第515話 【これからについて・1】
戦いの中、俺達サイドは極力獣人が抵抗出来ないレベルで痛めつけるだけにして、殺しはしてなかった。
その為、重傷者は沢山いたが死傷者は0で誰も死なないで戦いを終えた。
「儂等の事を考えてそこまでしてくれていたのか?」
「クロエから言われたんだよ。話した事も無いけど、血のつながった親父達を殺したくないって、だから俺も本気を出さずにいたんだ」
「そうだったのか……クロエ、ありがとう。迷惑な爺ちゃん達のせいで、嫌な思いをさせてしまった」
クロヴィスさんは自分達の命を助けてくれたクロエに対して、頭を下げながらそう感謝した。
それから獣人達の治療を終えた俺達は、新しい場所に移動せずにそのままその地で話し合いを始める事にした。
「それで親父達についてだが、あいつを捕らえたら正気に戻ったみたいだが悪魔はあいつだけなのか?」
「……儂等の記憶が正しければだが、あの悪魔だけではない」
クロヴィスさんがそう言ったので、俺は掴まって大人しくしているアルヴィスの近くに寄った。
「それについてはどうなんだ?」
「ハッ、教えるわけないだろ? 魔女の弟子だがなんだが知らないが、悪魔界に戻れば関係ないだろ」
いつの間にか強気な態度に戻っていた悪魔の態度に俺は少しだけ驚きつつ、この悪魔は馬鹿なんだろうな~と感じた。
「あのさ、お前よりずっと強いベルロスが封印されてる状態を見ておいて、何で簡単に悪魔界に帰れると思ってるんだ?」
「……ッ!」
「今更気付くって、本当に馬鹿なんだな……」
俺は目の前に悪魔が相当な馬鹿だなと気付き、溜息を吐いてそう言った。
そして俺は皆に師匠を呼んでくると言って、アルヴィスの監視はクロムさんとクロエ達に任せて空島に移動して来た。
「あら、弟子ちゃん? 今日は獣人国と戦う日じゃなかったかしら?」
「はい。実はその事で話したい事がありまして」
空島に来た俺は、師匠の家の呼び鈴を鳴らすと中から師匠が出て来て俺が居る事に驚き、何故いるのか尋ねて来た。
俺はそんな師匠に獣人国と戦い、悪魔が獣人国側に紛れ込んでいた事を伝えた。
「今は無力化して、クロエ達に見張らせているんですけど、そいつの力を封印してもらえませんか?」
「成程、それで私の所に来たのね。弟子ちゃんの頼みだし、良いわよ」
師匠に協力を求めると、すんなりと了承してくれて一緒にクロムさん達の所に戻って来た。
アルヴィスは戻ってきた俺の隣に立っている師匠に目が聞くと、縛られているのに芋虫の様に地面を這って逃げようとした。
「あらあら、何逃げようとしてるのかしら? 悪い事をしたら、それ相応の罰がまってるのは当然でしょ?」
「や、止めろ! 近づくな、力を封印しないでくれ! 何でも話すから、知りたい情報は全部話すから!」
「力を奪った後に聞けるから、大丈夫だ」
必死に懇願するアルヴィスに対し、俺は笑みを浮かべてそう言った。
それから師匠は、アルヴィスの力を完全に封印して、空島に帰った。
「い、今の女性は何者なんだ? 凄まじい魔力を感じたが……」
「この世界に三人しかいない魔女の一人、放浪の魔女マリアンナ様で俺の師匠です」
「ま、魔女……あのような強大な力を持つ者を師匠に持っている者と繋がってるとは、クロム。お主はこっちの大陸で何をしたんだ?」
「俺じゃない、ジンは娘の仲間だ」
そんなクロムさんとクロヴィスさんのやり取りを聞きながら、俺は力を封印されたアルヴィスに近づいた。
「さてと、ご自慢の力は奪われてしまったわけだが、話してくれるよな?」
俺は刀の刃の部分をアルヴィスの喉から数㎝離した所に置き、そう言って脅した。
アルヴィスは俺の脅しに対し、既に心が折れていたのか質問に対して全て答え始めた。
俺の予想通り、獣人国の大陸は数十体の悪魔が住み着いているらしく、今回の騒動も悪魔の仕業だという事がわかった。
「ってか、そもそもなんてクロムさんを連れて帰ってこようとしたんだ? お前等が暮らす分なら、別にクロムさんを連れてこようなんてしなかったら良かっただろ」
「英雄とまで呼ばれた男の肉体を手に入れたら、他の大陸も手に入ると考えたんだよ……それが、まさかこっちの大陸にお前みたいな化け物が居るとは思わなかったんだ」
「いや、俺じゃなくて派手に動いたら魔女が動くだろ? そこは考えてなかったのか?」
「数さえ揃えたら、行けると考えていたんだ」
アルヴィスの言葉に俺は溜息を吐き、「馬鹿は、考えも馬鹿な事しか浮かばないんだな」とそう言った。
「急がず獣人国の掌握に専念していれば、他の大陸に攻めても十分な勝率があったのにな」
「それはそうだな。俺も親父達が来なければ、こんな騒動にもなってなくて知らずに生活していたからな」
「逆に儂等としては、悪魔達が急いでくれたおかげで命拾いしたという事になるな」
「まあ、そう考えたらこいつらの馬鹿さには感謝ですね」
悪魔達が急いで行動したおかげで、獣人国の一部を悪魔から解放する事が出来て、獣人国の現状についても知る事が出来た。
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