第266話 【英雄の末裔・3】
「この里、最初は私が住む為だけに作った所だったのよ」
「えっ、そうなんですか?」
「ええ、私の家だけ離れてるでしょ? それは昔、まだ英雄の末裔として人々を救ってい頃にあの子達を助けてこの地に住まわせたのよ。元々は私が人と接触を断ちたい時に使っていた隠れ家だった場所に、あの子達が住めるようにしたのよ」
エミリアはこの里の成り立ちについて、そう話してくれた。
言われてみれば、この家だけ少し特別感があるというか、里とはまた違う場所というような感じだ。
「当時から人に対しての考え方が変わって来ていたんですね」
「そうね。私だけが変なのか、子供の頃から〝何で無償で助けてないといけないの?〟ってずっと思ってたわ。力があるからという理由で、なんでもお願いしてきていざこちらが何か頼もうとしたら対価を要求してくる。そんな人間の姿を見て育ったせいで、人に対しての考え方が変わっていったわ」
エミリアの言った内容に俺は、少し間違っていたら俺もそんな風になっていたなと思った。
姫様があんな感じだったおかげでいい関係を築けたけど、そうじゃなかったら俺もエミリアみたいに酷い扱いを受けていたかもしれない。
「ジンは凄いわよね。それだけの力を持っていて、上手く人と付き合えてるんだもの私はもう無理だってなって逃げたわ。先祖達に恨み言を言いながらね」
「凄くはないですよ。俺はただ運が良かっただけです。エミリアさんの所の様な国に生まれ、同じ様に力を見せていたら多分同じ様に扱われていたかもしれないので」
そう言うと、エミリアは「運もジンの力の一つよ」と言葉を返してきた。
それから暫く里について話しをしていると、俺はふとどうしてそんな里からあんな特別な品を物々交換する商人が出来たのか気になり、エミリアに聞いた。
「あれは別に私がするように言ったんじゃないわ。あの子達が自分達なりに、私に守られるだけの存在になりたくないって事で始めてたのよ。最初こそ商売する相手が少なかったけど、何年も続けて行くうちにあそこまで成長したのよ」
「そうなんですね。取り扱ってる品が品なので、エミリアさんの人脈でも使ったのかと思いましたけど、全部魔人達の力なんですね」
「ええ、私もジンの事が気になった時にあの子達の今の取引先を聞いたら、私も知らない所と取引してて驚いたわ」
「分かります。隠れ里とかどうやって取引するようになったのか、よくよく考えたら謎ですからね」
ゲームの知識があるから、最初から普通に使ってるが隠れ里とどういった感じで取引を始めたのかマジで謎だ。
エミリアの力を使って無いとすると、魔人達は相当働き者何だなというのが分かる。
その後、日が暮れるまで話しをしたエミリアから、「今日は来てくれてありがとね」とお礼を言われた。
「本当に話をする為だけに呼んだんですね」
「ええ、この時代の私の先祖みたいな人がどんな人物なのか近くで見たいと思って、丁度あの子達とよく取引をしてるって聞いてたから呼んで貰ったの」
「まあ、俺もあの英雄の末裔であるエミリアさんと話が出来て楽しかったです。正直、里の長が英雄の末裔だって事がここに来て一番驚いた事です」
ゲームでも登場しない、この世界のガチの英雄の子孫が長なんて意味が分からなかったからな。
「ふふっ、私もジンがこんなに話しやすい相手とは思わなかったわ。また暇な時にでも、話し合いになりにきてね」
「……また来ても良いんですか?」
「ええ、今回は私の話し相手にだけ来てもらったけど、次は里の子達とも交流してあげて欲しいわ。あの子達の中にも、ジンと話してみたいって思ってる子がいるみたいだから」
「それならまた来たいです。あっ、次来る時は仲間も一緒に連れて来ても大丈夫ですか?」
一応、そう聞くとエミリアは「ジンの仲間だけなら良いわよ」と、クロエ達が来る事を許可してくれた。
その後、持っているだけで結界を出入りできるというエミリアの魔力が込められた木の札を貰い、俺は商人の里から転移で王都へと帰宅した。
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