第202話 【約束・2】
夕食後、シャワーを浴びて部屋で本を読んでいると、扉をノックする音が聞こえ返事をするとレンが部屋に入って来た。
「あれ、何か用事か?」
「ああ、前に約束してた。新薬の開発が進んだから、それの成果報告に来た。食堂だと、誰かに聞かれる可能性もあったからジンが部屋に戻るのを待ってたんだ」
「そうだったのか、それなら言ってくれたらシャワーの前に部屋に来たのに」
そう言いながら俺はレンに椅子を出して、レンから調合された薬を見せて貰った。
レンに頼んでいた新薬とは、森の奥地で暮らすエルフ族にしか作る事が出来ない〝森の神秘薬〟の類似品を作りだして欲しいという少し無茶なお願いだった。
神秘薬がある時点でそれに近い効果を持つ薬は、製造が可能という事は証明されている。
その為、俺はゴブリン商人に頼み沢山の薬に使える素材を買い込んだり、神秘薬を購入して研究に回したりしていた。
「前回は散々だったけど、今回のは大分いい感じに作れたから見てくれ」
そうレンから言われた俺は、渡された薬に鑑定を使った。
するとその薬の成分はほぼ神秘薬に近く、俺はその効果の内容に二度見した。
「どうだジン?」
「……レン。お前って本当に天才だよ。完全な神秘薬とはいかないけど、性能はほぼ一緒だ」
「よしッ」
普段、感情を表に出さないレンだが今回ばかりは嬉しかったのか、小さくガッツポーズをして笑みを浮かべた。
それにしても……まさか、こんなに早く神秘薬に近い薬を作って来るとは思ってなかった。
俺の予想だと後一年位は最低でも掛ると思ってたけど、レンの才能は俺の予想を軽く超えて来たな。
「しかし、本当によく出来たな。俺も頼んだ側だけど、正直こんなに早く出来るとは思ってなかったよ」
「ナシャリーさんのおかげだ。色んな研究をしてるらしく、森の神秘薬を見せたらそれに近い成分を出す方法を一緒に考えてくれたんだ」
「そうだったのか、それなら今度会った時にお礼を言わないとな」
そう言った後、俺はレンから受け取った薬が量産は出来そうか聞いた。
「材料と俺の体力があれば出来る状態だな」
「了解。前から決めてた通り、この薬の作り方や出所は秘密で売る予定だからレンの都合で作って貰ったらいいよ」
流石に〝森の神秘薬〟に近い薬が量産できるなんて知られたら、レンを狙う者が現れるだろう。
その為、ギルドに卸す際は今まで通り俺が商人から仕入れているという風に卸す予定では居る。
「それと、これ薬を作ってる時に暇潰しで作ったんだけど、ジンはどう思う?」
「それも薬みたいだな」
レンから渡された見た事の無い薬を見て、俺はそう言いながら鑑定を使った。
するとその薬の効果は、一定時間身体強化と同じ効果の持つ薬という事が分かった。
「……どうやって、こんな物作ったんだよ」
「ナシャリーさんから色々と話を聞いてたら、思い浮かんだんだよ。一応、安全性を考慮してそこまで比較的強くなるという物では無いけど、使う人によってはかなり使える物にはなるかと思うんだがどうだ?」
「正直、身体強化の二重掛けみたいなものだから、前線で戦う人にはかなり使える物だと思う」
薬の効果を見て、俺はそう驚きつつも思った事を口にした。
ナシャリーさんとの出会いは、レンの才能を更に上げたんだなと俺はこれを見て再認識させられた。
「レン。一応言うと、これも普通に売れるような物じゃないと俺は思ってる。レンの名声をもっと上げるなら発表してもいいけど、俺はやめておいた方がいいと思う」
「別に名声とか気にして無いし、研究に支障が出そうだから発表はしなくていいぞ」
「そうか、そう言ってくれて俺も助かるよ……それにしても、本当にレンは凄いな。こんな凄い薬を思い付きで作るなんて」
レンが発表しないと言って俺は少し安心しながら、もう一度薬を手に取りながらそう言った。
「ナシャリーさんから教えて貰った知識を使いたいって欲が最近強くて、色々と研究してるんだよ。金はジン達がいくらでも掛けていいって言ってくれてるから、金銭面を気にせず研究に没頭できる環境が整ってるのが本当に有難いと俺は思ってるよ」
「俺達もレンの薬には助けて貰ってるからな、お互い様だよ。しかし、そうなるとそろそろ家の購入を検討しないといけないな……」
今はリカルドの宿を拠点としているが、レンの研究所をちゃんと作った方がいいんじゃないかと俺達は考えている。
「でも俺の研究の為に家を買うって、流石に申し訳ないからな……正直、訓練なら空島でやればいいし、料理も宿の飯の方が美味いだろ」
「確かにそうだけど、ずっとギルドで研究をさせるのもな……パーティーの家じゃなくても、レン専用の研究所でもいいんだが」
「それはもっと俺だけが使うみたいで嫌だよ」
俺の言葉にレンはそう断り、だとしたらやっぱりパーティーで使う目的で用意した方がいいだろと話は戻り、それから暫く俺とレンの言い争いは続いた。
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