第123話 【知らせ・3】
通信を終えた後、俺は椅子にもたれかかり溜息を吐いた。
姫様から聞いた内容だと、勇者の育成はかなり手間取ってるみたいだな……。
まあ、ゲームでも初期の勇者は〝勇者の証〟を持つだけのただの村人だった人間だから、この世界でも育成に時間がかかるのは仕方ないだろう。
「ジン、どうするんだ? さっき姫様から勇者について色々、言われてたけど協力するのか?」
「いや、勇者に直接近づきたくないから、やるなら装備の手配位だよ」
「……ジンさん、前から思ってましたけど何でそんなに頑なに勇者様と会おうとしないんですか? 普通は一目みたいと思いますよね?」
フィーネさんは俺の〝勇者に近づきたくない〟という考えに、疑問に思いそう質問をしてきた。
「なんとなく、ですね。正直、勇者なんて目立つ存在の近くに居たら、俺まで目立つでしょ? そしたら面倒な輩に見つかりますから、それが嫌なんですよ」
本当の所は、ゲームで勇者はジンを殺す存在。
そんな奴の近くに居たくないし、出来るなら俺は一生勇者とは関わりたくないと思っている。
だけど多分、それは難しいだろう。
現段階の国の力では、魔王軍との戦いに疲弊が溜まると押し切られてしまうだろう。
そうなると、王都は壊滅状態になるだろうし、そうなったら知人達が大変な事になる。
「ジン君の勇者様嫌いは今に始まった事じゃないですし、もういいんじゃないですか? それに勇者様とは会おうとしてませんけど、それなりに王国に協力してますし」
俺の勇者との関係を作りたくないという姿勢は、今に始まった訳ではない為、この事を知っているレン達はそういって話を終わらせてくれた。
その後、王都に戻る日程を話し合い、俺達はギルドを出た。
「皆、ありがとな」
「いいよ。ジン君が今まで私達にしてくれたことに比べたら、この位はまだまだ返し切れてないしね」
「フィーネさんも悪気があって言ってる訳じゃないって知ってるから、ジンも強く言い返せなかったんだろ? そう言う時の仲間でもあるからな、いつでも頼ってくれよ」
実際その通りで、レンの言葉に「ありがとう」と言って俺達はこの街の宿を探して、数日間契約を結びそれぞれの部屋で休む事にした。
ダンジョン内では、いくら安全地帯とはいえ緊張感をずっと持っていて、俺は心が休まる事は無かった。
だが街に戻って来て、その緊張感も解け、完全に休めるとなった俺はベッドに少し横になろうと思い横になると、スンッと眠ってしまった。
そして次に目が覚めると、完全に陽が落ちていて夕食の時間となり、レン達が起こしに来てくれた。
「危ね、もう少しで飯抜きになるところだった……」
「ジンは一番気を張ってたからな、仕方ない。起きないなら、寝かせてあげようって話もしてたんだが、大丈夫そうか?」
「ああ、少し横になって気分も落ち着いたよ」
そう俺は言って皆と一緒に夕食を食事をして、シャワーを浴びて部屋に戻って来た。
色々と良い訳をして、王都から出来るだけ離れようとしてたけど、そろそろ限界だな……。
勇者が現れてから俺は露骨に王都に戻る回数を減らしていて、それはクロエ達も分かっている。
既に数年、共にしてきた仲間達は俺の気持ちを大体理解してくれて、本来だったら勇者と知り合っていた方が得なのに俺に付き合ってくれている。
「仲間って本当にいいな……」
原作のジンなら絶対に言わないであろう言葉を俺は口にして、目を瞑り寝ようとした。
その瞬間、俺はある魔力を感じ取り、目をパッと開けて窓を開けた。
「入ってきていいですよ」
「……」
暗闇の中に声を掛けると、スッと外から人が入って来て手紙を置いてサッと消えた。
今の黒い奴は、姫様の〝裏〟の従者の一人。
本当に急な知らせの時に姫様が使う者達で、俺は渡された手紙をおそるおそる封を切り中を確認した。
「……おかしいだろ、何でもう四天王の一人が動いてんだ」
その手紙には、魔王軍四天王の一人が王都へと向かってきているという内容が書かれていた。
翌日、もう少し準備してから出発する予定だったが、流石に四天王が現れたとなれば話は別な為、急いで街を旅立ち王都へと向かう事にした。
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