第103話 【ユリウス対アンジュ・2】
「はあッ!」
「くっ!」
剣術の型を変えたユリウスは、それまでの防戦一方だったのが一転して逆にアンジュを押している。
アンジュ、さっきまでのユリウスの剣術が違うせいで少し戸惑ってるみたいだな。
「へえ、思っていたより腕を上げていたのね。流石に教えられた剣術じゃなくて、自分で考えた剣術に進化させていたのね」
「まあね。さっきまでは、ちょっと昔の事を思いだして引っ張られてたんだ。こっちが私の本来の剣術。アンジュから見て、どうかな?」
「良いんじゃない? ……まあ、負けるつもりは無いけどね」
それからお互いに魔法は一切使わないというルールの中、全力で戦い続け、勝者が決まらず一時間が経過した。
「ジンさん、あのお二人はずって戦ってるんですか?」
いつまでも訓練場から戻ってこない俺達の事を心配に思ったフィーネさんは、心配した様子で観戦してる俺にそう声を掛けた。
「一度、おわりかけたんですけど、再開してからはずっと戦い続けてますね。正直、剣術でユリウスさんに勝てる人はこの国に居ないと思ってたんですけど、その認識が変わりました。剣術において、最強は多分アンジュさんですね」
この国で一番の剣士として〝剣聖〟の名を王から受け取ったユリウス。
そんなユリウスの剣の師匠であるアンジュは、勿論強いとは思っていたけどユリウス程では無いと戦う前は思っていた。
「ユリウスさん試合が始まった時、昔の剣術で勝負してて防戦一方だったんですよ。そこから今の剣術に変えて戦いを再開したんですけど……アンジュさん、力を隠してユリウスさんと戦っていたんですよ」
「えっ? ユリウス様相手に力を抑えていたんですか?」
「はい、俺もそれを見た時は目を疑いましたよ。それまでの動きも速かったんですけど、力を解放したアンジュさんはより速く動いてユリウスさんとの能力差を埋めたんです」
多分、レベルや能力値で言えば、ユリウスのが高いと俺は思う。
姫様の頼みで色んな魔物と倒し、更には冒険者以上に何処にでも入れる為、強い魔物と戦ってきた経験値はユリウスのが多いと思う。
しかし、そのレベル差をアンジュは剣術、そして多分何かしらの能力で差を埋めている。
アンジュは公式での資料設定にも書かれていなかったから、どんな能力を持ってるのか分からないが今までの戦いを見て〝神の加護〟は持っているとは思う。
「レイナからアンジュさんの強さはある程度、ジンさん達の試合前に聞いていましたが……まさか、剣聖であるユリウス様と互角にやりあえる力を持っていたなんて……」
フィーネさんはアンジュさんが自分が思っていた以上に力を隠していた人だと知り、驚いた顔をして二人の試合を見ていた。
その後、お互いに体力の限界を知らないのかずっと続けるので、レイナさんが「終わりです!」と言って強制的に終わらせた。
結果として勝敗は決まらなかったが、お互いに成長を感じていい笑顔を浮かべて最後は握手をしていた。
「いや~、アンジュが強い事は昔から知ってたけど、まさかここまで強くなってるとは思わなかったよ」
「何言ってるの? ユリウスに剣を教えた私が強くない方がおかしいでしょ? それにあの頃も、変な輩に目を付けられないように力を隠してユリウスに教えていたのよ?」
「えっ、そうだったの? でも、最後の方は姫様に認められるくらいに剣が上手くなった私を圧倒してたよね?」
「それが師匠と弟子の違いよ。弟子に悟られないように力を隠すのも、弟子への心遣いよ」
そうアンジュが笑みを浮かべながら言うと、ユリウスは「アンジュはやっぱりすごいね」とアンジュの頭に手を伸ばして撫でた。
そして一瞬、ユリウスに頭を撫でられたのに嬉しそうな表情をしたアンジュだったが、この場に俺やレイナさん達が居る事に気付いてサッと手を退けた。
「大人になったんだから、あの頃みたいに頭撫でないでよ……」
「あっ、ごめんごめん。アンジュ、頭撫でられるの好きだったからつい癖で」
そう笑いながらユリウスが言うと、アンジュは顔を赤く染めて「バカッ」とユリウスの肩を軽く殴った。
それからユリウスは試合を見ていた俺に、試合の感想を聞いて来た。
「正直、アンジュさんには申し訳ないんですけど、ユリウスさんが圧倒すると試合前は思ってました。その剣聖として色んな経験をしているし、剣術だって国最強と言われてるくらいなので……でも実際に戦ってるのを見て、その思いは間違っていたと分からされました。剣術に関して言えば、ユリウスさんよりアンジュさんの方が上だと感じました」
そう正直に感想を言うと、下と言われたユリウスは「ジンさんは正直だね」と笑みを浮かべながら言った。
「剣術だけって言われ方は癪だけど、今回は魔法とか他の事は禁止だったからそう言われても仕方ないわね」
「ふふっ、そういうけどアンジュは魔法は苦手じゃなかった?」
「……一応、あれから少しは出来るようになったわよ。まあ、戦う上で使うのは剣術だけだけど」
ユリウスの言葉に、アンジュは言い難そうにそう言った。
それから訓練場の使用時間も迫って来てるとレイナさんに言われ、俺達は相談室へと移動する事にした。
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