第283話 【英雄ジン・2】
それから、俺は呪われた刀をどうにか元に戻そうと師匠に色々と聞いた。
「師匠。球だけ外す事って出来ないんですか?」
「多分無理ね。力の一部が刀身の方にも移っているみたいだから、いわばこれは刀自体がベルロスを封印してるようなものだから、変に取り外したらベルロスの封印を解くことになるわね」
「そ、それなら一度ベルロスの封印を解いて別の物に移すのは」
「それはベルロスが許さないでしょうね。フィオロやレドラスは、力の一部をもってこっちの世界に召喚された悪魔達だけど、ベルロスは違うわ。本来の力以上の力を持ってるベルロスは、別の物に封印することは不可能だと思うわ」
ベルロスを取り外す事も、封印する物を移動する事も出来ないと知った俺は、他に方法が無いか師匠に聞いた。
しかし、師匠は俺の望んだ答えではなく、そんな方法は無いと現実を突きつけて来た。
「……ってか、お前は何でそんな落ち着いてるんだよ。普通、当事者のお前も慌てるだろ」
「ん~? まあ、強いて言うならお前との戦いで満足したから、どうでもいいって感じだな。悪魔として生きてきた中でも、今が一番楽しいからな。こんな面白い人間の近くに居れるんだからな」
俺の言葉にベルロスは笑みを浮かべてそう言うと、師匠がベルロスの事について教えてくれた。
「ベルロスは悪魔の中でも特殊な悪魔で、他の悪魔とは違って人を殺すのに楽しさを感じないのよ。彼が欲するものは、生物との楽しい戦いらしいわ。まあ、その中に魔女やドラゴンといった生物は入ってないらしいけど」
師匠がそう言うと、ベルロスは「ドラゴンや魔女と戦っても、強いと最初からわかってるから楽しくない」と言った。
「それで言うと、人間は本当に面白い生物だ。魔女やドラゴンと言った特殊な生物と違って本来は弱い生物の癖に成長して強くなり、特殊な生物と張り合う力を身に着ける努力をしてる。それを見てるだけでも、本当に面白い。それで俺は、ジンの事を見つけてずっと戦いたいと思っていたんだ」
「……何で、俺は悪魔から好かれるんだよ」
ベルロスの言葉に対し、俺はそう言いながら溜息を吐いた。
「それとさっきからジンは俺を刀に封印した事を嘆いてるが、俺が封印された事以外はお前の刀はかなり良い物に進化したと思うぞ」
「確かにそれはそうね。弟子ちゃんの刀、悪魔の力を封印されたからか、物凄い力を宿したみたいよ」
ベルロスと師匠からそう言われた俺は、ベッドに投げ捨てていた刀を手に取り鑑定を使った。
「なんだこの能力……」
刀の能力とは思えない程、そこには色んな能力が付いていた。
特に驚くのは、この呪われた刀は〝破壊不可〟という能力が付いていて、絶対に壊れないという能力が追加された。
「俺をこの刀が吸収した事で、俺の能力もこいつが吸い取ったんだろう」
「魔法の威力倍増とか、本来武器に付くような能力じゃないだろ……それに装備してるだけで良いって、なんだよこの壊れた能力は……」
確かにゲームとかで呪われた装備はぶっこわれ性能な物が多いけど、これはやりすぎだろ……。
「多分だけど、この世界のどんな武器よりもその刀は力を持ってるわね」
「流石、俺を吸収した刀だな」
「【異空間ボックス】の中に入れたままにできたのに、こんな能力が付いてるなら使わざる得ないじゃないか……」
呪われた武器だが、それなりの性能があると知った俺はこれを【異空間ボックス】の中に入れておくのは勿体無いと感じた。
「ベルロス、お前さっき出入りは自由にできるとか言ってたけど、それって俺が制限することはできるのか?」
「さあ? 俺もさっき、出たいと思ったら出れたからな、その刀の所有者の方が権利は強いんじゃないか?」
ベルロスの言葉に俺は試しに刀を手に取り、ベルロスを刀の中に入るように念じた。
すると、出て来た時と同じようにベルロスは黒い靄となり刀の中に入った。
成程、主導権は俺が握ってるという事かこれはいい事に気づいた。
これなら、ベルロスの事を気にしなくても刀を使えるな。
そう俺は思っていると、脳内に直接ベルロスの声が聞こえて来た。
(おっ、もしかして俺の声聞こえてる感じか? お~い、ジン!)
「脳内に直接喋りかけてくんなよ!」
ベルロスの声が聞こえた俺は、直ぐにベルロスの声を制限しようと念じた。
すると、俺を呼んでいたベルロスの声は聞こえなくなった。
しかし、そこで気づいたのだがベルロスに対し色々と制限をしたら、刀を持っているだけで魔力が消費されている事に気づいた。
それに気づいた俺は一旦、ベルロスを刀から外に出した。
「成程、前まではこんな事が無かったがベルロスが付いた事でこの刀は装備してると常時魔力が減るようになったのか」
「そんな能力もついたのね。でも、それなら弟子ちゃんなら大丈夫なんじゃない?」
「そうですね。俺や師匠が持つ分は大丈夫ですけど、普通の人は多分持つ事すらできないでしょうね」
「万が一、盗まれたとしても使える奴は限られてるって訳か、流石俺が封印されただけあるな」
俺と師匠の話を聞いていたベルロスは、何故か自慢気にそう言った。
そんなベルロスを見た俺は、刀を【異空間ボックス】に居れたらどうなるんだ? と気になり試しに入れてみた。
すると、ベルロスの声も聞こえず魔力も消費されなかった。
成程、装備してる時にだけ魔力が消費されるのか、だとしたら普段は【異空間ボックス】の中に入れておくのが正解だな。
その後、俺は刀を取り出し、ベルロスに異空間での状態を聞いた。
「そうだな、入れられた瞬間に時間が止まるみたいだから、特に不便さは感じない。まあ、強いて言うなら外でジンの活躍を見ることが出来ない位だな」
「そうか……なら、取り合えず普段は今まで通り【異空間ボックス】の中に入れておくとするか。一応、刀の性能はいいから戦闘時には取り出すが、その時に変に外に出ようとかするなよ? お前に制限をかけると、消費する魔力が増えるからな」
「ふむ……なら、約束だ。戦闘時には必ず刀を取り出す事、これさえ守ってくれたらいざ刀を使う場面で変にちょっかいはかけない」
ベルロスから出された提案に、俺はそれだけで良いならと約束をした。
その後、刀を【異空間ボックス】の中に入れた俺は、師匠にお礼を言って色々と頭を使った為、少し横になる事にした。
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