第135話 【元工房長・3】
その後、リーザの父親はそのまま地面に寝かせたまま俺はリーザの祖父と挨拶を交わした。
「すまんな、見苦しい所を客に見せてしまって、儂はリーザの祖父のルバドじゃ」
「初めまして、冒険者のジンです」
「ジン……ああ、お主かリーザに特大サイズの金塊を売ったという冒険者は!」
ルバドは驚いた顔をしてそう言うと、リーザに「その本人なのか?」と聞いた。
その質問にリーザは頷くと、ルバドは「そうかそうかお主じゃったのか!」と俺の肩をバンバンと叩き嬉しそうな顔をした。
見た目から力が強いと思ってたけど、滅茶苦茶肩いてぇ! 多分、そんな力を込めてないと思うけど、手の大きさほぼ俺の頭と一緒で厚みも凄いある。
あんな手で普通に叩かれたら、そりゃ痛いに決まってる。
「爺ちゃん、ジンが痛そうにしてるからその辺にしなよ」
「んっ? おお、すまんかった! つい嬉しくなっての! 儂もリーザが金塊を探してるって聞いて、少し前まで色んな所を探しておったんじゃよ」
「そ、そうだったんですね。そのリーザのおじいさんは、リーザと凄く仲が良いんですね。親父さんとは違って」
そう俺が言うと、ルバドは「リーザのおじいさんって長いじゃろ、儂もルバドと気軽に呼んでくれ」と言われた。
「それで儂がリーザと仲がいいのは当然じゃ。あんな馬鹿な息子から生まれたとは思えんほど、鍛冶師として優秀な子じゃったからな、リーザが初めて作品を作ったのは5歳の時なんじゃよ。凄いじゃろ?」
「5歳で作品を作ったんですか!?」
「そんな凄くはないよ。作ったって言っても、力も技術も無いからただ子供ながら適当に作ったんだよ。爺ちゃんもその話は恥ずかしいから、もうしないでって言ってるでしょ」
「そう怒らんでも良いじゃろ……今でも大事に持ってるんじゃから」
そうルバドは言うと、バッグから短剣を取り出した。
その短剣を見たリーザは「なぁ!」と叫び、その短剣を取り上げようとした。
しかし、ルバドはサッと避けてリーザから短剣を取られないように隠した。
「爺ちゃん、何でまだそれ持ってるんだ!」
「そりゃあ、かわいい孫の初めての作品じゃからな。それも儂へのプレゼントじゃから、大切にいつも肌身離さず持っておるんじゃよ。どうじゃ、ジン。リーザは5歳でこれだけ良い短剣を作ったんじゃよ」
そう言って、ルバドは俺に短剣を見せてくれた。
ちょっと刃の部分がガタガタしていたりと、ちょっと不細工な感じではあるがこれを5歳で作ったと言われれば、凄い才能を感じる。
いや、というか5歳で鍛冶を始めたってリーザの才能、マジで凄いな……。
「ったく、爺ちゃん。なんでまだそんな粗末な物を持ってるんだよ……何個か爺ちゃんにはプレゼントしてるだろ、そっちを持っておけよ」
「んっ? ちゃんとリーザに作って貰った物は、全部持ち歩いておるぞ?」
ルバドはそう言うと、もう一つのバッグからいくつもの武器を取り出した。
あれって、もしかして〝アイテムバッグ〟か? この世界だと、収納スキルを持たない物が大金を払って買う収納用の魔道具。
それを普通に持ってるって、流石ガフカの工房長だっただけあるな。
その後、ルバドと俺とリーザは、工房の裏にある住居の方へと移動した。
気絶していたリブルはそのまま作業場に放置していると、起きた時に勝手に溶鉱炉を使いそうだからと、ルバドが担いで移動させてきた。
「凄い力持ちなんですね。鍛冶師っていうより、普通の戦士に見えますよ」
「引退した後に、体を鍛え始めたからの、そんじょそこらの剣士には負けない自信はあるぞ?」
フンッと鼻息を出しながら、ルバドは自身の筋肉を見せて来た。
さっき年齢を聞いたが、ルバドはまだ58歳と予想していた年齢よりも大分若かった。
鍛冶師を引退する位だから、かなり年齢がいってるのかと思ってけど、まだ50代だったとは驚いた。
「あれ、でも50代ならまだ現役でも続けられたんじゃないですか?」
「ガフカの工房の家訓の一つに、次の代の長が自分より才能があると感じたら引退すると決めてるんじゃよ。まあ、引退後も鍛冶をしなくなるわけでは無いが〝ガフカの工房長〟という名は譲る決まりなんじゃよ」
「成程、そういう家訓があるんですね。珍しい家訓なんですね」
そう俺は言った後、ふとそれならルバドさんはリブルさんに才能が負けたと感じて引退したのか、さっきのやりとりを見て気になってしまった。
「ジン、お主が考えてる分かるぞ、あの愚息に才能が負けて引退したのか、気になっておるじゃろ?」
「あっ、はい。顔に出てましたか?」
「うむ、出ておったよ。それでその話じゃが、まあさうじゃなあの愚息もあんな馬鹿な行動をしたが、鍛冶師としての腕はあるんじゃよ。リーザ程、天性の能力は無いが、そこらの鍛冶師よりかは上じゃ。ほれ、これがあ奴が現役でやっていた当時の作品じゃ」
ルバドの出したリブルの作品、それは普通の片手剣だがその造りは美しく綺麗な作りだった。
「性格はあんなダメ男なんじゃが、腕は確かにあったんじゃよ……どうして、あんな性格が出来上がったのかサッパリ分からんが……」
「父さんだけだもんな、あんな馬鹿な性格は頭でも打ったんじゃないかって家族で話し合った事もあったしな」
「うむ」
リーザの言葉にルバドは力強く頷き、「子供の頃は普通じゃったのにな……」と本気で考え込んでいた。
父親と娘からこうまで言われるリブルに、俺は少しだけ同情した。
【作者からのお願い】
作品を読んで面白い・続きが気になると思われましたら
下記の評価・ブックマークをお願いします。
作者の励みとなり、作品作りへのモチベーションに繋がります。




