。
「よくこれで、親父達は来れたな」
「洗脳されていたからだろう。今考えると、途中で難破していてもおかしくなかったと思う。こっちにこれたのは奇跡なのか、あの悪魔が何かしていたのかも知れないな」
そうして俺達は、港街でどうやって獣人国まで移動するのか話し合った。
一番妥当なのは、俺と師匠が船に乗り獣人国までの船旅が出来る者達を数人連れて一旦行き、獣人国に到着したら他の者達を迎えに来る。
このやり方が一番いいが、正直船の中を見た感じ、俺も師匠もあの船に乗りたくないと意見が一致した。
「海に浮いてるし、動くんだろうけど……正直、人が少なくてもあの船で行きたいとは思えないな」
「獣人国もこんな船をよく持っていたよ」
そう俺は船に対しての愚痴を言っていると、俺達の所に何者かが近づいて来た。
「もしかしてですけど、貴方はジンさんですか?」
「そうだけど、お前は何者だ?」
「おっと、警戒しないでください。私、ハンゾウ様の部下のノックスと申します」
急に現れた人物に対して警戒すると、そいつはハンゾウの部下が持っている証明書の様な板カードを取り出しながらそう言った。
「ハンゾウの部下がどうしてこんな所に居るんだ?」
「はい。実は、ハンゾウ様からジン様達が船で困ってるだろうからと、船を用意させていただきました」
「……マジで?」
ハンゾウの部下の言葉に俺は驚きそう聞き返すと、そいつは俺達を用意した船まで案内してくれた。
「マジか……」
連れてこられた場所にあった船は、獣人国の者達が乗って来た船よりも遥かに大きくそして何よりも綺麗だった。
「これって、ハンゾウが持ってる船なのか?」
「はい。ハンゾウ様は何事にも準備をするお方なので、獣人国と戦うかもしれないとジン様が言った時から船を準備していたんです」
「だとしても、こんな短期間でよくこんな船を用意できたな……」
「ハンゾウ様は色んな方と知り合いですので、その伝手を使って用意させていただきました」
そうして俺達は、獣人国までの移動手段を手に入れる事が出来た。
ハンゾウ様様だな、帰ったらお礼をちゃんとしないとな……。
そう俺は思いながら、獣人国の人達を船へと案内して、早速出航の準備を進めた。
「ノックス。お前はどうするんだ? 俺達について行くのか?」
「はい。船の管理は私の仕事ですから、ご同行致します。この船の操縦もお任せ下さい」
「操縦までしてくれるのか? それは助かるよ。ありがとな」
「いえいえ、ハンゾウ様から私が任された仕事ですから、10分後に出向しますのでその時は少し揺れるのでご注意くださいね」
そうノックスは言うと操縦席へと向かい、俺達はこれから数日間使う部屋にそれぞれ向かった。
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