第490話 【獣人国との話し合い・4】
「……俺は王の器では無い」
男性の言葉に対し、クロムさんは何処か暗い感じでそう言った。
「獣人国は、力こそ上に立つ者の証拠。それは俺もよく分かっている。だけどな、俺の力は王として多くの者を率いて行くのには相応しくない。それについて、マリスはお前が一番知っているだろ」
「クロム様……」
多分、クロムさんが何故ああも暗くなっているのか、ハンゾウの資料を見た後なら分かる。
統一戦争の際、クロムさんは確かに力で多くの者達を倒して、統一戦争に大きく貢献した。
しかし、クロムさんはその戦争で後悔する出来事を起こしてしまった。
とある種族との戦いの際にクロムさんは、劣勢に追い込まれてしまった。
その際、制御の効かないレベルの【獣化】を使ってしまい、仲間である数名の部下を傷つけた過去がある。
「ですが、あの時は不慮の事故です。クロム様のお力は本物です!」
クロムさんの言葉に対して、マリスは食い下がることなくそう発言した。
「マリスさん、落ち着いてください。今回、私達はクロム様と話し合いをしに来たんです」
「ッ! す、すまん。クロム様もすみません」
マリスさんはディアナさんの忠告に、ハッとした様子で気づいて直ぐにクロムさんに謝罪をした。
「クロム様は私達がどうしたとしても、国にお帰りになって頂けないという事ですよね」
「ああ、帰らない。王にならなくて良いなら、偶になら顔を出せると思うが今のままあの国に帰ろうとは少しも思わない」
「……分かりました。クロム様の考えは変わっていない事は、国にお伝えしておきます」
ディアナさんはクロムさんの考えが固いと分かると、そう言って話し合いは終わりにした。
その後、ディアナさん達は直ぐに帰国しますと言って去っていった。
「意外と物分かりが良かったわね。話を聞いていた感じだと、もっと面倒事になるかと思っていたわ」
「俺も同じく、そう思っていました」
「あの場にディアナが居なかったら、荒れていただろうな。ジンも薄々気付いていたと思うが、あの三人の中で一番強いのはディアナなんだ。他二人も獣人国ではトップクラスだが、ディアナには勝てた事が無い」
クロムさんの言葉を聞き、俺は「やっぱり、あの人強い人だったんですね」と言った。
「エレナの種族は元々潜在能力が高い部族で、ディアナは子供の頃から強かったんだ。そして、それ以上にディアナは頭も良かったんだ。だから、ディアナはこれ以上話を続けても無意味だと分かって、一先ず俺の言葉を国に持って帰る事にしたんだろう」
「……また来ますかね?」
「多分、来るだろう。こんな一言断って、諦めるような者達じゃないからな。だけど、生活は元に戻しても大丈夫だとは思う。流石に話し合い後に、俺達を捕まえて獣人国に連れて帰るなんて愚行をするような奴じゃないからな」
その後、姫様には今回大きな借りを作ってしまった俺は、もし何か必要な時であれば力になりますと言った。
「良いわよ。何度もジン達には助けられてきたし、逆にこの位はして当然よ。……まあ、でもジンがどうしてもって言うなら、いつでもこき使える権利は貰っておくわ」
「……言わなきゃよかったと、数秒後に公開するとは思わなかったですよ」
姫様の返答に対し、俺は呆れながらそう言った。
それから改めて、姫様に俺とクロムさんはお礼を言って、空島にクロエとエレナさんを迎えに行った。
「もう話し合いが終わったの?」
「うん。一応は、獣人国の人達は国に帰ってもらう事になった。だけど、クロムさんの予想だとまた来るかもしれないみたい」
「あの程度で、諦めが付くような奴等じゃないからな」
クロムさんはそう言うと、少し悩んだ様子で俺に「ジンに一つ、頼みがある」と言ってきた。
「頼みですか?」
「俺の訓練相手になってくれないか? このままジッとしていて、あいつらと戦うってなった時に備えて、昔の感覚を取り戻しておきたいんだ」
「分かりました。それなら、俺だけじゃなくてレイやイリスとも戦ってみますか?」
「その子達が良いならしてもらいたい。対戦相手は多くいた方がいいからな」
それから俺は、クロムさん達を連れて帰る前に師匠の所により、匿ってくれたお礼と問題が一先ず解決した事を伝えた。
師匠にお礼を言った後、クロムさん達を連れて俺は拠点へと転移で移動した。
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