第110話 【依頼終了・3】
「ちょっとした伝手でいくつか持ってるんだよ。そんな深刻な病気なら、使ってくれ」
「ッ! いや、お前それがどんだけ高価な物なのか知ってるのか?」
ああ、これが高価な品物くらいは流石にこの世界に暮らし始め、半年も経つから大体は知っている。
だけど、その価値以上に俺はリカルドの家族を助けてやりたいと思っている。
知ってる中だからというのもあるが、リカルドには一番最初家から出た時に依頼経由だが得体の知れない俺にあんな破格な依頼を受けさせてくれた恩がある。
「はじめて会った時、得体の知れないガキに破格な条件で依頼を出してくれたお礼だ。借りを放置してるのは嫌だったから、丁度良いから受け取ってくれ」
「……良いのか? 俺は本当に欲しいから、くれるんなら貰うぞ?」
「ああ、使ってくれ、それにまだ在庫はあるからな」
俺はそう言って更に三本、【異空間ボックス】から取り出してリカルドは呆れた様子で「凄い奴だな……」と言った。
その後、食堂の方を急遽休みにして俺はリカルドと共に宿の裏手にある民家の中へと入った。
そこは、リカルドとリカルドの家族が住む家、その家の二階にリカルドの奥さんと子供がベッドで苦しそうな表情をして寝ていた。
「最後に聞くが、本当に使って良いんだな?」
「ああ、さっき見せただろ? 良いから俺の事は気にせず、奥さんと子供に使いな」
俺がそう言うと、リカルドは軽く頭を俺に下げて奥さんと子供にそれぞれ一本ずつ【森の秘薬】を飲ませた。
すると薬の効果は直ぐに効いて、それまで辛そうに息をしていた二人が穏やかに息をするようになった。
そして顔中に出来てたブツブツも消えていき、綺麗な奥さんの顔と可愛らしい子供の顔がはっきりとみえるようになった。
「……子供は奥さん似だな」
「ああ、俺に似なくて本当に良かったよ。まあ、性格の方は俺に似てるけどな」
普段なら言い合いしてる所だが、今のリカルドは家族が元に戻った喜びでそれ所ではないみたいだ。
それから暫くして奥さんと子供が目を覚まして、リカルドはそんな二人を泣きながら抱きしめて、奥さん達も涙を流して抱き合っていた。
流石にこの場に居るのは気まずいな……。
そう思った俺は、リカルド達に気付かれないようにその場から消え、宿の方へと戻って来た。
「あれ、ジンじゃないか? ここにいるって事は、依頼は終わったのか?」
「ルークさん、お久しぶりです。はい、昨日終わって今日からまたこの宿で暮らす事にしました」
「そうだったのか、それなら先に連絡くれたら歓迎祝いも出来たのにな……って、そう言えばリカルドさんが居ないけど、何処か行ってるのか?」
「あ~、それなんですけど」
リカルドが居ない事にルークが気づいたので、俺はリカルドは家の方に用事があって行ってると伝えた。
ルークはそれを聞いて特に怪しむ様子も無く「そっか」と言って、それから部屋の方に行ったので俺も借りた部屋に入って落ち着く事にした。
「……それにしても、【森の秘薬】。ゲーム時代も効果は凄く良かったけど、この世界でも相当な効果のある薬だったな。正直、いくら知識として知ってるけど、どの程度治せるのか疑問に思っていたが、試せたのはいい機会だったな」
この世界に転生して半年、薬を試す事が無かったから、丁度良い機会だったな。
リカルドのゲームでは知れなかった家族の事も知れたし、薬を定期的に商人から買っておいて良かった。
これからも何かと必要になるだろうし、買える時に買っておいて損はないだろう。
正直、金があったとしても病に侵され倒れたら、治す術を持ってない場合は意味がないからな、そういった意味でも保険はかけておいて損はない。
「それにしてもリカルドの奥さん、滅茶苦茶美人だったな……子供もブツブツで顔が最初よく見えなかったから分からなかったけど、奥さんに似てかわいい女の子だったし……」
どうやってあのリカルドがあんな女性と出会えたのか、今後の知識として後でゆっくりと話を聞いておこう。
そう俺は考えながら、俺は横になると扉をノックする音が聞こえたので、ベッドから起きて扉を開けるとリカルドが居た。
「もう家族との話は良いのか?」
「いや、気付いたらジンが居なかったら探しに来たんだよ。俺の妻と、娘がお前にお礼を言いたいって言ってな、ちょっと来てくれないか?」
「折角、家族水入らずの時間を作ったんだけど……」
「ああ、お前の気遣いも気付いてたけど自分達を治してくれた相手にはお礼を言いたいって言われてな……」
すまんな、とリカルドは言いながら俺はリカルドと共に再びリカルドの家へとやって来た。
ついさっき薬のおかげで病が治った母子だが、あの薬の効果が凄いのか既に歩ける状態にまで回復していた。
「俺の妻のアイラ。そして娘のルリだ」
「はじめまして、宿で世話になってる冒険者のジンです」
リカルドに紹介される形で俺は母子と挨拶をすると、二人は涙を流して「ありがとうございます」と頭を下げた。
「もう本当に駄目かと思ってました。本当に、助けていただきありがとうございます」
「偶々、薬を持っていて自分はまだ使う予定も無かっただけです。それにリカルドには色々と世話になったので、それの恩を返せる時が来て俺も良かったです」
その後、リカルドは病気が治った奥さんと娘をルーク達に紹介した。
その際、約束通り俺が薬を持って来たと言う話伏せて、病が完治したからこれからは一緒に宿をするという事をルーク達に伝えた。
ルーク達はリカルドに美人な奥さんと、可愛い娘が居る事に終始驚いており、リカルドは散々弄られる事になり、その日は楽しい夕食の時間を過ごした。
【作者からのお願い】
作品を読んで面白い・続きが気になると思われましたら
下記の評価・ブックマークをお願いします。
作者の励みとなり、作品作りへのモチベーションに繋がります。