第303話 【勇者の旅へ向けて・3】
翌日、朝早くにレイ達は故郷に向けて宿を出て、クロエも同じ時間に宿を出て行った。
俺は三人の見送りをした後、一人で宿の食堂で朝食を食べる事にした。
そして一人で飯を食べていると、店の奥からリカルドが出て来た。
「ジンが一人で飯を食う姿、久しぶりに見たな」
「まあ、帰って来てからはクロエ達と一緒に食べてたからな」
3年前、初めてこの宿に来た時は一人で飯を食べるなんて珍しくも無かった。
しかし、クロエ達と過ごす様になって一人で食べる飯は、本当に久しぶりな気がする。
「それで言うと、この宿も随分と人が多くなったよな」
「まあ、半分はジンの連れだけどな。ジンには本当に感謝してるよ」
そうリカルドに言われた後、俺は王都から出ない様にしてる為、空島に行くのも駄目だしなと思いつつ部屋に戻り、ベッドに横になった。
「う~ん……やる事が無いな」
一人で何かする用事が無い俺は、暇すぎてベッドをゴロゴロとして何か暇つぶしは出来ないかと考えた。
料理の勉強をしようにも、食べてくれる相手の姉さんは今日は冒険者として依頼を受けに行ってしまった。
世界樹の素材で出来た武器の様子も、見に行ったばかりだ。
「ヤバいな、マジでやる事が無いぞ? どうしよう……」
やる事なんて直ぐに見つかるだろうと思っていたが、マジで見つからない俺はベッドから起きて何か出来ないか考えは始めた。
そして案として出たのは、体を動かす事か、料理を作って自分で食べると言う二択だった。
「……飯は流石に寂しい。体でも動かして、時間を紛らわそう」
そう思った俺は、転移で拠点へと移動して裏庭で体が疲れるまで運動をする事にした。
それから数日間、俺は特にやる事はなくブラブラと商業区を歩いたり、拠点で運動したりといった日々を過ごした。
一度、クロエの所に行こうかと思いもしたが折角、久しぶりに家族の時間が出来たのに邪魔になるだろうと思い行くのを止めた。
「ジン様、準備の方が出来たので城に来て欲しいとのことです」
「了解」
遂に勇者達の準備が終わったと報告を受けた俺は、転移で城へと向かった。
そして姫様の部屋に入ると、姫様と変装をした勇者とノラが居た。
「ジン、待たせてごめんね。ちょっと、準備に手間取っちゃったわ」
「良いですよ。予定より一日遅いだけですから、それより竜人国の方からは何か言われましたか?」
「協力するって返事が返って来たわよ。勇者と戦女の関係は、竜人国の人達も見ててあれなら逃げ出すのも分かるって同情されたのよ」
「それは良かったですね。国が協力してくれたら、バレる確率も下がりますからね」
そう言うと、勇者は「本当に有難いよ」と嬉しそうにそう言った。
その後、勇者とノラは姫様に別れの挨拶をして、俺は勇者達を転移で竜人国へと移動させた。
そうして転移でやって来たのは、竜人国の王城がある街の近くへとやって来た。
「……凄いね。一瞬でこの距離を移動できるんだね」
「あれ? 転移は初めてでしたか?」
「初めてではないけど、ここまでの長距離移動は初めてだよ」
勇者はそう言うと、深呼吸をして「空気も全然違うね」とノラに言うと、ノラは同じように深呼吸して頷いた。
「王都より、こっちの空気好き」
「それは良かった」
勇者はノラの言葉を聞くと、笑みを浮かべてそう言った。
「それじゃ、勇者様。旅を楽しんでくださいね」
「うん。楽しんでくるよ。ジン君、色々とありがとね」
「ありがと~」
勇者とノラは俺に対してそう言うと、街の方へと歩いて行ったので俺はそれを見届けて姫様の部屋へと戻って来た。
「ジン。お疲れ様」
「転移しかしてないから、そこまで疲れは無いですけどね……それで、戦女の方は大丈夫なんですか? 俺はそっちについて、あまり知りませんけど」
「一応、大丈夫よ。勇者の事で聞かれても、療養地を探してそこで暫く暮らすって言って、行き先は国も知らないって言ったら、まだ勇者が城に居るのにさっさとあの子達は城から出て行ったわ」
そう言うと、姫様は背伸びをして「これで一旦、大きな問題は解決出来たわ」と言った。
「まあ、まだ帝国の後処理だったりあるから、休めるのはもっと先だろうけどね……」
「その、お疲れ様です。頑張ってくださいね。何かあったら、俺達も手伝いますよ」
「ええ、その言葉だけでも嬉しいわ。ありがとう」
その後、姫様は「また何かあったら、連絡するわね」と言って解散となり、俺は宿へと帰宅した。
そして昨日戻って来ているクロエ達に、無事に勇者を送り届けて来たと伝え、明日からの予定についての話し合いを俺達はしたのだった。
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