第146話 【姉との時間・2】
案内された個室に入った俺は、ロブに注文は後ですると言って部屋を出て貰った。
姉さん、なんかソワソワしてないか?
「姉さん、大丈夫?」
「えっ? う、うん。大丈夫よ。ただちょっと、こんないいお店に連れてこられるなんて思って無くて、ちょっと緊張してるだけ」
「……姉さん、元は貴族だよね? 俺と違って、普通に高い店とか行ってたんじゃないの?」
「全く無かったとは言えないけど、そんなに来た事はないわ」
姉さんはそう言うと、水を一口飲むと家に居た時の事を話してくれた。
昨日話した通り、姉さんは家との対立を決めてからは普段は大人しい子を装っていた。
その為、家族もそんな姉さんを疑う事は無く、頻繁に貴族が集まるパーティーに参加させられていたらしい。
だけど姉さんはパーティーには興味がなく、姉さんは仮病で休むことが多かったといった。
「だからあまり高価な物とかはそんなに口にした事も無いし、こういった場所にも殆ど来る事が無かったわ」
そう姉さんは言うと、メニューが載ってる表を見て「どれも美味しいね」と言った。
それから俺は姉さんに、この店のおススメを食べて貰おうと思い。
おススメの料理を紹介して、その料理を注文する事にした。
この店のおススメは出店でも出されてる肉串は勿論おススメの一つだが、もう一つは予約していないと注文できない〝キングオークのステーキ定食〟は格別に上手い。
ロブとはこの三年間も戻ってきたタイミングで、色々と話をしたりしていて俺の為にいくつか取り置きしてくれてる。
「わ~、凄く美味しそう!」
姉さんはいつもの無表情ではなく、目をキラキラとさせてそう言った。
「ッ! 口に入れたお肉、直ぐに消えちゃうくらい美味しい!」
「キングオークだから、その辺のオークの肉とは比べ物にもならない程、肉の品質が良いんだ。更にこの店は焼き方も拘っていてるんだよ」
そう俺が〝キングオークのステーキ定食〟について説明してる間も、姉さんは美味しそうに食事を続けていた。
こんな姉さんの姿、ゲームでも見た事が無い。
「お肉も美味しいけど、野菜も凄くシャキシャキしてて美味しいね。普段は野菜はあんまり食べようとは思わないけど、ここのならいくらでも食べられる気がするよ」
「野菜に関してもこの店は特に気にしてて、契約してる農家から直で卸してるから鮮度も凄く良いんだよ」
「お肉から野菜まで丁寧に取り扱ってるんだ……って事は、このお店それなりに高いお店なの?」
「まあ、それなりにするけど、気にしなくて良いよ。貯金してるから」
値段の事を気にした姉さんに俺はそう言うと、姉さんは「でも……」と言って財布を取り出そうとした。
「姉さん、この食事は俺が誘ったんだから俺に払わせてよ。一応、これでも男なんだから」
「……分かった。それじゃ、次いつか食事をする時は私に払わせてよ。お姉ちゃんとして、弟に奢ってばかりは嫌だもの」
「うん、分かった。〝次〟は姉さんにご馳走させてもらうね」
〝次〟という単語を俺は意識しながら姉さんに言うと、姉さんは察して「うん、約束するわ」と言った。
それから俺は、姉さんの冒険話を聞く事にした。
「姉さんの冒険って、謝罪の為に色んな所を回ったって言ってたけど、国外にも行ったの?」
「ええ、ラージニア家の被害者の多くは国から離れてたから、一年くらい国外に行ってたわ。でも、調べて分かった人にしか謝罪は出来てないから、もしかしたら調べきれてない人もいると思うわ」
「まあ、そこまでしたんなら良いんじゃない? そもそも姉さんが謝る必要はないと思うし、なんなら血筋で言うと俺の方がその旅をするべきだからね」
姉さんに流れてる血は、半分は確かにラージニア家正妻のヘレン。
だがヘレンは、ラージニア家の当主であるアルベールの元に嫁いできた相手なだけだ。
だからヘレンとラージニア家とは関係ない男の間で出来たヘレナが、その旅をする意味は本当は無い。
「ジンはいいのよ。被害者の一人なんだから」
「だったら姉さんもそうだと思うよ。家の為に三年も傷を負う旅をしたんだから、これからは自分の為に生きてね」
そう俺が言うと、姉さんは笑みを浮かべて「そのつもりよ」と言った。
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