第37話 【剣聖・2】
場所は変わって、城の敷地内にある兵士達の訓練場へとやって来た。
そこには多くの兵士達が訓練をしていて、姫様の登場に全ての兵士が敬礼をした。
「フィアリス姫様、本日はどうなされましたか?」
奥の方から一人の大男が出てくると、姫の前で跪いてそう姫様に尋ねた。
この男の名は、アンドル・フォン・ジェックバル。
王国の騎士団長であり、ジェックバル公爵家の長。
年齢は30代後半にも関わらず、王国最強の守護神と呼ばれている。
あ~あ、ま~た厄介なキャラと出会っちまったよ……。
「ちょっと、場所を使わせてもらいたくてね。ユリウスが私の護衛になる方達と戦ってみたいらしいから」
「ふむ……成程、分かりました。お前等、場所開けろ!」
姫様の話を聞いたアンドルはすぐさま、周りに居た兵士にそう声をかけると兵士達は使っていた道具と共にその場所を渡してくれた。
流石、城内一人気の高い姫様だな、一瞬で兵士達が動いちまったよ。
「じ、ジン君。ここで戦うの?」
「そうみたいだな、まあでも姫様も言ってたけど本気を出さなくても良いって言ってたから、ユリウスさんが納得するレべルで戦えば良いと思うぞ」
ここに来る道中、姫様から俺達は「本気を出さなくてもいい」と言われた。
それは俺が力を隠したいと言う考えを持ってるのもあるのだが、姫様的にも俺達の実力は〝まだ〟世間知らせたくはないらしい。
「さて、まずはクロエさんの実力を見たいと思います。武器は何を使いますか?」
「短剣でも、大丈夫ですか?」
「慣れてる武器を使う方が良いので、大丈夫ですよ。私も剣を使いますので」
クロエの言葉にユリウスはそう言うと、二人は武器をそれぞれ手に取り数回振ってそれぞれの位置に着いた。
そしてアンドルが審判役を申し出て、二人の準備が出来たのを確認して試合開始の合図をおくった。
「ッ!」
現時点でも種族特有の身体能力では、ヒューマン族であるユリウスに並ぶ程のクロエはその脚力を活かしてユリウスへと攻撃を仕掛けた。
一撃目の蹴りをユリウスは直撃する前に片腕で止め、クロエはユリウスの反射神経が高い事を一瞬で理解して一度後ろに引いた。
そんなクロエにユリウスは、その場から動かず「もっと攻撃してきていいよ」とクロエに攻撃を仕掛けさせるようにいった。
「流石、剣聖ですね。クロエの実力は高い方ですが、そのクロエを子供扱いって」
「そうね。でも、クロエさんは動けてる方だと思うわよ」
「まあ、お互いに全力を出してませんけどね」
ユリウスの動きを見て、俺は彼も全く本気を出していないと直ぐに分かった。
というか、ユリウスの奴、半分も力出してないだろ……それでクロエを子供扱いって、やっぱりこの時代でも強いんだな。
その後、決めていた試合終了の時間が来て、クロエとユリウスの戦いは終わった。
結果的に二人は互角の様な戦いをしていたが、クロエは大体8割の力、ユリウスは3割ほどの力しか出していなかった。
「全く、攻撃が効かなかった……」
「まあ、そう落ち込まなくても良い。ユリウスさんはこの国でも剣士としてのトップの人だからな、逆にそんな人が手加減した状態でもちゃんと勝負になっていたのは凄いと思うぞ」
「ジンさんの言う通り、ユリウスが手加減した状態でも負ける兵士もいます。そんな中、ユリウスと互角に戦えたクロエさんは十分実力があると思いますよ」
試合が終わって落ち込んでるクロエに対し、俺と姫様はそう励ましの言葉を掛けた。
実際、あのユリウスと互角にやれてるクロエは十分強い方だと思う。
ゲーム自体、ユリウスと稽古をする主人公だが、終盤まで一太刀も与える事が出来なかったほどだ。
それなのにクロエは試合中、何度かユリウスに攻撃を与えていた。
「さてと、それでは次はジンさんですね。こちらは既に体は温まってますが、ジンさんは大丈夫ですか?」
「ええ、終わりころから準備していたので大丈夫ですよ」
ユリウスから声を掛けられた俺はそう返答して、武器を取りに向かい片手剣を選んだ。
「ジンさんは普通の剣なんですね。剣術は誰かに習ったりしたんですか?」
「いいえ、姫様から聞いていると思いますけど、俺は全部独学でやってきたんで剣術も我流です」
「我流ですか、我流でもこれまで強い剣士は見て来たのでジンさんがどのような戦い方をするのか楽しみです」
そうユリウスは満面の笑みで言い、俺とユリウスはそれぞれの位置に着いた。
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