第16話 【知識の有効活用・4】
クロエと解散した後、俺は商業区へと向かいシンシアの店へと向かった。
「あら、久しぶりねジン」
店に入ると、シンシアは店のカウンターからそう俺に声を掛けた。
「ああ、久しぶりだな。暇そうだな」
「ええ、少し前から常連の子達が遠征に行ってて少し暇してたのよね。外に遊びに行くのも面倒だなって思いながら、店を開けてボーとしてたわ」
「……友達いないのか?」
「居るけど、この時期は忙しいって言ってたのよ」
シンシアの言葉に俺は「そうか」と返し、店の中を見せて貰う事にした。
今日来た理由、それは品物が増えていないかのチェックである。
ゲームでは物語が進むと、全ての店で品物が増えるという設定があり、この店もその設定が入っていた。
そんな俺にシンシアは、ある品物を持ってきた。
「これは、この前は無かった物だな」
「少し前に仕入れたのよ。ジン買ってみる?」
そう言われたシンシアは俺に品物である棒を手渡してきた。
この棒は魔力を一定量入れ、魔力が切れた時にその棒を使い魔力を回復する役割のアイテム。
ゲームでは、この棒を使う者は殆ど居なかった。
魔力回復に関しては他のアイテムの方が効率が良いし、何でこんなアイテムを作ったのか開発者に聞いたものが居た。
開発者の答えとしては、没案ではあったが既にゲームに組み込まれていて消すのが面倒でそのまま残った没アイテムだと言っていた。
「使い方を聞いても良いか?」
これがゲームの設定通りなのか確認の為にそう聞くと、シンシアはこの棒の説明を始めた。
その結果、この棒の効果はゲームとそのまんまだった。
「……飴があるから、要らないな」
「……やっぱり、そう思うわよね。私も売れないと思ったんだけど、面白そうだったから仕入れて見たのよね。そしたら、一本も売れなくてどうしようかなって」
「それで飴を買った俺だったら買ってくれるかもと思って、紹介してみたのか?」
「ええ、使い道が分かれば他のお客さんにも紹介すれば多少は売れるかなって、ちょっと試してみない?」
シンシアからそう言われた俺は、店の裏手の空き地に連れてられて来た。
使い道が分かればと言われてもな、俺自身ゲームでもこの棒は使ってなかったんだよな……。
「まあ、取り敢えず容量の確認程度に魔力を入れて見るか」
そう言って俺は、魔力を棒の中に入れ込むイメージをした。
すると、手の先から棒の方へと魔力が流れる動きを感じ、大体30秒ほどでその感覚は止まった。
「ふむ、まあ普通の魔法使い程度なら魔法数発分の魔力が棒の中に入るのか」
「ええ、私もそう聞いているわ。だから、魔力が切れた時に棒を折って一瞬で回復すれば使えるって聞いたわ」
「それなら、普通に魔力回復薬を飲んだり、それこそ飴を舐めてた方が良いと思うけどな」
そう思いつつ、俺は取り敢えず一度魔力が入った棒を折り、実際に体験してみた。
感覚的に大体数秒で失った魔力が回復して、割といい回復アイテムだなと感じた。
「……初心者冒険者なら使えない事も無いが、普通の冒険者が使う物では無いな。それこそ、この店に来る奴等だと要らないアイテムだろうな」
「そっか……箱買いでかなり安く売られたから変だとは感じてたけど、そこまで使えないアイテムだったのね……」
俺の言葉に気落ちするシンシア。
在庫数もかなりの量があるみたいで、ショックを受けていた。
そんなシンシアの姿を見ていられないと思った俺は、ある提案をした。
「なあ、シンシア的にこの棒はいくらで売れたら満足なんだ?」
「買った時の値段、一箱金貨一枚だったからそれくらいの利益があれば満足かしら……」
「……だったら、冒険者ギルドに話をもっていかないか? ギルドが冒険者に対して、有料で魔法の講習をしてるのは知ってるか? その講習で使う魔力回復のアイテムが少なくなってるって、俺のパートナーが言ってたんだ」
その話をすると、シンシアは頭を上げて「その話、本当なの?」と聞き返してきた。
その後、俺とシンシアは棒を【異空間ボックス】に入れてギルドへとやって来た。
先程帰った俺が現れて、少し慌てて奥からフィーネさんが出て来ると、横に居るシンシアを見て驚いた顔をしていた。
「シンシアって、ギルドでも有名なのか?」
「まあ、少しね」
先程までの悲壮感漂っていたシンシアだが、少し胸を張ってそう言った。
その後、フィーネさんに棒の説明と実際に使用をして見せて、いくらで買ってくれるか相談をした。
その結果、一箱金貨二枚で買い取ってくれた。
「金貨二枚で買い取りって、本当に良いんですか?」
「ジンさんと、シンシアさんの頼みですからね。それに明日の分も大分厳しかったので、ギルドとしても助かるんですよ。後、先程の話に上がった飴型の回復薬も気になるので、もしよろしければそちらもギルドに卸して頂けると助かるんですが」
「良いわよ! 今回、助けて貰ったもの!」
不要なアイテムが売り捌け、肩の荷が下りたシンシアは元気よくそう言うとギルドと商談を始めた。
その場に俺は必要無かったので、フィーネさんにお礼を言って帰宅した。
【作者からのお願い】
作品を読んで面白い・続きが気になると思われましたら
下記の評価・ブックマークをお願いします。
作者の励みとなり、作品作りへのモチベーションに繋がります。