第159話 【勇者・3】
時は遡り一時間程前、俺はいつものように空島で修行をしていた。
「そう言えば、ジン。鱗は何かに使ったの?」
「一部国に渡して、残ったので全員分の装備を知り合いの鍛冶師に頼んでる所です。ドラゴンの素材を扱った事のある鍛冶師なんですけど、スカイさんの鱗は初めて触るレベルの物だと言って時間がかかると言ってました」
リーザはスカイの素材を見て、目を輝かせ「こんな良い素材を使わせてくれるのか!」と興奮していた。
ルバドもスカイの鱗を見て、リーザに一緒に作らせて欲しいと頼み込んで、ガフカの工房は店の方は休みにしてスカイの鱗の装備づくりに集中している。
「人間が扱うドラゴンの素材は下に落ちた下位のドラゴンの素材だから、上に住んでるドラゴンの素材を人間に手に居る機会は滅多にないからね」
スカイさんはそう言うと、装備が出来たら見せる約束をした。
そうして修行が一段落した俺は王都に戻って来た俺は、もう直ぐ姉さんの誕生日だからプレゼント探しをする事にした。
それが全ての間違いだった。
姉さんのプレゼントだからといって、色々と悩んでいた俺は近くに寄って来ていた勇者の気配に気付くけなかった。
くっそ、これまで何のために逃げ続けて来たんだよ! こんな凡ミスする何て、俺は馬鹿かよ!?
「えっと、俺の事知ってるんですか?」
「うん、色んな人からジン君の事は聞いてるよ。あっ、ごめんね。初対面なのにジン君って呼んじゃって、同い歳って聞いてたから君付けしちゃった」
「別にそこは気にして無いですよ。同い歳ですから、君付けで構いませんよ。それより、今日はどうしたんですか?」
変にここで逃げたら、また絡まれそうだと思った俺は何とも思ってない風を装ってそう尋ねた。
すると、勇者も仲間の一人にプレゼントを買う為に店を見に来たと言った。
成程、戦女の人達とは上手くいってるみたいだな、それは良い事が確認出来た。
戦女との関係性が良くなる事で勇者の力も強くなるからな……。
「うん、話で聞いてた通りジン君から強いオーラを感じるね」
ジーと勇者は俺の事を見つめると、ニコリと笑みを浮かべながらそういった。
この勇者、何を考えるのかイマイチ分からないな……。
「そんな事は無いですよ。それに強いオーラなら、勇者様からもビシビシ感じますよ。流石、四天王の一人を倒す程の力を持ってるだけありますよ」
「ジン君からそう言ってくれると嬉しいよ。ユリウスさん達がよくジン君の話をしていて、少し嫉妬してたんだよ? 僕と同い歳なのに剣も魔法も僕の師匠達から認められる程上手くて、更に冒険者としても活躍してる何てね。勿論、師匠達は僕に聞かせないように陰で言ってたけど、勇者になって耳も良くなったみたいでね。色々と聞こえていたんだ」
ユリウスさん達! 結局、勇者に聞かれてるんじゃんかよ! ちゃんと隠してるって言ってたじゃん!
「その、俺がユリウスさん達に教えてもらってたのは3年前なので当時の年齢からしたら、って意味も含まれてたんだと思いますよ」
「ふふっ、ジン君。気を遣わなくても大丈夫だよ。今日、ジン君とこうして会って師匠達が言ってた事が本当だって分かったから」
ニコリと笑みを浮かべる勇者は、ハッとした顔をすると「ごめん、あんまり時間が無いんだった」と言って話しながら選んでいたプレゼントを購入して走り去った。
向こうから居なくなったおかげで変に誤解される事無く解放された俺は、俺もプレゼントを選び転移で宿に戻った。
「ああああ、俺の馬鹿!」
帰宅した瞬間、ベッドに寝転んだ俺は枕に顔を埋めてそう叫んだ。
あれだけ勇者から距離をとろうとしてたのに、結局あっちまったじゃないか!
「……いや、でもゲームみたいに敵対する流れでは無かったな」
正直、勇者と会いたくなかった理由の一つは、何かしらの出来事で敵対する流れになる可能性を捨てきれていなかった。
だけど今日あった感じは、俺と敵対する流れでは無かった感じだった。
まあ、これまで国に尽くしてきてるし、やってない事と言えば表に出て魔王軍と戦っていない事位だ。
「よしっ、変に勇者に絡まれる前に王都から住処を変える計画を急ピッチで進めよう。今は大丈夫でも、いずれそうなる可能性があるかも知れないしな、転移が使えるようになったからクロエの家にはいつでも帰れる状態だし、姫様の所にも部屋を作ってるから……うん、行けるだろう」
王都に居る理由の主な二つ、クロエの両親と姫様の所に顔を見せるというのは転移で解決できる。
姉さん達も俺の話を聞いてくれて、一緒に居れるなら付いて行きたいと言ってくれている。
そうとなれば、師匠に話をして協力してもらうぞ!
そう考えた俺は、それから転移で空島へと再び戻って来て修行の準備をしていた師匠に勇者にあった事を告げて空島に住処を移したいという要望を伝えた。
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