第479話 【望まぬ来訪者・3】
部屋に移動してきた俺は念の為、この宿の周辺を探知を行い変な奴がいないか確認してから喋り始めた。
「突然やってきて、すまない」
「いえ、手紙である程度の事は知ってますから、クロムさん達も被害者ですので頭を上げてください」
申し訳ないと思っているクロムさんは、俺達に対して頭を下げたので俺はそう言って顔を上げて貰った。
この場で外で何が起こっているのか理解してるのは、俺とクロムさん達だけなので、まずは皆と情報の共有をする事にした。
今回、なぜクロムさん達が宿に避難してきて、更に姫様からクロムさん達を連れて逃げろとお達しが来たのか。
その理由は、クロムさん達がこの国に来た時のとある問題のせいだ。
「まさか、別大陸に住んでる俺の事を見つけるとは思いもしなかったよ……」
とある問題とは、以前クロムさんから軽く聞いていた獣人国での英雄扱いをされて逃げて来たという事だ。
獣人国の獣人達は、クロムさんが居なくなった後も探し続けていたらしく、この間の竜人国での大会に調査班の者がいたらしく。
そいつにクロエの事が見つかってしまい、芋づる式にクロムさんがこの国に居る事がバレてしまった。
「今回、見つかってしまったのは俺のせいでもあります。クロムさんから話を聞いていたのに、何の対策もしてませんでした」
「ううん。ジン君のせいじゃないよ。私がお父さん達の話をもっと真剣に聞いて、ちゃんと変装とかしておけばよかったんだよ」
俺とクロエが互いに言い合うと、クロムさんが「いや俺がケジメをつけて出てこなかったのが悪い」と言い切った。
しかし、その言葉にも俺とクロエは「違う」と反論して、俺達三人は軽い言い合いとなった。
その後、エレナさんから「話が進まないわよ」と言われて、誰のせいという話は一旦おいて起き、今後についての話し合いを始めた。
「それで、どうしますか? 獣人国の対応は、姫様達がすると手紙に書かれてましたが」
「えっ、何で姫様が対応してくれるの? この問題って私達家族の事だよね?」
「まあ、これが一般人だったら姫様も対応はしなかったと思うが、クロエは俺達の仲間で今まで国に色々と貢献して来ただろ? 姫様としては、クロエを獣人国に渡したくないという気持ちもあるから、一先ずは足止めくらいはすると書かれてたよ」
クロエ達には話してないが、既に獣人国の偉い人達はこの国に向かっているらしい。
俺としてもクロエを連れていかれるのは、パーティーとして困るし、何より大事な仲間を失いたくない。
だけど、その前にクロムさんに確認しておかないといけない事がある。
「クロムさんに一つ確認しますが、今回も隠れるでいいですか?」
「……いや、これからの事を考えると決着は付けておいた方が良いだろう」
「でもお父さんが当時、どうにも出来なかったから逃げたんじゃないの?」
「あの当時は戦いも終わったばかりだったから、周りの雰囲気もヤバくて逃げるしかなかったが、あれから年月も経ってるし今なら……」
クロムさんがそう言うと、隣に座ってるエレナは首を横に振った。
「多分、無理だと思うわよ。獣人国の執念深さは、私達は身をもって経験してるでしょ?」
「うぐッ……」
エレナさんの指摘にクロムさんは、頭を抱え込んだ。
「ジン君、何かいい案とかある?」
「今回ばかりは直ぐには難しい。正直、これが戦いを求めてるなら分かりやすいけど、獣人国の目的がクロムさんを国王への押し上げるだからな……クロムさんは王にはなりたくはないんですよね?」
「なりたくない。俺は王の器では無いからな、そもそも英雄視されるのも嫌だから国を出たんだ」
「う~ん……」
その言葉を聞き、再び悩んでいると俺の探知能力にある者達の魔力を感じ取った。
「多分、獣人国の者達だな……一先ず、作戦もまとまっていませんから移動しようと思いますが、大丈夫ですか?」
俺はクロムさん達に確認を取り、この場に居る人達を連れて一番安全な師匠の家がある空島へと移動した。
そして師匠の家へと行き、中に居た師匠に事情を説明すると暫く空島でクロムさん達を匿ってくれると言ってくれた。
「えっ、私達がこの土地に本当に住んでも良いんですか?」
了承された事に驚いたエレナさんは、師匠に再確認した。
「ええ、見ず知らずの相手なら別だけど、弟子ちゃんの仲間の家族が困ってるなら助けるわ。そうと決まれば、貴方達が暮らす場所が必要ね」
師匠はそう言うと、外に出て近くに居た悪魔にクロムさん達が暮らす家を作るように命じた。
悪魔達にそんな事が出来るのか? と不安に思っていると、直ぐに悪魔達は家の建築を始めた。
「こっちの悪魔達の生活は全く知らなかったけど、多才にあふれてる奴が多いのか……」
悪魔達の姿に俺は呆れてそう言い、最重要事項のクロムさん達の住処の確保は出来て安心した。
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