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姫いばら。





暗殺科のある校舎から出て、中庭に再び戻る。もうすでにサクラ王子達は移動したようで姿は見えない。



暗殺科から出て左側に、薬学科の校舎が見える。今さっき暗殺科の校舎でえらい目にあったと言うのに、女神様は次の攻略対象に会いに行くために容赦ありません。




幸いにもゲームの中にいるせいか、先程の足首の痛みもありません。顔面からダイブした為にめたくそ打ちつけた顔も問題なく。



今度は薬学科の校舎目指して、たったか参ります。



薬学科の校舎は、入った瞬間から中庭の花壇の花の香りとはまた違う香りがします。


中庭の花壇の香りが、


甘くて柔らか


なら。


この薬学科の香りは


爽やかで、軽やか。



そんな感じです。



薬学科の植物は花が薬になったり、葉が薬にもなり。さらにその根っこが薬にもなったりします。

ですので中庭の花壇とは違った癒しの空間がある感じです。




「わあ…」




思わず感嘆の声をあげるリコーリア。




植物園のようになっている、ガラス張りの建物の中に歩を進めていく。


光の入るその空間は植物の緑をより鮮やかにして、どこか別世界のよう。

ここを管理しているのは生徒だから、彼等が割と最近蒔いたであろう水の水滴が、花に葉に残って煌めく。 




中庭のように、多分上級生だろう生徒がちらほらみえる。暗殺科の殺伐としたあの雰囲気とはまるで違って、ここはなんというか…



ホッとする。  



先程暗殺科に人の気配がなかったのは、攻略対象の上級生リュウがちらと話していたように、常に罠やら仕掛けやらが生徒に対する試練かのように仕掛けられているのだろう。そして新入生歓迎会もかねて、新入生がどこまでやれるかを初日から確かめていたのかもしれない。


そう考えると、なんともこの空間はホンワカと和めるものだ。




なんと言っても、この中は清涼感のある香りが堪らない。

私が生きてた頃、大好きなアロマオイルがあって、それを寝る前には、少し危うい中毒者のようにスーハースーハーとしていたのだ。ゲームの世界でも、好きな香りがあったら、その趣味は続けていたい。




そんな事をつらつらと考えながら、初めに入ったガラス張りの植物園?から道なりに進んでまた別の外へ出た。



そこにはまた別の植物がたくさん植っている。



一際目立つ、花びらが淡いピンク色だけど、中央部分が紫色の薔薇の花が目に飛び込んできた。


誘われるように近づいて、この薔薇はどんな香りがするのだろうと手を伸ばしてーーーー…




「 何をしている!その花に触れるな! 」



「え?」



チクン。



ほんの少しだけ、その薔薇の棘が私の指に当たった。

薔薇に棘があるのはさすがにわかっているので、刺さらないように気をつけてはいた。


だが声をかけられた驚きで、ほんの少しだけ棘に指が当たったのだ、が。




「…え?」



ぐにゃりと視界が歪んだと思ったら、「おい!」という少し焦ったような声を最後に、私の意識はプツンと途絶えた。





ーーーー




そして、次に目を開けると。


私の顔を覗き込む男子生徒のドアップな顔が飛び込んできた。

スッとした顔立ちで、右眼に黒い眼帯をしている。片方の瞳は淡い藤色の、とても綺麗な瞳だ。その顔が、目を開けた私にホッとしているのがわかった。ああ、なるほど。彼が3人目の攻略対象か。



「あ、あの…私は倒れたんですか?…何故…」



手を貸してもらい、起き上がりながら、先程の状況を思い出す。 薔薇の棘が私の指に当たったのまでは覚えてる。その後意識が無くなった?たったそれだけだ。



男子生徒のコウは、はぁ。と溜め息をついて、面倒くさそうに話し始めた。



「この薔薇は、『姫いばら』という。特殊な方法で作られた品種で、棘には特別な毒があるんだ。」



「どっ……⁈ 」



毒っ⁈



驚愕に口をパクつかせていると、何を言いたいのがわかったように、



「毒とは言っても、死ぬ様なものじゃない。ほんの少しでも体内に入ると、ひと刺しで対象者を約100秒だけ完全に眠らせる効果があるんだ。」



「………。」




ー なにその中途半端な毒。何に使うんだ。ー





素直な感想しか浮かんでこない。





「しかもこの薔薇の棘は、ひと刺しで100秒眠らせるんだが、もしも薔薇の方に倒れていて何本も体に刺さっていたら、その分眠る事になるからな。面倒な事にならずに済んで良かった。」





ー 毒の効果が加算式って…。本当にどう使うんだこの薔薇…。ー





「この薔薇に刺されて、こんな所で数時間も眠られたら通路を塞がれて邪魔だからな。」


ふ、っとカッコよく笑われても、言ってるセリフが最低で、なんか全然入ってこないけどな?




ー …面倒って、そっちかよ。…そこは介抱を考えようよ…放置するんじゃなくて…。ー




と、遠い目で思う私とは違い、リコーリアは。





「…知らなかったとは言え、ご迷惑をおかけいたしました。ここの施設があまりにも綺麗だったもので…」



その言葉に、はぁ、と小さく溜め息を吐いた攻略対象。



「……見学なら、ガラス張りの植物園だけにしておけ。ここまで来ると、綺麗に見えてもほぼ毒のある植物しかないからな。他科の生徒がよく散歩がてらここに来ては、お前の様に巻き込まれる。気をつけろ。」






ー お、この攻略対象は注意してくれる。なかなかの好印象だぞ。ー





「は、はい。ありがとうございます。気をつけます。」


ぺこん。



「じゃあな」



と、くるりと踵を返した彼は。

体の向きを変えた時に。



「しまっ…」

「え?」




姫いばらの棘に手が当たり、倒れた時に薔薇側に倒れたため。数本の棘に刺された分、そこで約20分は意識を失っておりましたとさ。








ー スチル「ギャップ萌え?ドジクールな先輩」ー

ー 完了しました。ー





なんだコレ。自分で気をつけろって言っといて、自分で罠にハマるとか。それに、ギャップ萌えか?今の。




《コレで出会いイベントは終了ですね!さ、寮に戻って、キリーちゃんにどのように好感度が上がったのか見てもらいましょう!》




そう言って、私は薔薇の棘が刺さりまくって倒れている彼を放置して寮に戻る事になったのでした。

…介抱とかさっき考えてたけど、放置してゴメンよ、3人目の攻略対象のコウくん。私のせいじゃないからね?○ボタン押す女神様のせいだから。




そんな風に思いながら、私はたったかと自分の寮に戻ったのでした。






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