第134話 【元工房長・2】
「こ、これが特大サイズの金塊を使った溶鉱炉……」
作業場に移動したリブルは、リーザの作った特大サイズの金塊を使った溶鉱炉を見て感激して近くに寄ろうとした。
しかし、リブルの襟首をリーザが捕まえ足を止めさせた。
「な、なにをするリーザ!」
「なにって、あたしの溶鉱炉に勝手に触ろうとするからでしょ、鍛冶はさせない。見せるだけよ」
「なっ! こんな素晴らしい溶鉱炉を見せるだけなんて、リーザ! お前はいつからそんな悪魔のような子になったんじゃ!」
リブルのその叫びに、リーザの雰囲気が一気に変わった。
あんな怒ってるリーザ、始めて見る。
ゲームでも基本的に口は悪いけど、怒る姿なんて一つも見せた事が無い。
そんなリーザが目の前で、父親相手に完全にキレてる。
「いつからって、父さんが私に少ないお金だけ残して居なくなった時からよ。確かにガフカの工房は代々、その工房長の腕で切り盛りするのが家訓。だけど、普通素材の材料費も全部持っていく馬鹿がどこにいるの?」
「あっ、いや旅の資金が必要で……」
「だからって、剣一つ分の金も残さずに? あの時、あたしの作品も売ってたから全部父さんのお金じゃなかったよね?」
うん、これはキレていい案件だな。
なんかリブルさんが助けを請う目で俺を見て来てるけど、流石に金を殆ど持って出て行った相手を他人が擁護する事はできない。
「あの時、爺ちゃんが残してくれてたお金が無かったらこの工房大変な事になってたの、父さんしらないだろ? 爺ちゃん達、父さん見つけたら顔の形が変わるまで殴るって言ってたよ」
「ま、マジ? 親父、ジジイになってから剣士みたいに剣振る様になって図体よくなってるから、殴られたら痛そうじゃ……」
「言っておくけど、爺ちゃん。父さんを説教する為、ここ数年は冒険者の真似事もして鍛えてるから覚悟しておくんだね」
そうリーザが言うと、リブルはガタガタと震え始め「リーザ、どうしたらいい……」とリーザに助けを請おうとした。
しかし、そんな親父さんの言葉にリーザは耳を傾ける事は無く「多分、もうそろそろ爺ちゃんくるよ」と一言言った。
そしてそれと同時に店の扉をノックする音が聞こえ、リブルはビクッと体を揺らした。
うん、なんて都合が良いんだろうな、もしかしてリーザが仕組んでたのか?
「リーザちゃん、お爺ちゃんが来たぞー」
「爺ちゃん、奥に居るから入ってきていいよ」
店の方から野太い男性の声が聞こえると、その声にリーザは作業場に来るように言った。
そんなリーザの言葉にリブルは、もう逃げられないと悟り、心なしか魂が抜けた状態となった。
しかし、リーザの親父に祖父か、ゲームでは見る事が出来なかった相手を目にする事が出来て、今日来て本当に正解だったな。
「んっ? そこで泣き崩れておるのは、愚息のリブルじゃな」
「お、親父……」
「ふんっ、娘に金すら残さず、自分が探していた物があると知ったらかえってきおって、なんて恥知らずなんじゃ!」
作業場へと入って来たのは、リブルよりも更にガタイの良い男性だった。
あれが元鍛冶師なのか? 見た感じ、屈強な男性で背中に大剣も背負ってるから普通に冒険者と言われても信じるぞ?
「ガフカの名に恥じない行動、それが我らガフカの子孫の掟なのは分かって居るはずじゃろ? それを何故、守らなかった?」
「そ、その金塊を探す為に旅に……」
「だからと言って、店の金を殆ど持っていく馬鹿が何処におる?」
その後、リーザの祖父はリーザの親父さんをボコボコにするまで殴り続け、リブルは気を失って床に倒れた。
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