第45話 【姫様の実力・1】
テストには座学と実技、二つの種類があり午前中に座学のテストをやると担任の先生が言っていた。
異世界だからか、教科数は前世よりも大分少なく、その分テストの時間は余裕を見てたっぷりとあった。
チラリと邪魔な視線にならない程度に姫様の解答用紙を見たが、スラスラと解いていてゲームの設定通り頭が良いんだなと感じた。
その後も順調に解き続ける姫様は、余裕のある時間をたっぷりと使い見直しも何度もしてテストを真面目に受けていた。
「正直、姫様のイメージが変わりました」
一つ目のテストが終わり、休憩時間に入ったタイミングで俺はそう姫様に言った。
正直、この世界での姫様を見ていたら、あのゲームの設定は後付けなんじゃないか? と疑っていた。
実際、ゲームでは姫様が勉強をしてる姿なんて見た事も無い。
逆に、外に出たい欲で色々と事件を起こすおてんば姫という印象のが強かった。
だけど今日の姫様を見て、俺はそのイメージがガラリと変わった。
「あら、どうしてかしら?」
「正直に言いますと、あんなに真剣にテストに取り組むなんて思わなかったので」
「本当に正直に答えたわね……まあ、でもそういう言葉が出るのも仕方ないのかしら?」
「普段がアレですから」
既に数日、王城で暮らした俺は姫様の無茶振りを何度か経験している。
そのせいか俺の中のイメージは、ゲームしていた当時の〝おてんば姫〟という認識が強かった。
「アレとは失礼ね? 一応、王族としての役目もきちんとこなした上で自由にさせてもらってのよ?」
「だとしてもですよ。なあ、クロもそう思うだろ?」
「えっと、私もジュン君と同じで姫様がこんなに勉強が出来る人なんだって驚いてました」
クロエも姫様が勉強が出来ると思ってなかったらしく、そう正直に言うと姫様がムッと表情となった。
「あなた達、結構正直者なのね……まあ、でも勉強が出来るのは〝自由〟の為よ。出来ないと、家庭教師とか付けられて面倒だもの」
「……成程、より自分が好きに動く為に自ら勉学に励んでいると」
「そう言う事、一時期勉強なんてしなくてもいいじゃないって言ってしなかったことがあるのよ。その時はいつも優しいお父様達から、無理矢理家庭教師を付けられて無理に勉強をさせられてたのよ。それを経験して、自ら勉学に励んだ方がいいって気づいたのよ」
失敗から学んだ。
姫様はそう言うと、次のテストの時間になったので俺達は再び黙り、テストが終わるのを静かに待った。
その後、座学の全てのテストが終わり昼食休憩となった。
学園での昼食は、基本的に学食を食べる予定と姫様から聞いている。
弁当や、昼に料理人を学園に呼ぶ事もやろうと思えば出来るが、色々と面倒だから学生の間位は学食を食べると決めているらしい。
「そう言えば学園の食堂って、料理の腕が高い料理人が揃ってると兵士が言ってましたけど本当ですか?」
「本当よ。それもあって、別に無理して用意しようとしなかったのよ。不味かったら、考えていたのかもしれないけどね」
姫様はそう言うと、王族とそれに並ぶ大貴族が使う専用フロアの食堂に入った。
流石に他の者達と同じ所で食べる訳もないか、まあこの位は普通の処置だろうな。
学園には多くの生徒が通っていて、平民ですら頭の良さと才能があれば入れるからな、大貴族だけでも分けておこうという学園側の考えだろう。
「姫様、お久しぶりです」
席に着いた俺達の元に、一人の女生徒が現れそう姫様に声をかけた。
……姫様と同学年の人か、ゲームでは見た事のない人だな。
「ティアナ、久しぶりね。こっちにいつ戻って来たの?」
「二日前です。ギリギリまでおじい様が帰してくれなくて、学園に間に合わないかと焦りました。あの、この方達は姫様の新しい護衛の方達ですか?」
「ええ、そうよ。男の子の方がジュン、女の子がクロよ」
姫様にそう紹介された俺とクロは、女生徒に「はじめまして」と挨拶をした。
これまでの流れから、この人は姫様の友達なのだろうか? そう思っていると、女生徒はニコリと笑みを浮かべた。
「はじめまして、ティアナ・フォン・ノルフェンです。お父様やおじい様がちょっと有名ですけど、姫様の護衛の方でしたら気軽に接して頂けると嬉しいです」
「……ッ!」
一瞬、女生徒の名前を聞いた俺は驚き、叫びそうになった声を何とか抑えた。
ノルフェン家、それはゲームでは主に活躍こそしないが、設定の中ではまあまあ凄い人物達が居る。
その代表格が現ノルフェン公爵家当主だ。
この世界で5本の指に入るほどの魔法に長けた人物。
全ての属性魔法に加え、希少属性である【空間魔法】を使える数少ない人物。
現在は王国魔法師団団長を務め、他国へ国王が出る際は必ず連れて行く程、王家からも信頼されている人物。
その人物の娘、ティアナもまたストーリーでは活躍はしなかったが、設定の中では物凄い偉業を成し遂げていた。
ゲームでは顔すらも出てなかったから、どんな人なのか分からなかったが……姫様と並ぶ程、美しい人だなと俺は思った。
「あの姫様、俺の記憶が正しかったらですけど、この方ってリオン様のご息女の方ですか?」
「そうよ。王国最強の魔法使いの愛娘よ。さらに言えば、前魔法師団団長レーヴィン様孫娘でもあるから、この子を変な眼でみたりしたら消し炭にされるかもしれないわよ」
「そんな目で絶対に見ませんよ。俺もまだ平和に生きたいんですから……」
姫様の忠告に対して、俺は体をブルリッと震わせながらそう答えた。
「姫様、折角の護衛の人を怖がらせたりしたら駄目ですよ」
「そんなつもりで言ってないわよ~、だって貴女にちょっかいを掛けてた男子。もう学園に居ないじゃない、そうなったら私が困るのよ」
「……あの人は流石にやりすぎたんですよ」
姫様の言葉にティアナはシュンッとなってしまった。
「友達を悲しませるって姫様、酷い人だな~」
「うっ、ジュン。あなた誰の護衛よ」
姫様からそう睨まれながら言われたが、姫様は自分が悪い事を言ったという自覚はあるようで悲しんでるティアナに謝罪をした。
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