第185話 【敗北の勇者・1】
翌日、俺は姫様から来ても良いという連絡を伝えられた。
クロエ達には宿に残っててもらい、俺は一人転移で城へと移動した。
「久しぶりね。ジン」
「お久しぶりです姫様……寝れていないようですね」
久しぶりにあった姫様の顔は物凄く暗く、そして疲れが隠しきれていない顔色をしていた。
そんな姫様は俺の言葉に対して、「まあ、色々とあって寝れていないわ」とため息交じりにそう言った。
「昨日聞いたばかりですけど、勇者が負けたらしいですね」
「ええ、今は治療室で手当てをして寝てるけど、相当酷い状態だったわ」
第三の四天王の属性は水、広範囲攻撃を得意としている。
それまでの四天王とは比べ物にもならない程に強く、ゲームの時も最初の一回目で「これは負けイベ」と分かる程に圧倒的な差でボコボコにされたのを覚えている。
それから修行編へと移り、再戦まで勇者の育成をするというのがゲームの流れだった。
ただしここは現実世界である為、勇者の敗北はかなりの痛手だ。
「戦女の子達もかなりの重傷で、ジンから貰ってた薬が無かったら本当に大変な事になっていたわ。ジン、ありがとね」
「こういう時の為に、渡していた物ですからね。役立ったようで良かったです」
正直、勇者が普通の魔物や魔王軍との戦いで重症を負うとは思って無かった。
なのに何故俺が、あんなに沢山の秘薬を渡していたのかはこの時の為である。
ゲームでは何日か寝込んだ後に修行編に突入するが、現実であるこの世界では何が起こるか分からない。
勇者を傷めつけれたからといって、魔王軍の侵攻が激しくなる可能性もあるからな。
「姫様は今回の討伐戦にも参加していたと聞きましたけど、どうでしたか? 次やったら、勇者は勝てそうですか?」
「……難しいわね。あの四天王は他の四天王とは次元が違った感じがするわ、戦女の子達の攻撃も全く効いていなかったわ」
「それは本当に強い四天王だったみたいですね」
「ええ、あれ程の絶望感は初めて味わったわ……何とか逃げる事は出来たけど、無事に戻ってこれたのは奇跡ね」
姫様はその時の事を思いだして、少し震えながらそう言った。
死ぬ思いをしたからか、以前までの姫様の明るさは少しだけ無くなってるように感じる。
ゲームではたった数行のセリフだったけど、あの姫様でもここまで思い詰めていたんだな。
「それで今後については、どういう風に動く予定なんですか?」
「一応、怪我は治ったけど精神的に疲弊してるから、勇者達には休んでもらうとになってるわ。特に、勇者は四天王の攻撃から皆を守る為に酷い重症を負って、精神的なダメージが残ってるみたいなの」
「成程、薬だけでは治療できませんからね精神的なダメージは……」
俺もこの世界では重症を負った事が無いから分からないが、話を聞くと勇者は皆を守る為に腕を切られたという話は聞いている。
その腕は薬でどうにかなったが、腕を切り落とされた記憶は残っているから、そう簡単に復活は難しいのだろう。
「……姫様、一応俺の方の問題は解決出来たのでこれからは表で活動できるようになりました。なので、魔王軍の対処に俺達も動きますよ」
「本当に? あのジンが動いてくれるの!?」
俺の言葉を聞いた姫様は椅子から立ち上がり、叫ぶような声でそう言った。
まあ、出会ってからずっと目立ちたくない、表で行動はあまりしたくないと言い続けていた俺の事を知っている姫様からしたら驚く内容だろう。
「はい、少し前に俺の方の問題が全て解決出来ました。なので、今後は多少目立っても大丈夫になったんです。まあ、あまりにも目立ちすぎるのは問題以前に嫌ですけどね」
そう俺は笑みを浮かべながら言うと、姫様はポカンとした様子で座りなおした。
「さっきまでの憂鬱な気分が全部吹き飛んだわ……ジン。確認だけど、本当にこれからは魔王軍とも戦ってくれるの?」
「ええ、問題事は無くなりましたから、魔王軍の戦いにこれからは参加しますよ。ただ何処かの団体に参加するのは嫌です。俺はクロエ達の実力は知ってるからいいですけど、他の知らない人と一緒に戦うのは正直どこまで使えるのか分からないので、分からないなら最初から一緒に戦いたくはないです」
「ハッキリと言うわね……分かったわ。ジン達の事は別動隊として、伝えておくわ」
「ありがとうございます」
俺の我儘を聞いてくれた姫様は、直ぐに書類を作成して外で待っていた従者に渡して部屋に戻って来た。
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