第249話 【姉さんとの一日・1】
翌日、予定通り今日は姉さんと過ごすと決めていた俺は朝早くから身だしなみを整える為、シャワーを浴びていつもより少し小奇麗な服に身を包んだ。
「ジン、姉と出かけるだけなのにそんなおめかしするのか?」
着替え終わった俺は部屋で待っていると、用があると言って入って来たレンから俺はそう言われた。
「折角のデートだからな、いつもみたいな服で行ったら姉さんに失礼だろ? それにいつかするであろうデートの予習だよ」
「……ジンって、彼女とか欲しいと思ってたのか。てっきり、そういうのに興味ないと思ってたぞ」
俺の言葉に対して、レンが驚いた顔をしてそう言って来た。
「欲しくないわけでは無いけど、今は作れないだろ? 魔王軍との戦いが終わったら少しは考えようと思ってる」
「へ~、まあ俺は正直他人の恋路なんてどうでもいいけど、ジンの恋愛は気になるな……」
レンは珍しく笑みを浮かべてそう言うと、ポケットから小さな瓶を取り出した。
レンに頼んでいた物、それは姉さんへのプレゼント用の香水だ。
この世界では、香水は貴族が付ける物で姉さんも昔はよく付けていたらしい。
しかし、平民となってからは香水を付ける事は無くなったとルル姉から聞いた。
それなら折角だしと俺は、レンに頼んで姉さんが好きな花の香で香水を作ってくれと頼んで作って貰った。
「ほらっ、頼まれていた物だ」
「お~、ありがとなレン。やっぱ、もつべき者は天才錬金鍛冶師様だな」
「……まあ、いい暇つぶしになったよ」
俺の言葉にレンはそうそっけなく返すと、部屋から出て行った。
その後、時間になった俺は部屋を出て一階に移動して姉さんが来るのを待った。
それから数分後、姉さんは少し慌てた様子でやって来た。
「ご、ごめん。ジン君、待った?」
「大丈夫だよ。俺もさっき来たばかりだから」
「よ、良かった~。ルルが従者時代の腕がなる! とか言って、時間ギリギリまで髪のセットしてて時間に間に合うか心配だった~」
姉さんはそう言うと、深呼吸して息を整えた。
普段の姉さんは冒険者らしく、特に服装に拘っていないが今日の姉さんは普段の姉さんとは大分違っていた。
白いワンピースに身を包み、前に俺が送ったイヤリングを耳に付け、お嬢様の様な格好となっていた。
流石、元侯爵家の長女だな、ここまで変わるなんてやっぱり姉さんは凄いな。
「姉さん、似合ってるよ」
「ありがとう。ジン君も凄く似合ってるよ」
そう互いに褒め合った俺達は手を繋いで、今日のデート候補地である港街へと転移で移動した。
今日の予定はこの港街で街中をデートして、昼は海鮮系の食事、そして夜は王都に戻って夕食で俺の手料理を食べるというプランだ。
「わ~海だ」
姉さんは街に入り海を眺めると、キラキラとした目で海の方を見つめた。
旅の間、何回か海のある街に来た事があると聞いていたが、それも大分前の話らしい。
俺は王都に戻る最後は港というか、海の中のダンジョンに潜っていたからそこまで久しぶりという感じはない。
「姉さんって海鮮系の食事大丈夫? 一応、予定では昼は海鮮系食べようと思ってるんだけど」
「大丈夫だよ。辛く無かったら大抵の物は食べられるよ」
「そうなんだ。それは良かった。好きな海鮮ってなにかある?」
「ん~……やっぱりタコかな? どんな調理しても美味しいから」
成程、姉さんは海鮮の中だとタコが一番好きなのか……事前に調べた所に、タコ料理がおいしい店があって良かった。
ルル姉からの情報で、海鮮系の中で好きな物はいくつか聞いていたおかげで情報を絞れていてよかった。
ちゃんとルル姉には、お礼の品を用意しないといけないな。
「あっ、ジン君。あそこ何かやってるよ」
姉さんが指を指した方を見ると、そこには楽器を弾きながら物語を語っている人物が居た。
珍しいな吟遊詩人と会うなんて、王都でも見かけたことが無かった。
「珍しいね吟遊詩人だよ。それもあのマークは王に認められた詩人みたいだね」
その詩人の帽子には国が認めた証拠として、国のマークをしたバッジがいくつも付けられていた。
あれだけ付けられているという事は、相当腕のある詩人なんだろうな。
「そうなの? ちょっと聞いて行く?」
「姉さんが聞きたいなら良いよ」
姉さんが聞きたそうにしていた為、俺は姉さんに引っ張られるようにその詩人の元に近づいて話を聞く事にした。
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