第489話 【獣人国との話し合い・3】
空島にやってきた俺は、クロムさん達の為に作られた家へと向かい呼び鈴を鳴らした。
すると、家の中からトタトタと音が聞こえ、ガチャッと扉が開くとクロエが出て来た。
「ジン君、何か進んだの!?」
「うん。進んだから、まずは一旦落ち着こうな」
空島での生活が嫌なのか、クロエはいつもの感じではなく少し急かす様な感じだ。
まあ、クロエもレイには負けるが体を動かしたい欲が凄いから、ここでの生活が退屈なのだろう。
それから俺は、クロエに家の中に入れさせてもらい、リビングにクロムさん達に集まった貰い、獣人国からの提案について伝えた。
「ディアナ達が来たのね」
「エレナさんが知ってる人ですか?」
「ええ、姪っ子と甥っ子よ。私の姉の子で、小さい頃はよく遊んであげてたわ」
その言葉を聞いた俺は、かなり近い親族だったのかとディアナ達の事も思い浮かべていると、クロムさんは何やら決めた様な顔つきとなった。
「わかった。その話し合いの場に出る。このまま逃げていても、解決にはならないからな」
「そうね。私もその方がいいと思うわ。それに相手がディアナ達なら、力回せにする事もなさそうだものね」
クロムさん達は俺の話を聞くとそう言って、話し合いの日が決まったら伝えに来ますと言って俺は城に戻って来た。
それから俺は姫様に日程について獣人国側とやり取りをお願いして、拠点へと帰宅した。
「その話し合いって、私達も行った方がいいの?」
帰宅後、丁度昼食のタイミングで皆が集まったので、獣人国との話し合いをする事を伝えた。
「いや、出席するのは俺と姫様、当事者のクロムさんが話し合いの場に行く予定だよ」
「そっか~、良かった。話し合いとか、そういう堅苦しい場所苦手だから」
レイは話し合いの場に行かなくていいと分かると、分かりやすく安心していた。
「まあ、そうなると俺とイリスも留守番って事だな、薬に関してはもう十分作ったから魔法玉の研究でも進めるか」
「私も研究のお手伝い頑張ります」
レイ達への報告を終わった後、俺はレイと一緒に裏庭で体を動かす事にした。
それから数日間、俺達は久しぶりに普通の暮らしに戻り、遂に獣人国との話し合いの日となった。
「……緊張するな」
「クロムさんがこんなに緊張してる姿、初めて見ました」
「そりゃな、まさか十数年逃げていた相手との話し合いだからな……」
クロムさんはそう言うと、パチンッと頬を叩き気合を入れて、俺と一緒に部屋の中に入った。
部屋の中には、獣人国側の人達と姫様が居た。
獣人国側の人達は全員で三人で、その中にはこの間話し合いに来ていたディアナさんが居て、残り二人は知らない人達だった。
「「「クロム様ッ!」」」
獣人国側の人達はクロムさんの顔を見ると、立ち上がりクロムさんの名前を叫んだ。
そして三人共が嬉し涙を流していて、そんな姿を見たクロムさんは複雑そうな顔をしていた。
それから三人が落ち着くまで待って、話し合いを始めた。
「まず俺は獣人国に戻るつもりは、一切無い。こっちで新しい生活もあるし、何よりこの国の方が住みやすい」
「く、クロム様……」
話し合いが始まると、クロムさんは自分の気持ちを相手側にそう伝えた。
その言葉にショックを受ける獣人国側の人達だったが、それでもと反論するかのようにクロムさんに戻って来て欲しいと伝えた。
クロムさんは相手の話を聞くと、ディアナさんの隣に座る男性の方へと視線を向けた。
「マリス。俺が王になりたくない事は、お前がよく知ってるだろ?」
男性の名をクロムさんは口にしながらそう言うと、言われた男性は顔を下に向けた。
「分かってます。クロム様が王になりたくない事は、ですが我等獣人国の王に相応しいのはクロム様だけなんですよッ!」
マリスと呼ばれた男性は、クロムさんの言葉に対してそう言い返した。
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