第501話 【獣人国の動き・3】
翌日、朝食を食べた後、姉さんとの待ち合わせ場所である宿の前で姉さんが来るのを待っていた。
一応、出かける際は同じ宿に泊まってるがこうして別々に出て来るようにしている。
「ジン君、お待たせ。ごめんね。出発ギリギリまでルル達に着せ替えられてたの」
「大丈夫だよ。昨日の感じから、多分そうだろうなって予想してたから、それでルル姉達は夜は予定空けてくれるって言ってた?」
「うん。夜に拠点に寄ってくれるって」
「そっか、それなら良かった」
今日の目的として、姉さんとのお出かけもそうだが俺の腕を上げた料理を振舞うのも重要な目的だ。
その為、俺の料理を食べてきているルル姉と、姉さんのパーティーメンバーに来て貰うように言って欲しいと姉さんにお願いしていた。
「でも大丈夫なの? 皆の分ってなると、かなりの量になるんじゃない?」
「大丈夫だよ。クロエ達に作る時も多めに作ったりしてるから、慣れてるだ」
心配する姉さんに俺はそう言って、俺達は宿を出発して商業区の方へと向かった。
商業区に来ると、多くの人が俺の方を見て来た。
「ジン君、本当に有名になったよね」
「ここまで有名になるつもりは無かったんだけどね。やっぱり、帝国との問題だったり悪魔との戦いで名が売れたみたいだね」
「そうだね。私もジン君の姉って事がバレてて、偶にジン君のサインが欲しいっていう子に話しかけられるんだよ」
「サインって、別に俺は詩人とかでは無いんだけど……」
そう俺は姉さんと話しながら、商業区の中を歩いて姉さんが気になっていた服屋に入る事にした。
「あら、ジン君にヘレナちゃん。今日はもしかして二人でお出かけ?」
店に入ると、丁度買い物をしていたリーザの母リズさんと出会った。
「はい。今日はちょっと時間があったので、リズさんも買い物ですか?」
「ええ、自分の服の買い物じゃないんだけどね。ほらっ、リーザってばずっと鍛冶屋に籠ってるでしょ? 新しい服とか自分で買いに行きなさいって言っても、行かないから私がこうして偶に買いに来てるのよ」
「リーザって鍛冶以外出来ないイメージでしたけど、イメージ通りなんですね」
「そうなのよね。本当に困った子よ。鍛冶師としての腕は高いんだけど、それ以外が全く駄目で心配なのよね」
リズさんは溜息交じりにそう言い、俺達の顔を見て「愚痴聞かせちゃってごめんね」と言った。
その後、リズさんと別れた俺と姉さんはその服屋で、姉さんが気になっていた服をいくつか見て、気に入った服を俺が買い姉さんに渡した。
「ジン君、ありがとね」
「良いよ。こういう時にお金を使わないと、溜まっていく一方だからね」
嬉しそうにしている姉さんに俺はそう言って服屋を出た。
それから少し歩いて、商業区の中にある小さな公園のベンチに座って、途中で購入したサンドイッチを食べる事にした。
「そう言えば、さっきリーザさんのお母さんと会って思ったんだけど、リーザさんって結婚とか考えてないのかな? ガフカの工房って代々受け継いでる鍛冶屋だから、後継者が必要だよね」
「前にリズさんにその事を聞いたけど、何度かお見合いはさせた事があるらしいんだよね。だけど、リーザは鍛冶以外に興味が無いらしく、それなら同じ鍛冶師ならと思ってリズさん達も色んな鍛冶師とお見合いさせたけど全て駄目だったらしい」
ガフカの工房とは長年の付き合いで、リズさんから何度かそう言った愚痴を聞いた事がある。
リズさん達としても無理に結婚はさせたくはないが、工房を続けさせるためには後継者となる子供が当然必要となってくる。
「同じ鍛冶師でも駄目なら、リーザさんってどんな人がタイプなんだろうね。強い人とか、優しい人とか」
「鍛冶以外に興味が全くないから、そういうのも無いってリズさんが悲しそうに言ってたよ。俺としてもガフカの工房には続いてほしいけど、ただの客である俺が言えないから、見つかるといいですねってリズさんには言ってる」
「まあ、そうだよね。私達もガフカの装備。ジン君のおかげで使わせてもらってるけど、本当に良い装備だから続いてほしいね」
「本当にそう思ってるから、もしも俺に手伝って欲しいって依頼が来たら俺も手伝おうかなとは思ってる」
そうしてガフカ家の事を心配しながら、軽食を済ませた俺達はそのまま少し休憩する事にした。
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