第186話 【敗北の勇者・2】
部屋に戻って来た姫様は向かいの椅子に座ると、深く息を吸い深呼吸をすると俺の方をジッと見つめて来た。
「ジンが気にしてた問題、それが解決したから表で活動しても良いってさっき言ったけど、その問題の事を聞いてもいいかしら?」
「ん~……姫様達には関係のない事ですし、それに聞かない方がいいと思いますよ」
正直、悪魔に好まれやすい魔力の性質を持っていると話したら、姫様も驚くだろう。
それなら、だったら話すべきではないなと俺は考えた。
しかし姫様とは長年の付き合いで、俺のその言葉にすんなりと聞き入れるような人じゃないのは知っている。
その為、今も尚俺の事をジーと見つめてくる姫様に「聞いたら後悔しますよ?」ともう一度忠告をした。
「それでも聞きたいわ、ジンがこの三年間隠し続けてきた訳はずっと気になっていたわ」
「……はぁ、心配事が増えるだけですけど、本当に良いんですね?」
そう試す様に真剣な顔で言うと、姫様は頷いたので俺は自分が悪魔に好かれている魔力の性質を持っている事を伝えた。
それを聞いた姫様は最初、信じられないという様子だったが、俺の真剣な顔に嘘をついている訳ではないと察した様だ。
「悪魔に好かれる魔力の性質……そんな人が居るの?」
「現に俺がそうですね。以前からその問題について知っていた俺は、なるべく隠れるように動いて、鍛え続けて来たんです。それで先日、師匠から悪魔にも勝る力を得れたと言われ、隠れる事を止めたんです」
「……ジンが常識が通じない人だと知っていたけど、それは流石に驚くわね。悪魔に狙われやすい魔力の話もそうだけど、悪魔に勝る力を手に入れたってジンなら本当の事だろうけど、それってつまり魔王軍も簡単に倒せるほどの力かしら?」
「まあ、魔王軍と戦った事がないので断言はできませんけど、魔王軍が竜王ヴェルド様、黒竜族の長ノアさん、白竜族の王子スカイ、それと魔女三人より強い奴等が居たら難しいですね」
三カ月間の修行の際に戦った面子を並べながらそう言うと、姫様は呆れたような顔をした。
その後、姫様からまた後日連絡を寄越すから、それまでは出来るだけ王都から離れないで欲しいと頼まれて姫様との話し合いは終わった。
「ジン、問題事が解決したなら前までずっと避けてた勇者とは今後は仲良くするのかしら?」
「ん~、勇者に関しては問題がという訳じゃないですよね……まあ、でもタイミングが合えば少しは仲良くしようとは思いますよ」
勇者については正直、ゲームでのジンとの関係性を考えるとあまり近づくのは嫌だなと感じている。
ゲームの勇者では無いと分かって入るけど、今更勇者と仲良くするのもな~という気もちもある。
その後、姫様の言葉をそんな感じで濁した俺は転移で宿に戻って来て、待機していたクロエ達に話し合いで決まって事を伝えた。
「結局、姫様にジン君の問題について教えちゃったんだ」
「姫様は頑固だからな、言わなかったらまた機嫌が悪くなりそうだったから言う事になっちゃったよ」
「ふふっ、姫様は特にジン君に対して要求を曲げないもんね」
そうクロエからそう言われた、俺は溜息交じりに「そうなんだよな~」と言って天井を見上げた。
「……そう言えば、そろそろリーザに頼んでいた装備が出来上がる頃だよな。完成してるか分からないけど、明日見に行ってみるか?」
「あっ、そうだね! もう一ヵ月経ったんだ! 楽しみ~、私の新しい戦斧どんなのかな!」
一ヵ月前、修行の途中に自分達に合う装備を作り直した方が良いと師匠から言われ、俺はクロエ達と共にリーザの所に装備の製作をお願いしていた。
その際、素材としてドラゴンの素材を大量に渡すと、冒険者として活動をしているルバドも一緒に作ると言いだした。
そして自分だけ仲間外れは酷い! とリーザとルバドに泣きついたリブルも加わり、ガフカ家の三代の工房長が俺達の装備を制作している。
ドラゴンの素材は貴重且つ扱いが難しい為、製作期間は長めに一ヵ月欲しいと言われて、その期日が丁度明日なのだ。
「今回は俺も【付与魔法】を効率よく使う為に、杖を作った貰ったから楽しみだな」
三カ月の修行で新たに【付与魔法】を使えるようになったレンは、初めての自分の武器が手に入るとワクワクしていた。
それから明日は予定をあけておくようにと言って、話し合いは終わりにしてそれぞれの部屋に戻った。
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