第250話 【姉さんとの一日・2】
「はぁ……」
「じ、ジン君? やっぱり聞きたくなかった?」
「ああ、いや、ちょっと自分の事をあんな風に話す人をこんな近くで見た事が無くてちょっと心の整理がついてないだけだよ」
あの後、姉さんが聞きたいと言った吟遊詩人の語りを俺は聞いて、気分が少し落ちてしまった。
その理由は、あの吟遊詩人が語った物語が問題だった。
彼が語った物語、それは隠れ里を襲った魔王軍を討伐した俺の物語だった。
内容も内容だか一番恥ずかしいと感じたのは、その物語の題名だった。
「何だよ〝恥ずかしがり屋の英雄〟って……」
いやまあ、これまで俺は人前に出ない様に隠れて活動したりしてきたけど、それが何で〝恥ずかしがり屋〟って題名に付く事になるんだよ!
「ジン君、ずっと表舞台に名前が出ない様にしてたから、周りからは恥ずかしがり屋だって思われてるのかな?」
「あの題名からそうだろうね……俺はただ問題解決するまで自分の名前が出ない様にしてただけだってのに……」
それに俺はそんな不名誉な名で呼ばれてるのに対して、クロエ達は称号にもついた同じ名称で語られていた。
何でだよ! それなら俺だって、まだ〝救世主〟の方がマシだったぞ!
そんな風に俺は物語の題名に怒りを感じていると、注文していた料理が届いた。
あの後、俺達はあの場から移動して予約していたタコ料理がおいしい店へと来ている。
「わ~、見てみてジン君。凄く美味しそうだよ」
姉さんは運ばれて来た料理を見て、嬉しそうにそう言った。
貴族も来ると言われてるだけあって、運ばれて来た料理は凄く美味しそうな見た目と匂いをしていた。
「姉さん、見るのも良いけど食べようか」
「うん、そうだね」
ジーと見ていた姉さんにそう言うと、姉さんは料理を口の中に入れると目をパッと開いて「美味しい」と言った。
姉さんに続いて俺も一口食べてみると、焼き加減が凄く良くて今まだ食べたタコ料理と比べて食感から全く違った。
凄いな、こんな美味しいタコ料理食べた事が無いな、情報を聞いてここを選んだけど正解だったな。
「どう姉さん、美味しい?」
「うん! 凄く美味しいよ。こんな美味しいタコ食べた事無くて驚いちゃった。こんないい所に連れて来てくれて、ジン君ありがとう」
「そんなに喜んでくれて、こっちも連れて来た甲斐があったよ。この後はまた歩いたりするから、歩けるくらいの余裕を残して他のタコ料理も楽しもうか」
そう提案すると姉さんは、普段表情があまり変わらないが、満面の笑みを浮かべて「うん」と返事をして追加注文をした。
その後、一時間程その飯屋でタコ料理を堪能した俺達は近くの公園まで歩いて移動した。
「ジン君、凄く美味しかったね」
「ああ、今まで食べたタコ料理の中で一番美味しかった。今度はルル姉はクロエ達も一緒に連れてこようか」
「うん、皆で食べたらもっと美味しいと思うから、また来たいね」
そう姉さんは言うと、ちょっと無理して食べたのか苦しそうな表情をした。
俺はその表情を見逃さず、近くのベンチに座る事を提案した。
「……姉さん、やっぱり少し無理して食べてたんだね」
「ちょ、ちょっとだけね。そのタコが凄く美味しそうに見えて、あまり来れないだろうから……」
「別に、姉さんが頼んでくれたらいつでも連れて来るよ。俺もあの店は気に入ったし、だから次からは無理しないようにね」
そう言って俺も姉さんの横に座り、一緒に公園を眺めながら少しだけ休憩をした。
休憩後、少し苦しさが無くなった姉さんと港街で一番賑わいのある商店街へとやってきた。
獲れたて魚や海藻が並べられていて、いいお土産が見つかりそうな気がした。
「そう言えば、ルル姉の好きな食べ物って知ってる?」
「う~ん……魚系は全般好きだって言ってたよ。ルルってなんでも食べるけど、魚の時はいつもより嬉しそうに食べてるんだよ」
「へ~、偶にしか一緒に食べないから知らなかった。それなら、ルル姉のお土産は魚にしようか」
それから俺は姉さんの仲間であるコロンさん達の分のお土産と、クロエ達のお土産を姉さんと一緒に選ぶ為に商店街の奥へと進んだ。
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