第4話 【装備を整える・2】
店の中を散策を始めて直ぐに俺は、あるアイテムの前に止まりシンシアを呼んだ。
「シンシア、これは何だ?」
「これは飴型の魔力回復薬よ。名称は〝魔力回復飴〟ってそのまんまの名前よ」
やっぱり〝マナ飴〟か!
ゲーム時代、シンシアの店の中で物語が終わりに近づいたころに出た最強の回復アイテム!
マナ飴は他の回復薬の様に一瞬で回復するのではなく、一定時間持続回復するアイテムで魔法戦の時は最重要となるアイテムだった。
「って、10個セットで銀貨1枚!?」
「そんなに驚く事かしら? これ私が趣味で作って、増えたから今日から売りに出したのよね。ただまあ、趣味で作った物だからそこまで高い値段は付けていないわ」
「……これ全部でいくらだ?」
「えっ、全部? そこにあるの100個丁度だけど……そうね。半額の銀貨5枚で良いわよ」
その言葉を聞いた俺は、銀貨5枚をシンシアに渡して飴を収納した。
鑑定もして、ゲームと同じ性能は確認してある。
これで魔法はほぼ打ち放題だ! ここに来て、本当に良かった!
「それにしてもジンはそんなに飴が好きなの?」
「うん? まあ、飴自体は嫌いでは無いがこの飴の効果が気に入ったんだよ」
「魔力が持続して回復よね? でもそれを食べるなら、普通に魔力回復薬の方が効果量が多いわよ?」
「量が大事なのは勿論良い事だが、こっちの飴の方が効率が良いんだ」
そう言うとシンシアは「そうなの?」と首をコテンッと傾げて不思議そうにしていた。
「簡単に説明するとだな、魔法を使う際って一気に大量に使う魔法もあるが大半は少量の魔力で魔法を使うだろ?」
「ええ、そうね。大規模な魔法をそんなポンポン連発しないものね」
「その少ない魔力を回復するのに、一々回復薬を開けて飲むって動作より最初から舐め続けていたら、回復する手間も省け尚且つ戦闘も長く続けることが出来るんだ」
「……あ~、そう言う事ね。何となく分かったわ、確かにその場合は飴の方が効率が良いわね」
「ああ、だが実際に使う人は殆ど居ないのが現状だな。回復薬の方が出回ってるからな、飴はそんなに市場に出回ってないだろ」
飴は素材こそ簡単ではあるが、作り手が少なく市場にはあまり出回らない品である。
シンシアの店の場合は、趣味でシンシアが飴を作っているから置いてあるが他の店は作り手がいないからまず置いていない。
「確かにこの飴、作り手が少ないから表通りの店で見た事は無いわね……」
「まあそう言った理由で飴はそこまで人気が無いが、実際は回復薬より使える品であるのは間違いない。一応、これから買いに来るから出来るだけ作っておいてくれると助かる」
「ええ、良いわよ。私も飴作りは楽しいし、買ってくれるなら趣味も続けられるわ」
そうシンシアはニコリと笑みを浮かべ、嬉しそうにそう言った。
その後も俺は店の中を見て回ったが、飴以外に現状必要とする物はなかった。
「あら、結局ジンが買ったのは飴だけだったわね。折角、サービスするのに」
「すまないな、欲しい物はサービスを受けても手が届きそうにない物ばかりだったんだ。ただ防具と武器が手に入ったら、これで本格的に冒険者として活動できるから次来た時はちゃんと買い物していくよ」
「そう言えばジンったら、雰囲気で分からなくなるけど新米の冒険者だったわね……」
「登録二日目のピチピチの新人冒険者だ」
ピチピチという表現が合ってるか分からないが、そう俺が言うとシンシアはクスッと笑った。
「そうね。登録二日目の冒険者にこんなサービスしたのは初めてだわ、でもジンなら直ぐにトップの冒険者に追い付くと思うわ」
「それは、また勘か?」
「ええ、私の勘はよく当たるのよ」
その後、俺はシンシアの店を出て商業区の表通りを散策する事にした。
シンシアの店程、アイテム数は多くないがそれでも使える物はある為、細々とした物を買って行った。
主に購入したのは、冒険者としての必需品。
回復薬だったり、素材を小分けする為の麻袋等を買った。
収納スキルや回復魔法が使えるが、もしもの時の為にと思い用意した。
「おっ、あんちゃん見ない顔だね! 王都一美味しい串焼き肉はどうだい? ロブ特製タレの肉串は、冒険前の腹ごしらえに最適だぜ」
そろそろギルドに行こうかと思って、串焼き屋を通り過ぎようとしたら店主のオッサンに呼び止められてしまった。
……いやまあ、マジで美味そうな匂いはしてるけど、既に持ち合わせが厳しいんだよな。
というか、このオッサンゲームの時もこうして主人公に声掛けてたな。
オッサンの名は、ロブ。
肉串屋の店長で、店舗の方は奥さんに任せて、こうして自分は新しい客を見つける為に出店をやっている。
「すまんな、店主のオッサン。金がギリギリだから、今は買えねえんだ」
ゲームの時は金に余裕もあったから、普通に買って食事していた。
だが今は、諸々の出費で金欠状態。
俺はそう言って、本当にほぼ空っぽの状態の財布代わりの麻袋をポンポンと手の上で跳ねさせた。
「マジか、他の店でかなり買い物してるみたいだったから金持ってると思って声掛けたのにな……」
「新米冒険者で色々と必要な物を買ってたんだよ。そっちで金が尽きたって訳だ」
「んっ、新米冒険者だと? そんな良さそうな装備着てるのにな?」
「これは店の人がサービスしてくれたんだ。実際は高価な物で、本来だったら手も出せない品だよ」
「成程な~、だがまあこれも何かの縁だ。これからギルドに行くんだろ? これ食って、依頼頑張ってこい」
オッサンはそう言うと、紙袋に3本肉串を入れて渡してきた。
「良いのか? 金払えないんだぞ?」
「良いって、どうせそれ少し焼きすぎててこれ以上売れ残ったら、俺がまた食べる羽目になるんだよ。妻から、痩せろって言われててこれ以上太れねえんだよ」
ポンポンと腹を叩いたオッサンは、俺に「良いから食えって」と言って袋を無理矢理渡してきた。
流石にここまで言われてるのに断ることは出来ず、俺は袋を受け取った。
「まっ、その肉が気に入ったら金に余裕が出来た時にでも買いに来てくれよ。俺は基本ここで店をやってるからな」
「分かった。金に余裕が出来たら、必ず買いに来るよ」
そう言って俺はオッサンに「またな」と言って、その場から離れギルドへと向かった。
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