第462話 【仲間の戦い・2】
クロエのかかと落としが決まった瞬間、会場中に地震が起きたと錯覚しそうな程、強烈な揺れが起こった。
「……今のであの人死んだんじゃない?」
「大丈夫だ。ヨルドの体は頑丈だからな、あの程度ならまだ意識もある筈だぞ」
「えっ、嘘!?」
「れ、レイお姉さま! あの相手選手、普通にピンピンしてますよ!」
レイがヨルドの事を心配に思っていると、ヨルドは「今の攻撃、最高よ!」と楽しそうに言った。
ヨルドは乙女の心を持つ男ではあるが、性癖はまた別であいつはドM体質でわざと相手の攻撃を食らう。
これはゲームでは知らなかった情報だが、こっちで調べた際にハンゾウから渡された資料に描かれていた。
人間相手は興奮しないからって、素手でハイオークとやり合う奴らしいからな……ゲームの時よりも、キャラが濃すぎるだろ。
「ハイオークと素手でやり合うって、流石の私でもそんな変な事はしないよ!?」
「するのはあいつ位だよ。元々冒険者になる前は、国の兵士だったらしいが自分を押さえつけるのが嫌になって、兵士を止めて自由な冒険者になったって経歴持ちで兵士時代は軍を率いる位には功績もあったらしい」
「変な人だけど、凄い人ではあるんだ」
「変態な所はあるが、凄い奴ではあると俺も思う。冒険者になって、5年で白金級冒険者になってるからな」
冒険者になったのが22の時だが、その時点で国の軍隊で軍を率いる所まで登りつめた実績は普通に凄いと思う。
実力もそうだが、才能があるんだろう……変態ではあるが。
「それにしても、クロエちゃんとあの変態さんの戦いも凄いね」
俺達がヨルドの話をしてる間も試合は続いており、今はクロエとヨルドの激しい近接戦闘が繰り広げられている。
クロエはヨルドの攻撃を避けつつだが、ヨルドはクロエの攻撃をあえて防御で食らいつつ、クロエに攻撃を返している。
「……まずいな、このままだとクロエが負けるな」
「えっ、どうしてそう思ったの?」
俺の言葉にレイはそう聞き返し、イリスも俺の言葉を信じられないといった顔で見て来た。
「ヨルドが何であえて攻撃を受けてると思う?」
「……好きだからじゃないの?」
「それもあるが、ヨルドは攻撃を食らえば食らう程、自身を強化するスキルを持っているんだ。ヨルドの耐久力は異常に高い理由もそのスキルの効果なんだ」
「それが本当なら、このままだとクロエちゃんは危ないね……」
俺達が心配に思いながらクロエとヨルドの戦いを見守っていると、ヨルドはクロエの攻撃を見切り、足を持ち投げ飛ばした。
これまで攻撃をわざと食らっていたヨルドが避けた事に、スキル効果が最大値に溜まったのか? と頭に過った。
その答えが分かったのは、その直ぐの事だった。
「お楽しみはここまでよ! 行くわよお嬢ちゃん!」
強化が最大値に達したのか、体から漏れる程の魔力を身に纏うヨルド。
ヨルドはクロエに向かってそう宣言すると、急接近からの丸太の様な大きな足で蹴りを入れた。
ここまでの戦いで相当疲労してる筈なのに、あれだけ動けるって事はヨルドのスキルはかなり強いスキルだな……。
「クロエちゃん!?」
「クロエお姉さまッ!」
ヨルドの蹴りを受けたクロエは空中に吹っ飛ぶと、更にそこにヨルドは追撃を入れようとした。
しかし、ヨルドが近づくと予想していたのか。
クロエは急接近した来たヨルドに対して、零距離から魔法を放つ。
「ジン君、今の決まった?」
「……いや、駄目だな」
零距離から魔法を放ったクロエだったが、その魔法をヨルドは魔力を纏った拳で打ち破ると、そのままクロエを会場の地面に叩きつけた。
その攻撃によりクロエは気絶して、この勝負はヨルドの勝利となった。
試合を見ていた観客は、倒れてるクロエと勝利のガッツポーズをしてるヨルドを見て、数秒経って大きな歓声が巻き起こった。
「イリス、レイ。ベッドの準備をしておいてくれ、クロエは俺が回収してくるから」
「「はい!」」
俺の指示にイリス達は返事をすると、俺は転移でクロエの近くに移動した。
「あら? 貴方が有名なジン君ね」
「すまないが、今は仲間を優先してもいいか?」
「ええ、良いわよ。お話なら、また後で出来るものね。ちょっと本気を出しちゃったけど、ちゃんと死なないように加減はしておいたわ」
「それはどうも」
そう軽くやり取りをした俺は、クロエを回収して待機室に戻って来た。
そしてイリス達が用意してくれたベッドにクロエを寝かせ。
気絶してるクロエの口を少し開け、【異空間ボックス】から取り出した回復薬を飲ませた。
回復薬を飲んだクロエは数秒経つと、意識を取り戻すと。
ベッドに横になってる自分を見て、悲し気な表情となった。
「私、負けたんだね……」
「ああ……正直、今回に関しては相手が悪かった。あんな変態的な強さを持つ奴はそうは居ないからな」
「ううん。私の実力不足だよ。相手の能力を理解しようとせず、早く終わらせなきゃって焦って、相手の能力を知った時にはもう遅かった」
クロエは試合の反省を口にすると、ポロポロと涙を流し始めた。
「クロエちゃんの試合は良かったよ。相手の能力を知らずに特攻した所は駄目だったけど、それ以外は最高だったよ!」
「そうです! クロエお姉さまの本気モードも以前に増して、早くなってましたし、凄くいい戦いでした!」
レイとイリスがそう励ましたの言葉を掛けると、クロエは少しだけ笑みを浮かべて「ありがとう」と言った。
「実際、戦い自体は良かったと思う。遠距離が駄目だと分かった瞬間、ちゃんと近接戦闘に変えたのは良かった。だけど、最後の魔法は駄目だった。あそこで魔法を使うと、もし相手が魔法を何かしらで防いだ時の対処が出来ず、負けに繋がる。現にそうなったからな」
「今思うと、あの場面で魔法は駄目だった。使うなら、あの人から姿を隠せるような魔法を使うとかだったよね……」
「そうだな。後は魔法を自分に当てて、空中で場所を移動させるのも良かった」
イリス達が褒めた事で俺は、励ましの言葉を掛けるのではなく試合の反省するべき点をクロエに伝え。
クロエは俺の言葉を聞くと、次にヨルドと戦う事があれば絶対に勝つと宣言をした。
俺達はそんなクロエの言葉に、修行にならいつでも付き合うと約束を交わした。
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