第468話 【勝ち進む者達・4】
「槍を使ってる勇者さん、一試合目の時もそうだけどかなりの熟練度だよね」
「それに、勇者の使ってる槍も凄い綺麗な造りだよね。迷宮で手に入れたのかな?」
クロエとレイは勇者の使ってる槍を見て、改めてそう感想を言った。
勇者の槍は凄く綺麗な造りをしていて、武器としても性能が良い。
「その槍だけど、多分あれ神の武具の一つだと思う」
「えっ? 神の武具って、この世界に数える程しかないって言われてる伝説の武具だよね?」
「そんな凄い槍を何で、勇者さんが持ってるの?」
「勇者の使ってる聖剣も神の武具の一つだから、武具同士がひかれあうっていうケースもこれまでの歴史であったらしいからな、もしかしたら旅の最中に手に入れたのかも知れん」
そう俺は自分で調べたかのように言い、二人が会場に夢中になってるのを確認して、手に刀を持ち刀に宿るベルロスに話しかけた。
「で、本当にあれは神の武具で間違いないのか?」
「間違いない。あの神聖な力は、神の力に違いない。それにあの神の武具だが、聖剣同様に力が開放されてる」
「力の開放? それってなんだ?」
そうベルロスに聞くと、力の開放について詳しく教えてくれた。
神の武具は性能自体よく、勘違いされやすいらしいのだが本来は力が封印されている状態らしい。
聖剣で言えば〝魔王特攻〟の様な、対魔王の力を得るみたいに武具一つ一つに力が隠されている。
その力を覚醒するには、持ち主の技量もそうだがもう一つ力の開放に必要な事がある。
「それが神に認められる事だ。あの勇者、聖剣の力を開放する時の神とは別にもう一柱の神が加護を付けてるはずだ」
「ふ~む……という事は、かなり強くなってるって事か?」
俺の言葉にベルロスは肯定し、もし勇者と戦うとなったら相当気合を入れないとヤバそうだなと、その話を聞いて思った。
「……って、あれ? もしかして、もう試合終わったのか?」
ベルロスと話をしていた俺は、試合を見ようと視線を会場に向けると既に勇者が会場を去ろうとしている姿が目に映った。
「うん。終わったよ。見てなかったの?」
「か、考え事をしてたんだ。えっ、てか試合始まってそんなに経ってないのにどうやって終わったんだ?」
「一瞬だったよ。勇者さんが槍を構えたら、一瞬で相手選手の懐に入ってそのまま薙ぎ払いで場外に吹き飛ばして終わったよ」
「マジか、完全に見逃した……」
ベルロスとの話に夢中になっていた俺は、勇者の戦いを見逃してしまった。
そう俺が悔やんでいると、勇者と双剣の戦いは特に直す所も無かったみたいで直ぐに次の試合が始まった。
その後、試合はトップ4が決まる最終試合レイ対フィオロの戦いとなった。
「フィオロちゃんもなんだかんだ残ってるね。魔法使いタイプだけど、種族的に近接も得意みたいだよね」
「まあ、身体能力は高く成長しやすいからな、レベルが上がってある程度は動けるようになってるんだろう」
力を封印されてるとはいえ、悪魔という種族のフィオロは今まで数多くの依頼をこなして魔物を倒し、レベルを上げてきている。
そんなフィオロは純粋な魔法使いタイプではあるが、身体能力はかなり高く成長している。
「だけど、まあ接近戦にレイにが持ち込んだらフィオロの勝ち筋は無いだろう。レイの攻撃は、それくらい強いからな」
レイの勝ち筋は十分にあるだろうと思いながら、今度は見逃さないぞと意気込み会場の方を眺めていた。
審判は会場に揃った二人に審判は準備は良いか聞き、二人が「大丈夫」という返事をすると試合開始の合図を送った。
「——ッ!」
試合開始と同時にフィオロは、ここまで魔法で戦っていたのを急に変えて剣を構え、戦斧を持ち攻撃を仕掛けて来たレイの攻撃を受け止めた。
レイはまさかフィオロが剣を取り出すとは思っておらず、少し驚いたような顔をしている。
「んっ? フィオロの奴、なんか言ってるな」
剣と戦斧がぶつかり合い睨み合ってる二人。
そんな二人の口元を注視すると、何やらフィオロはレイに何か言って、それに対してレイは怒った様子で反論している。
「あの二人、試合中に何を話してるんだ?」
「ん~、ここからだと見えにくかったけど、多分フィオロちゃんがこの試合良い具合に負けたいみたいな事を言ってたね」
「……何で負けたいなんて、あいつ言ってんだ?」
クロエに教えて貰ったフィオロの言葉に、俺は首を傾げ会場を見ていると、レイが戦斧を大振りに振ってフィオロに攻撃を仕掛けた。
その攻撃をフィオロは剣で受け止めるが、勢いが強すぎてフィオロはそのままレイの攻撃に耐えきれず会場の壁にまで吹き飛ばされた。
勇者の試合に続き、レイもまた数分で終わらせてしまい、観客席は少しだけ盛り上がってはいるが俺達の時とは差が激しかった。
「レイ、さっきの試合中にフィオロから何を言われたんだ?」
「……ここで勝っちゃうと、次の相手が勇者だから、ここで負けたいって言われたんだよ。私は本気の戦いがしたいから、手加減はしたくないって言ったら、じゃあ自然に負けるって言って、私の攻撃を利用して試合を終わらせたんだよ」
試合が終わり、待機室に戻って来たレイに試合での出来事について聞くと、ムスッとした表情で教えてくれた。
成程、まあ相手が勇者ってなると力を封印されているとはいえ、悪魔であるフィオロは苦手なんだろう。
そう俺は思い、それについてレイに伝えると「分かってるよ。でも納得は出来ない!」と不機嫌な様子でそう言い返してきた。
そんなレイをクロエに任せ、俺は会場に向かって歩き出した。
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